「小児科」pediatricsで小さな子どもに英語で説明する際には「子ども特有の英語表現を使わないといけないのではないか」と考えていらっしゃる方が多いと思います。しかし実際にはそんなことはありません。大人の患者さんと同様に専門的な医学用語を使わず、一般的な英語表現で説明することでちゃんと小さな子どもにも伝わりますので、あまり「子ども特有の英語表現」に気をつかわなくても問題はありません。
ただ子どもの患者さんの場合、自己肯定感が高まるような表現を会話の中で頻回に使うように心がけるといいでしょう。診察に協力してくれたら“Good job!”や“That's amazing!”という表現を繰り返し使い、何かしようとしてくれた場合には“You did that really well!”と言い、たとえそれがうまくいかなかったとしても“That was a great try!”などと言ってあげましょう。また小さな子どもであっても「順番」の概念を理解していることが多いので、診察の際には「まずは先生の番だよ。よく見てね。じゃあ次は君の番だよ。やってみて」という表現がとても有効です。英語ではこれを“It's my turn. Watch me. Now it's your turn. You can try.”のように表現します。
生後1週間までの「新生児」は一般英語ではnewbornと表現します。new bornのように2語で表現する方が散見されますが、これでは名詞の「新生児」にはなりません。正しくはnewbornの1語ですのでご注意を。またnewbornにはneonateという医学英語もあり、「新生児集中治療室」のneonatal intensive care unitの略語であるNICUは「ニキュー」のように発音します。 生後1年までの「乳児」はinfantと呼ばれます。また1~3歳までは「よちよち歩く」ため、英語ではtoddlerと呼ばれます。そして「2歳児」は「かんしゃく」 temper tantrumを起こすことが多いためにterrible twoと呼ばれます。日本語の「魔の2歳」に相当する表現ですね。また日本語の「幼児」は「小学校就学前の小児」のことで、英語ではpreschoolersと呼ばれます。
小学校で学ぶ「児童」はschool-age childrenやgrade-schoolersなどと呼ばれます。日本では「10代の若者のことを英語でteenagerと呼ぶ」と思っている方が多いのですが、これは間違いです。英語でteenagerやteenと呼ばれるのは語尾が-teenで終わるthirteenからnineteen、つまり13~19歳までです。10~12歳まではteenagersとは呼ばないので注意してください。また日本では「厨二病(中二病)」というスラングがあるように「中学校2年生」には「思春期真っ只中の難しい年頃」というイメージが定着していますが、米国でも「中学校2年生」に相当するeighth graderには日本の「厨二病(中二病)」と同じようなイメージが定着しています。
「乳幼児健診」baby health checkupでは各種の「予防接種」vaccinationを実施するほか、小児の「成長」growthと「発達」developmentの確認が重要となります。「成長障害」は英語ではstunted growthや単にstuntingなどと呼ばれます。身体の機能が向上するdevelopmentの確認には、「発達の目安」となるdevelopmental milestonesが重要になりますが、これらの英語表現には注意が必要です。
生後2カ月のdevelopmental milestonesには「あやすと笑う」や「声を出す」などがあります。「あやすと笑いますか?」は「こちらの呼びかけに対して笑顔で応答しますか?」という意味ですので、“Does he smile responsively?”のような表現が自然です。また名詞としてはsocial smileという表現もよく使われますのでこちらも覚えておきましょう。そして「泣き声でない声を出しますか?」は“Does he babble/coo/razz?”のように表現します。
生後3カ月くらいになると「首がすわる」ようになります。「首がすわっていますか?」を英語では“Can he hold his head up when he is upright?”のように表現します。ここで気をつけていただきたいのが、この場合の「首」がneckではなくheadとなるということです。これと同じように成人の神経診察で「顔を動かさないで目だけで指を追ってください」という表現を使いますが、この場合の「顔」も“Follow my finger with your eyes without moving your head.”のようにheadとなりますのでご注意を。
生後4カ月になると「ガラガラをつかむ」grasping a rattleなど、細かい指の動きも発達していきます。動詞のgraspは「握る」というイメージですが、親指を使わない「熊手つかみ」にはrakeという動詞が使われます。そして親指を使う「つまみ」にはpincer graspという名詞が使われます。
「ガラガラ」は英語ではrattleとなりますが、「おしゃぶり」は国によって表現が変わります。米国ではpacifierと呼ばれますが、英国ではdummyという全く違った表現が使われます。また「ベビーカー」の英語表現にも気をつけてください。これをそのままbaby carと表現すると「小さな車」となります。英語では「ベビーカー」をstrollerなどと表現します。厳密に言えば「ベビーカー」にはpushchair, pram, and buggyのような種類があるのですが、strollerと表現すれば一般的に「ベビーカー」として認識されます。
生後5カ月くらいには「寝返りをする」ことができるようになります。「うつ伏せから仰向けに寝返る」と「仰向けからうつ伏せに寝返る」はそれぞれrolling over from front/tummy to backとrolling over from back to front/tummyと表現します。
生後6カ月くらいで与え始める「離乳食」にはweaning foodやbaby foodといった英訳が使われがちですが、英語圏で最も多く使われるのはsolid foodやsolidsという表現です。これらは実際には柔らかい食べ物ですが、「milk以外の固形物」という意味でsolid foodと呼ばれます。このsolidsに含まれる「柔らかいすり潰された状態の食べ物」のことをpureeと呼びます。これは日本語でも「ピューレ」としてお馴染みですが、英語では「ピューレィ」のような発音になります。
そしてこの頃になると「乳歯が生える」を意味するteethingが見られます。歯茎を貫いて乳歯が生えてくるため子どもは「ぐずる」ことが多くなりますが、これを英語ではgetting crankyのように表現します。このように乳歯が生えると様々な問題が出てきますので、「何か新しいことを始める際に生じてくる様々な問題」のことを英語ではteething problemsのように表現します。
生後6~7カ月では「人見知り」も現れます。名詞での「
生後7カ月で「おすわり」sitting unassistedが、8カ月で「ハイハイ」ができるようになります。この「ハイハイ」のうち、お腹を床につけるものをcrawlingと、そしてお腹が床から離れたものをcreepingと呼びます。
生後9カ月になると「親が声をかけながら幼児の身体を触って脳の発育を促す遊び」であるbaby brain playを行います。英語圏における代表的なものがpat-a-cake(「パティケイ」のように発音します)で、具体的には“Pat-acake, pat-a-cake, baker’s man. Bake me a cake as fast as you can; Pat it, roll it and mark it with a“B”, Put it in the oven for baby and me.”のように歌いながら幼児の身体を動かす遊びです。
10カ月では「つかまり立ち」ができるようになりますが、これはpulling to standと表現します。また11カ月には「つたい歩き」も可能となりますが、これは船に乗って移動するのと同じ動詞を使ってcruisingとなります。そして12カ月には「一人歩き」walking aloneが可能となります。 これらの表現を使えば1歳までのbaby health checkupはうまく乗り切ることができるはずです。もし使う機会があれば今回ご紹介した表現をぜひ試してみてください。