ドクターサロン

山内

小児のめまいは、そもそも訴えをつかむのが非常に難しそうな印象があります。子どもですから、めまいという概念が本当にあるかどうかも含めて、的確につかむにはどのようにしたらいいとお考えでしょうか。

藤本

おっしゃるとおり、「めまい」というのは患者さんの訴えになるのですが、お子さんの場合は成人と違い、自分でめまいであることを表現するのが難しい場合が多いです。また自分はめまいがすると言える年齢であっても、どういうときにめまいがするのか、めまいの性状がどうか、めまいと一緒に起こる随伴症状などはある程度年齢が上がらないと的確に言えないと思いますので、そのあたりはけっこう難しいところかと思います。

山内

めまいの原因ですが、大人と変わりはないのでしょうか。それともけっこう違うのでしょうか。

藤本

小児のめまい、平衡障害の疾患の構成は、成人とは大きく異なることが知られています。成人の場合は耳が原因の耳性めまい、すなわち末梢前庭性めまいの割合が多いです。例えば良性発作性頭位めまい症やメニエール病といった疾患が有名かと思いますが、小児の場合は耳性のめまいの割合がぐっと減ることが知られています。

小児の場合は、良性発作性頭位めまいと名前は似ていますが、別の疾患概念である小児良性発作性めまいや、片頭痛に関連する前庭性片頭痛、あと起立性調節障害、そういったものが多いと考えられています。

山内

今出てきました前庭性片頭痛は、あまり耳慣れない言葉ですが、これはどのような疾病なのでしょうか。

藤本

以前から片頭痛の一部の患者さんにめまいを伴うことが知られていました。片頭痛は小児に限らず、成人の女性にも多い疾患ではあるのですが、近年、片頭痛の病態に関連するめまいの疾患が「前庭性片頭痛」という新たな疾患概念として国際的に提唱され、現在は、この新たな疾患概念が定着しつつあるという状況です。

山内

非常に大ざっぱな話になりますが、前庭部をつかさどる神経と片頭痛をつかさどる神経がどこかで少しクロスするような、そのようなイメージと考えてよいのでしょうか。

藤本

片頭痛には三叉神経血管説などの病態仮説があるかと思いますが、イメージとしては、頭痛に関連する領域にそういった神経、血管の病変があれば片頭痛を起こすでしょうし、めまいを起こす前庭領域に神経、血管の病変があればめまいを起こす、そういったイメージで考えてよいのではないかと思います。

山内

いずれにしても、耳の局所のトラブルよりは頭や神経が絡むケースが多いような状況ですね。

藤本

末梢の耳の局所的な問題だけではなくて、そういった中枢と末梢、両方が絡むような病態と考えてよいかと思います。

山内

小児ならではといいますか、押さえておきたい特別な疾病としてはどのようなものがありますか。

藤本

小児のめまいに関しては、中枢性の疾患の比重が大きくなると考えられていて、てんかんや脳腫瘍といったものの可能性も考慮したほうがいいかと思います。ちょっと怪しいなと思ったら適宜該当する診療科の協力を求めるといった配慮が必要かと思います。

山内

検査も比較的難しいと考えてよいのですね。

藤本

おっしゃるとおり、小児の場合は検査をする側が患児に「こうしてください」と指示をするのはけっこう難しいので、できる検査が限られるといった難しさもあるかと思います。

山内

治療に移りますが、まずめまいをとめてあげるためにはどういった薬剤を使いますか。

藤本

小児のめまいはなかなか治療が難しいのが現状です。小児良性発作性めまいは、2~4歳の幼児に発症することの多い反復性のめまいで、意識消失はないめまいですが、成長するにつれてだんだん片頭痛に移行しうることが知られています。また前庭性片頭痛も片頭痛と関連しますので、その2つはめまいを予防する薬として、承認外ではありますがシプロヘプタジンを使用することが多いと思います。頭痛に対する対応としてシプロヘプタジンを使ったりしますが、めまいに対してもシプロヘプタジンを予防薬として使うことが実臨床では行われています。

山内

大人ですとよくベタヒスチンなどが出てきますが、こういった系統の薬はあまり使われていないのでしょうか。

藤本

どうしても小児の場合ですと、耳性の、耳からの疾患というのが少ないので、成人に対して用いるよりも頻度としては少ないと思います。

山内

片頭痛に関しては片頭痛の頭痛薬が導入されるのでしょうか。

藤本

片頭痛の頭痛症状に関しては、頭痛の発作薬や、頭痛の予防薬に対して比較的エビデンスレベルの高い治療法が確立されていますが、片頭痛に関連するめまいの症状に対する確立された治療は現状ありません。実臨床ではめまいの症状に対しても頭痛症状に対する治療を行っているのが現状で、めまい症状に対するエビデンスレベルの高い治療法を確立するためには、臨床研究が望まれる分野かと思います。

山内

片頭痛薬は大人に使われるものがそのまま使われているのでしょうか。

藤本

小児に対しては用量などの問題もあるので、成人量が使えるような小児では、大人と同じような対応ができるかと思います。

山内

あと、起立性調節障害ではミドドリンのようなものが使われていますが、こちらも小児が使って大丈夫なのでしょうか。

藤本

小児に関しては、ミドドリンは第一選択として使われているかと思います。

山内

最後に、リハビリというのはどういう解釈をしたらよいでしょうか。

藤本

めまいに対するリハビリテーションとしては、末梢前庭性、耳から来るめまいによって前庭機能の障害が生じて、めまいやふらつきを呈する患者さんに行う前庭リハビリテーションが挙げられるのですが、小児のめまい、平衡障害の疾患構成は耳性のめまいの割合が低いので、実臨床でいわゆる前庭のリハビリテーションを行う場は成人に比べてあまり多くないと思います。

山内

そうしますと、お子さんですから、例えば恐怖感などに襲われているかもしれず、また、親御さんのほうも、何だかわけがわからないという状態でしょうから、メンタルや説明といったあたりのサポートになってくるのでしょうね。

藤本

そうですね。特に起立性調節障害の場合は、ミドドリンの話も出ましたが、重症の方は朝、起床が困難で学校に行けないとか、そういったものを子どもの怠け癖や、学校が嫌いだという理由を原因として考える保護者の方もおられます。起立性調節障害は身体疾患であるという疾病教育や、あとは心理社会的な背景など、そういった面のアプローチも必要になる場合があり、適宜専門医を紹介するという配慮も必要かと思います。

山内

食事に関してはいかがですか。

藤本

起立性調節障害の場合は、病態の一つとして循環血漿量の低下が考えられますので、その改善を目的として水分を摂取したり、塩分を摂取したり、そういった生活指導を推奨するのが一つ考えられるかと思います。

山内

運動に関してはあまり制限がないと考えてよいですか。

藤本

運動は適宜行ってもいいと思いますが、急に起き上がるとか、そういった動作によってふらつきや立ちくらみといった症状が出たりしますので、そのあたりの配慮は必要かと思います。

山内

どうもありがとうございました。