ドクターサロン

池脇

慢性腎臓病、CKDに対するわが国で初めて承認された薬、SGLT2阻害薬に関しての質問をいただきました。クレアチニンが上がり始めたCKDの患者さんの腎機能に対しての薬剤がようやく日本でも承認されましたが、どうやって使っていったらいいのでしょうか。

まずは、なぜこのSGLT2阻害薬がCKDの治療薬として承認に至ったのか、その経緯を教えてください。

岡田

長らくCKDに対する治療薬としてはRA系阻害薬が中心となっていて、そのエビデンスが出たのが2000年代の初めです。SGLT2阻害薬が糖尿病の血糖降下薬として利用可能になって、20年ぶりに糖尿病性腎臓病に対する治療効果を持つ薬として、承認されました。そのエビデンスとして、SGLT2阻害薬の中のカナグリフロジンという薬が使用された大規模臨床研究であるCREDENCE研究で、18年ぶりに糖尿病性腎症に対する進行抑制効果が実証されたのです。

その次に、糖尿病性腎症に有効ならば、非糖尿病性の腎臓病にも有効ではないかということを実証しようと、ダパグリフロジンというSGLT2阻害薬を用いた大規模臨床研究であるDAPACKD研究が、糖尿病(-)の方を含むCKD患者を対象として行われました。その研究でダパグリフロジンが腎保護効果を示すことが報告され、糖尿病があろうとなかろうと、双方のCKDに有効であることが明らかになりました。そして日本人のCKD患者がかなり対象に含まれていたということから、その結果をもとに厚生労働省がCKDに対する治療薬としての承認をしたということになります。

池脇

日本には1,300万人ぐらいのCKD患者さんがいる中で、すべてではないにしても、そういう方々の腎機能の悪化を遅らせることによって透析患者を減らしたいという厚生労働省の思惑があるのでしょうか。

岡田

2018年に厚生労働省から出された腎疾患対策検討会報告書という、これからの10年の日本のCKD対策の指針では、2028年には現在の透析導入患者さんの1割減、3万5,000人まで新規透析導入患者数を減らすという目標を掲げています。そのためには、従来型の治療をしっかりとかかりつけの医師に普及させるのと並行して、やはり新しい、真に有効なCKD薬というものを開発、臨床導入していくことも重要です。ちょうど中盤に差しかかったこの時期にそういった薬が臨床で使用できるようになったということは、厚生労働省の2028年に向けての対策において、頼もしい追い風になったということです。

池脇

先ほどのダパグリフロジンの介入試験は、国際的に21カ国が参加して、アジア系が3割ぐらい、日本人も数百人入っていましたね。そういう介入試験でプラセボを使うとなると、いろいろな対象者のクライテリア、腎機能障害の程度や降圧薬の有無などがあると思いますが、どのような条件の方たちが組み入れられたのでしょうか。

岡田

まさしく20年前にACE阻害薬とARB、特にARBの糖尿病性腎臓病に対する有効性を実証した研究においてARBが投与されていた群の治療、つまりこの20年間ずっと行われてきた糖尿病性腎症もしくはCKDに対する標準治療群をプラセボ群にしています。そこにSGLT2阻害薬を上乗せすることによって現状の標準治療に対して有意に進行抑制効果を改善させる、そういったストラテジーで実証され、蛋白尿を伴う中等度のCKD患者さんを対象にしているので、末期腎不全の方や早期軽症例、また蛋白尿を伴っていない方は対象には含まれていませんでした。

池脇

介入試験は腎機能の悪化や透析の導入といったエンドポイントですが、この試験のエンドポイントはどこなのでしょうか。腎臓に特化しているわけでもないのですか。

岡田

腎臓に特化したものをプライマリーエンドポイントとし、具体的には透析導入、腎死、そしてクレアチニンの2倍化というものをハードエンドポイントにして、ダパグリフロジンがそれを有意に抑えたということになります。

池脇

従来のACE阻害薬、ARBでそういったものを抑えるのは10~20%だったように記憶していますが、たしかこの試験は44%でしたね。

岡田

20年前のARBが糖尿病性腎臓病のハードエンドポイントを抑制する効果がだいたい20~30%減で、複数のARBがそういう結果でした。今回のDAPA-CKDでは、40~50%近くのイベントを抑制できたということで、早期終了になっています。

池脇

効果があったということで、認可するほうも非常に説得力のある介入試験という印象を受けたと思います。通常、認可する側は、対象者が例えばARBを服用しているということだったら、それを条件につけそうですが、今回日本でこれをCKDの治療薬として承認した条件として、特にそういったARBを服用している方とか、蛋白尿がある方という縛りはないのですね。

岡田

大規模臨床研究、DAPA-CKDのエントリークライテリアがそのまま保険適用の基準にはならずに対象患者の縛りがほとんどなく、CKDの範疇に入る方はほぼすべてが対象になっています。

池脇

CKDの重症度がある一定以上の方は腎臓内科医が診ているにしても、日本には尿蛋白陽性の方がだいたい300万人、あるいはeGFRが45mL/min/1.73㎡未満の方は100万人余りいるということは、けっこうな数の患者さんを一般臨床医が外来で診ている。さて、私の患者にその薬を使っていいものかどうか。質問にもありますが、このあたりの線引き、判断を教えてください。

岡田

DAPA-CKDのエントリーは腎機能の下限がeGFR 25でしたので、eGFR 25未満の方への有効性と安全性は実証されていないのです。ですから、初めて使用されるCKD患者では、eGFR 25もしくは30以上の方のほうが安全です。それは有効性が実証されていないことに加えて、この薬は使い始めにGFRが減少します。イニシャルドロップといって、早期から糸球体内圧を下げるので、使い始めの2~4週にかけてGFRが下がる。血清クレアチニンでいえば上昇します。ですから、イニシャルドロップが残存腎機能に大きく影響してしまうような、残存腎機能が非常に少ない方に関しては使用に注意が必要だと思いますし、専門医と一緒に管理するほうがよいだろうと思います。

池脇

それ以外に、この薬の場合はケトアシドーシスの変動も特に高齢者では留意したほうがいいのでしょうか。

岡田

そうですね。フレイルやサルコペニアを伴うような栄養状態の悪い高齢者には、使用する際に注意する必要があると思いますし、できれば避けるべきだろうと思います。

池脇

ところで、この薬はどうして腎保護作用を持っているのでしょうか。

岡田

一つの薬剤で、もちろん糖尿病の方に関しては血糖のコントロールが改善するわけですが、血糖を尿糖によって排出することで、エネルギーバランスがマイナスになります。例えば肥満腎症やメタボリックシンドロームのような方に関しては、代謝面で改善が期待できますし、糖と一緒にナトリウムも排泄するので、ナトリウム利尿を介した体液量の減少による血圧の管理も良くなる。体重の適正化、降圧、血糖コントロールの改善といった、1剤でコンプライアンス良く、そういった多方面での生活習慣病に対する効果が期待できるということは、SGLT2阻害薬の強力なアドバンテージです。また糖尿病の有無にかかわらず、近位尿細管による尿中のブドウ糖吸収をブロックすることによって、同時にナトリウムの近位尿細管における吸収が抑えられて、ナトリウム利尿もかかる。そのナトリウムが遠位尿細管にたどり着いて、マクラデンサという部分に大量に流入すると、腎臓は糸球体で尿を作り過ぎている、ナトリウムの排泄が過剰であると判断して、糸球体の内圧を下げて原尿の生成を減らすことから蛋白尿も減るのです。これが先ほどお話ししましたイニシャルドロップの機序です。

もう一つ、近位尿細管でブドウ糖とナトリウムの再吸収を抑えるということは、近位尿細管の仕事を減らしてくれるのです。そうすると、酸素需要が減ります。それはつまり、CKDの進行によって血流が乏しくなって、酸欠状態にある腎臓の酸素需要を減らすので、低酸素に対する腎臓の抵抗力を増やす。SGLT2阻害薬にはそういった原病を問わない、CKD全般に関わっている低酸素状態に対する腎臓の保護作用を介して、広くCKD全般に効果があるのではないかと期待されます。

池脇

ありがとうございました。