ドクターサロン

池脇

先生は患者さんのしびれに対してどのようにアプローチされているのでしょうか。

榊原

まず患者さんが訴えるしびれというものはいろいろなものを含んでいる場合があります。感覚、その逆のものが運動になりますが、これすらもなかなか分けにくい場合も中にはあるようで、私たちのほうから例えば「握る力はどうですか」「足の運びが悪いようなことがありますか」などと運動面のことも一度はうかがいます。

ただ、「それは大丈夫だけれども、どうもしびれがある」とおっしゃったときに、今度はしびれが「高まる」と「低下する」というように分ける場合があります。例えば「高まる」のほうは、ビリビリ、ピリピリ、人によってはそれが強いと痛みと言う方もいると思います。とても辛い言い方になると、剣山で刺されているようだとおっしゃる場合があります。その逆で、感じが鈍い、例えば、まるで何か一枚皮をかぶっているような、手袋をしているような気がするとか、あとちょっと辛い言い方になりますが、知らない間に血が出ていたみたいなことをおっしゃる場合もあります。 高まる症状、低下する症状をひっくるめて一般にしびれと言う場合がありますので、これを一度は分けて聞くといいと思います。

池脇

ピリピリ、ジンジンという感覚の過敏や異常というタイプのしびれと、何かちょっと感覚が鈍いような感覚鈍麻のしびれと、しびれといっても範囲が広いのですね。

その後は、どこがしびれるとか、どういうときにしびれが強くなるかなどと展開していくような気がするのですが、どういうアプローチをするのでしょうか。

榊原

手足4本に同じようにしびれがあるのか体の中の分布をみます。例えば右手右足の半身にしびれが急に出たとなると、まれですが脳から原因が来ている場合がありえます。一方で、両手両足の場合は脳のほうはあまり疑わなくなります。一般にしびれが脳から来ることはあまり多くありません。意外な感じがするかもしれませんが、例えば手の場合は首よりも末梢、足のしびれの場合は腰よりも末梢の病気が原因であることが圧倒的に多いのではないかと思います。

池脇

頭が原因でしびれがくることはあまりないというのは、ゼロではないにしても、一般的にはそういうことが多いのですね。

榊原

そう言えると思います。

池脇

確かに何か急を要するようなしびれを見落とすのは、その患者さんのその後のクオリティにも関わってきますので心配ですが、もし頭の脳血管障害のしびれがあると、何かそれ以外の症状もおそらくあると思います。そのあたりをきっちりと把握し、とりあえず緊急性は高くないと判断したうえで、あとは先生が言われた分布がしびれの原因の同定にはとても重要なのでしょうか。

榊原

はい。もし4本の手足にしびれがある場合には、その進みぐあい、例えば数日で急に出てきたというと特殊な感じがしますし、実は1年、2年前から少しあったのが最近どうも強くなってきたというと、また病気が限られてきます。そういう経過をうかがうのも大事かと思います。

池脇

考えていく疾患群がしびれのタイミングと広がりと進みぐあいによってだいぶ狭まってくるのですね。

今回の質問はいつからしびれがあったのかについては書いていないですが、両手両足の末端、いわゆる手袋・靴下型で、でも糖尿病ではないというときに、何を考えたらいいのでしょうか。

榊原

実際には血液検査で糖尿病が見つかることが多いです。それがない場合は、お酒が原因であることが最も多く、お酒を飲む方の末梢神経障害は有名です。ほかにも多くの症状がみられますが、腎不全、腎障害など、腎臓を傷めてしまった場合にしびれが出ることも有名で、病歴と血液から調べていくといいと思います。

池脇

いわゆる大酒飲みのしびれというのは、例えば採血をするとたいがい肝障害、特にアルコール性の肝障害があることを予想していいのでしょうか。あるいは、そこは正常だけれども、実はお酒のほうからしびれていることもあるのでしょうか。

榊原

肝障害を持っていることのほうが多いと思います。ただ、ここで少し脱線すると、お酒の場合のビタミンB1欠乏が多いですが、胃の手術や、胃潰瘍を持っている方での、ビタミンB12欠乏も多く、ビタミンB1も同時に下がっていることはまれではないように思います。そのため、胃の病気は一度はチェックする必要もあると思います。

池脇

アルコールの背景以外にも、胃の手術後のしびれという可能性、あるいは胃潰瘍、慢性の胃炎によるビタミン欠乏からのしびれということもあるので、状況によってはそういった胃の検索も必要ということですね。

尿毒症のしびれの場合、腎不全があることはさすがに患者さんの情報としてわかっているので、診断を見逃すことはなさそうな気がしますね。

榊原

はい。あと、まれにギランバレー症候群の親戚で(本当はこの言葉は厳密には違うのですが)慢性炎症性多発ニューロパチー(CIDP)という病気があります。これは自己免疫の病気で、免疫治療ができる病気なので、やはり見逃さないようにしています。

池脇

実地医家もそういうものがあることを頭に入れたほうがいいですね。

榊原

はい。

池脇

今回の両手両足の末端のしびれに関して、糖尿病以外にはアルコールを含めたことを考えたうえで、それ以外の、おそらく何らかの原因がありそうなしびれにはどういうものが多いのでしょうか。

榊原

先ほど来の糖尿病が一番多く、その次がアルコールという順番ではないでしょうか。ごくまれに症状の出方はしびれだけではないですが、実は頸椎の病気の方が手足に、ちょうどglobe and stocking、手袋・靴下型のような分布で出る場合があります。ただ、その場合にはしびれだけではなく力のほうにも問題が生じていることが多くあります。あとは除外診断の最後に残ったものがストレスです。ストレスというのはいろいろな症状の出方をするもので、身体症状症という場合もあると思います。例えば、コロナワクチン接種直後からのしびれに対して、いろいろな検査をして、最後の最後にストレスが疑われるということが中にはあります。

池脇

ストレスによるしびれは、いろいろな場所に出るのでしょうか。

榊原

多くのパターンがあります。

池脇

専門医がいろいろな検査をしても何も引っかからず、どうもストレスかなとなると、その後は精神科に紹介になりますか。

榊原

よく手紙を書いたりもします。

池脇

しびれ一つ取っても、どんなしびれなのか、分布など、そういったところから見逃さないようにということですね。ありがとうございました。