大西 まず、この亜急性甲状腺炎というのはどのような病態なのでしょうか。
間中 亜急性甲状腺炎は、甲状腺に痛みを生じる病気の一つで、甲状腺の痛みや発熱、および甲状腺中毒症、甲状腺ホルモンが上昇するといった病気です。熱が出て首が痛いといったことで来院して、比較的甲状腺の病気を見ている看護師さんだと、専門医に割り振ってくれるようなことがよくあります。
大西 発症のきっかけみたいなものはわかっているのでしょうか。
間中 ウイルス感染の先行が多いことが知られていて、事前にちょっと風邪っぽい症状が出てから甲状腺の症状が出るといったことが知られています。中高年の女性に多くて、女性のほうが男性に比べて7倍ぐらい多いとされており、若年ではほとんどないことが知られています。最近ではコロナウイルス感染症の後や、ワクチンの後で発症したような症例の報告もあります。
大西 やはり免疫系がかく乱されるのでしょうか。
間中 HLAが少し関連している病気で特定の型のHLAに多いことも知られているので、免疫と関連のある病気だと考えられています。
大西 それでは、臨床の現場でどのように見つけたらいいか、そのあたりのコツを教えていただけますか。
間中 首が痛くて、熱が出てといったときに、甲状腺の触診をしていただくのが非常に有用と思っています。この疾患は痛みが強い病気なので、かなり痛がるのですが、そこはお願いして甲状腺の触診をさせていただくと、「本当にさわるのはやめてくれ」というぐらいの痛みが出ることが多いです。
甲状腺が痛いということを診察上考えた場合には、私たち専門医は超音波の検査を行うことで、この病気なのか、またほかの甲状腺に痛みを伴うような病気なのかを考えます。例えば甲状腺にもともと結節や囊胞があって、そこに出血したり、あとはだいたい12歳以下が好発年齢で、20歳以上はほとんどいない、すごく若年で起きる病気で、急性化膿性甲状腺炎といった、甲状腺と甲状腺の外側に炎症を起こす病気があります。
大西 超音波の実際の画像では何か特徴的な所見があるのでしょうか。
間中 超音波では甲状腺の痛い部位に一致して低エコーの領域が見えて、そこが非常に痛い。ピンポイントで低エコーの領域が見えることが知られています。一方、囊胞の出血なども超音波でよくわかり、かなり緊満した囊胞が見えて、たまに中にちょっと泥状になったような血液などが見えたりすることもあります。
また、急性化膿性甲状腺炎に関しては、甲状腺の中だけではなくて、外にも炎症が及んでいるので、超音波を見ると、甲状腺の中におさまっているか、外まで炎症があるのかといったことで、それなりに鑑別がつきます。また急性化膿性甲状腺炎は先ほど言ったようにかなり若年に多いといったことと、左側がほとんどを占めるので、その辺で鑑別がつくと思っています。
大西 画像的に例えば未分化がんなど、がんと紛らわしい場合もあるのですか。
間中 かなり全体的に甲状腺が腫脹していて、全体的に低エコーといった画像を呈することもまれにはあり、そういった場合は未分化がんが鑑別に上がることがあります。あとは有痛性の橋本病、橋本病の急性増悪なども鑑別に上がることがあり、私たちもそういった症例の細胞診をしたことがありますが、炎症細胞が見えるだけという結果でした。
大西 実際の検査所見といいますか、ホルモンですね、最初はかなり甲状腺の機能が亢進しているような検査所見になるのでしょうか。
間中 甲状腺というのは甲状腺ホルモンを作る場所でもありますが、かなりため込んでいるので、炎症が起きて甲状腺が壊れることで甲状腺ホルモンが漏れ出すことが起き、甲状腺中毒症、甲状腺ホルモンが多くなるといったことが見られます。ただ通常、甲状腺ホルモンの結果がその場ですぐに確認できることはそんなに多くないので、熱が出ていて、かなり脈が速いといった身体所見はすごく重要かと思っています。
一方で、囊胞内や結節での出血や、急性化膿性甲状腺炎であまり甲状腺中毒症、甲状腺ホルモンの上昇は見られないといったことが知られています。
大西 CRPや白血球などの炎症所見はいかがでしょうか。
間中 亜急性甲状腺炎ではCRPや白血球は上昇しますし、また血沈が著明高値になることが知られていて、しばしば検査として使われると思います。
大西 何らかの自己抗体のようなものは出ないと考えてよいですね。
間中 甲状腺の自己免疫疾患、橋本病と関連するような、同じく甲状腺を破壊するような病態もありますが、それは無痛性甲状腺炎といって、甲状腺の痛みはあまりありません。無痛性甲状腺炎も広く甲状腺中毒症で鑑別に上がる病気の一つになります。
大西 それでは、実際の治療について教えていただけますか。
間中 痛みが強いので、まずはNSAIDsなどでの疼痛の除去が基本になります。それに加えて、脈が速いとか、そういったものを調整してあげるためにβ遮断薬を使うこともあります。かなり疼痛が強い場合にはプレドニゾロンを使うと速やかに疼痛は良くなるので、プレドニゾロンをだいたい15~30㎎から開始して、1~2週間ごとに減量して、6週間ぐらいでやめていくというのが一つの方法としてあります。
ただ、プレドニゾロンの減量の過程でわりとまた再燃してくることも多いので、再燃した場合にはもう一度プレドニゾロンを増量し、そこから減らし直すといった必要があります。
大西 予後は一般的には良いと考えられているのでしょうか。
間中 予後は一般的には良くて、ほとんどの場合は数カ月以内には改善します。一部の症例では数カ月後には甲状腺機能低下症になってしまうような症例もありますので、良くなってからもきちんと甲状腺ホルモンが最終的にどれぐらいの値で落ち着くのか、甲状腺の実力がどの程度なのかといったことを確認するために、甲状腺中毒症が改善したあとも3カ月ぐらいは経過を見てあげるといいかと思います。
まれですが、10年、20年といった長い経過で見ていくと、50人とか100人に1人ぐらいは同じ症状を出す人もいるといわれています。
大西 先ほどかなり痛くて硬いというお話が出ましたが、場所はけっこう動く場合もあるのですね。
間中 そうですね。Creeping thyroiditisという言葉もありまして、這いずり回るという意味になりますが、初めは右側が痛かった。数日後には左側も痛くなる。さらにまた右側も痛くなるといったように、あちこち経過の途中で痛くなることがあります。治療を開始するときには、あらかじめそういった経過が予想されることを患者さんに説明してあげるといいかと考えています。実際、痛みが別のところに出てくるとかなり不安になるようです。診断は正しかったけれども、そういった話を聞いておらず、痛みが別のところに出てきてから私たちのところに来て治療を開始したという方も何人かいます。
大西 治療でステロイドを使う場合もあるということでしたが、ステロイドを使うときに少し我々は躊躇があって、どういうときに使ったらいいかというのを迷う場合もあります。痛みや臨床症状の強さで判断してよいのでしょうか。
間中 痛みが相当強くて本当に動けないとか、NSAIDsを使ってみて痛みがやはり強いといったときにプレドニゾロンを使い始めるのが一般的かと思います。
大西 軽症の場合はNSAIDsでも十分経過良好な場合も多いのでしょうか。
間中 基本はまずNSAIDsで経過を見て、本当に痛みが強い場合にプレドニゾロンを使うといったことで対応しています。どちらにせよ、プレドニゾロンを使ったから予後がいいといったことはないので、症状に応じてどちらを使うか決めていただければいいかと思います。
大西 ウイルス感染が先行する場合が多いということですが、HLAの関連のことをもう少し教えていただけますか。
間中 報告されているHLAとしては、HLA-BW35とHLA-B67といったものの関連が報告されていますが、通常外来で診た方のHLAをわざわざ測るということがないので、これに関してはそういう話がある、といったぐらいになると思います。
大西 中年の方が多いというのは何か背景があるのですか。バセドウ病は若い方が多いかと思いますが、この疾患の場合、中年の方が多いのですね。
間中 この疾患はだいたい30~50代に多いといわれていますが、若年でこの疾患が多くない理由に関しては特に知られていません。
大西 やはり圧倒的に女性が多いと考えてよいですね。
間中 はい。男女比は1対7程度になります。
大西 特に諸外国と比べて日本の特徴みたいなものはあまり知られていないのでしょうか。
間中 諸外国の頻度とか、そういったものに関して特別なことはいわれていません。日本の頻度に関しての研究を見たことがないのですが、生涯有病率はおそらく1,000~4,000人に1人ぐらい、数千人に1人ぐらいの頻度というのが実感です。
大西 どうもありがとうございました。
日常臨床にひそむ内分泌疾患と最近の話題(Ⅱ)
甲状腺③ 亜急性甲状腺炎
東京大学腎臓・内分泌内科助教
間中 勝則 先生
(聞き手大西 真先生)