ドクターサロン

 山内 上條先生、カフェイン中毒は、時々話題になりますが、まだあまりなじみではないので、そのあたり、うかがいたいと思います。まず、初期の症状としてはどのようなものが出てくるのでしょうか。
 上條 カフェインを理解するうえで、同じ仲間のテオフィリンとセットで考えるといいと思います。どちらもキサンチンという基本骨格があって、テオフィリンはそこにメチル基が2つついたジメチル体です。一方、カフェインはもう一つよけいにメチル基がついたトリメチル体です。実はカフェインとテオフィリンは薬理作用的にも非常に近いのです。
 具体的にどんな薬理作用があるかというと、一つはアデノシンの非選択的な拮抗作用でA1・A2受容体を遮断します。あと副腎髄質からカテコラミンの遊離を促進したり、その分解を阻害したり、そういった作用が絡んで、カフェインもテオフィリンもどちらも中枢神経刺激作用があります。もともとアデノシン自体がbrain blood barrierを通過して中枢神経に入って、どちらかというとそれを抑制して眠気を誘発すると思うのです。また、どちらかというと心筋の働きを抑える作用なのですが、それを拮抗するのですから、先ほど言ったように、中枢神経に対して刺激するし、心臓に対しても刺激することになります。
 あとは、カフェインもテオフィリンも、気管支の平滑筋を弛緩させる気管支拡張作用もあります。さらにどちらも腎臓に作用して、利尿作用があります。それから、横紋筋に対する刺激作用もあります。我々のところに来る中毒の方は、短時間の間に一度にカフェインを過量摂取して来るのですが、そういった薬理作用が増強した結果、中毒症状を表します。
 山内 今のお話からいきますと、例えば中枢神経が刺激されるかたちだと、わかりやすい症状が出てくるのですね。
 上條 ほとんどの方の中枢神経症状として、一つは多分嘔吐中枢が刺激されるのだと思いますが、激しい嘔気・嘔吐が生じます。それからイライラしたり、落ち着きがなかったり、不安状態であったり、そわそわして、じっとしていられない状態になります。皆さん、通常、救急にはストレッチャーで運ばれてきて、その後、ベッドに移動するのですが、なかなかじっとしていられずに、体を持ち上げたりする状態になります。場合によってはかなり不穏・興奮状態になります。
 さらに、もっと重症になると、けいれん発作を起こします。テオフィリンの重症中毒の一番有名なのがけいれんやけいれん重積発作ですが、カフェインでの頻度は比較的低いです。ただ、小児の領域では比較的頻度が高く、けいれんも起こします。
 山内 かなり特徴的ですね。慣れていると、これはひょっとして、という感じになるのですね。
 上條 そうですね。特にカフェインの過量服薬の方というのは若者が多いですから、若い患者さんが激しく嘔吐したり、落ち着きがない、じっとしていられないといったら、我々はカフェイン中毒を疑います。
 山内 あと不眠も、当然出てくるのですね。
 上條 先ほど言いましたように、アデノシン自体はどちらかというと中枢神経の抑制性で、眠気を誘発するほうに働くのですが、カフェインはアデノシンの受容体の拮抗薬ですから、どちらかというと眠気を飛ばしてくれます。よくカフェインが入っている錠剤を眠気防止薬、だるさ防止薬という言い方をしますが、なかなか眠れない状態になってしまいます。
 山内 質問では片頭痛、鼻血についてとありますが、これはいかがでしょうか。
 上條 中毒で来る方は頭痛は訴えるけれども、片頭痛であるかというと、あまりそのような記憶はないのです。どちらかというと、治療してカフェインが体から抜けた後に片頭痛を訴える方が多いと思います。
 山内 離脱痛ですね。
 上條 もともと片頭痛のときには血中のアデノシンの濃度が高かったり、アデノシンを静注すると片頭痛が誘発されたりという話があります。どちらかというとカフェインはアデノシン受容体の拮抗薬ですから、片頭痛に対して治療的な作用があり、そういうものを抑えていたのが、薬が抜けて、離脱して片頭痛が起こるのは理解できると思うのです。
 山内 鼻血はあるのでしょうか。
 上條 これまでたくさんの急性カフェイン中毒の患者さんを見てきましたが、鼻血を出した患者さんの記憶はありません。
 山内 重症になると心臓への作用もあるようですが、どのような症状が出てくるのでしょうか。
 上條 通常、かなりの頻脈になりますが、それがひどくなってくると心室細動や心室頻拍など致死的な心室性不整脈をきたします。それがカフェイン中毒の主な死因です。先ほど言いましたように、テオフィリンと非常に似ていて、テオフィリンも同じような心毒性を発揮しますが、テオフィリンはどちらかというと中枢神経毒性によるけいれんやけいれん重積が問題になってきます。もちろんカフェインでも起こってきますが、カフェインはどちらかというと致死的な不整脈が死因になるケースが多いと思います。
 山内 それ以外にもカテコラミン作用的なものがあるかと思いますが、これでいろいろと血液の電解質等も変わってくるということでしょうか。
 上條 比較的多い血液検査上の異常の一つが高血糖です。我々がかなりの症例で血中濃度といろいろな血液データを比較して検討したところ、カフェインの血中濃度が上がると、血糖値に正の相関があることがわかりました。これは多分、β作用によってインスリンの分泌が抑制されるということが一つあると思います。そのほか、これは利尿作用も絡んでくると思いますが、低カリウム血症や低リン血症や低マグネシウム血症といった電解質異常が起きます。それから、筋肉が刺激されて、場合によっては横紋筋融解が起こるのですが、高クレアチンキナーゼ血症も一つの特徴的な所見になります。
 山内 かなり様々な症状ないし所見が出てくるのですね。こういった急性症状が出てくる中毒量の目安ですが、どのぐらいの量からでしょうか。
 上條 通常は数時間以内を目安に1g以上だと急性中毒を引き起こします。それから、100例ぐらいの患者さんを対象にした調査では、最低致死量が6gぐらいでした。
 山内 これは普通のコーヒーとか緑茶で、そのぐらいいくものなのでしょうか。
 上條 通常、カフェインを含んでいるコーヒー、お茶、チョコレートなどはだいたい1杯分当たり多くても100㎎、数十~100㎎ですから、短時間に50杯、60杯飲まないと中毒にはならない。それはなかなか難しいと思います。
 山内 そうですね。
 上條 だから、嗜好品から中毒になったり、致死量を摂取するというのはなかなかありえないと思うのです。ところが、錠剤というのは、小さな錠剤に1錠当たり100㎎入っていて容易に50錠、60錠飲めてしまう。私は救命救急センターで過量服薬の患者さんを調査したところ、だいたい運ばれてくる患者さんは平均すると110錠ぐらい飲んでいたのです。
 山内 そんなにですか。
 上條 カフェインの錠剤をそのぐらい飲んだら致死量です。どんなものでも、たくさん取れば毒になる。カフェインははるか昔から嗜好品として摂取されているのだけれども、それでも過剰に取ると毒になってしまいます。
 山内 いっときエナジードリンクがやり玉に挙がりましたが、今は錠剤と考えてよいのですか。
 上條 エナジードリンクが日本でかなり売り上げを伸ばしたのは2013年頃で、重症のカフェイン中毒者、致死的なカフェイン中毒者が救急に運ばれてくるようになったのとちょうど同じぐらいでした。我々は当初、もしかしたらエナジードリンクは過量摂取によって中毒を起こすのではないかと思って調査しましたが、実際に救急に運ばれてくるような重症例のほとんどはカフェインの錠剤でした。エナジードリンクの100mL当たりのカフェインの含有量はコーヒーやお茶類とそんなに変わらないのです。だから、エナジードリンクをたくさん飲んでもなかなか中毒、さらには死亡には至らないのです。
 山内 錠剤のほうは今、簡単に手に入るのですか。
 上條 そうですね。今、ドラッグストアでもネットでも容易に手に入るし、例えば1缶に100㎎入っているようなエナジードリンクが200円ぐらいです。ところが、1錠に100㎎含有している錠剤が1箱当たりに20錠、24錠入っているのですが、これもネットで数百円で買えてしまう。はるかに容易に幾らでも錠剤からカフェインが摂取できるのです。ですから、カフェインの錠剤というのは現代の危険ドラッグではないかと認識しています。
 山内 最後に急性期の治療を簡単にお願いします。
 上條 一番致死的になるのは心臓です。頻脈が延長して心室頻拍、心室細動になります。薬物療法としては、最初はβブロッカーを使います。βブロッカーを使うことによって頻脈を抑えたり、β作用による血管拡張を抑えて血圧を上げます。
 それでもだめな場合は、カフェインの分子量はそんなに大きくないですし、蛋白結合率も35%ぐらいであと分布容積が小さいです。要するに、組織に比べて血中や細胞外液に分布するので、血液透析法も非常に有効です。先ほど言いましたように、かなり嘔気、嘔吐、動悸がひどくて、落ち着いていられないような患者さんに、4時間ほど透析を回すと劇的によくなります。
 ただ、透析に至るまでの間に、なかなか致死的な不整脈がよくならない場合は、とりあえずVA ECMOを使って、心肺機能を補助した状態にして、そこで透析を回しています。多分現在の救急医療では、生命徴候がある状態で運ばれてくれば、どんな重症であっても助けることができると思います。
 山内 ありがとうございました。