大西
バセドウ病、甲状腺機能亢進症ですか、その病態がどんなものなのか、教えていただけますか。
小林
バセドウ病は、甲状腺ホルモンが体の中の甲状腺でたくさん作られてしまう病気です。甲状腺ホルモンは代謝を上げる作用があるため、それがたくさんあることによって、動悸、発汗、息切れが起こったり、代謝が上がり過ぎて体重が減ってしまったりします。
大西
臨床の現場で甲状腺機能亢進症やバセドウ病を見つけるには、どういった点に注意したらよいでしょうか。
小林
症状ですと、動悸とか、脈が速いとか、あとは体重が減っているかどうかです。健康診断でコレステロール値が低いことで紹介されてくる方も多いです。
大西
女性が多いと考えてよいでしょうか。
小林
そうですね。男女比1対5ぐらいといわれていますので、若い女性に多い病気です。
大西
男性のバセドウ病は多くはないのですが、どういう点に気をつけたらよいでしょうか。
小林
男性の場合も、そんなに症状に差はないと思います。ただ、女性にはなくて男性にたまに認められるものに周期性四肢麻痺というものがあります。暴飲暴食などをした後にカリウムの値が下がってしまって、筋肉の力が落ちて、動けなくなってしまうことで見つかることがあります。
大西
ご高齢の方にも一部いらっしゃるのでしょうか。
小林
そうですね。ご高齢で発症される場合には、なかなかわかりにくいです。バセドウ病は甲状腺が免疫的に腫れてくる病気なのですが、高齢の方ではあまり甲状腺が腫れず、動悸や頻脈などの症状が出にくい方が多いです。食欲がなくなり体重が減ってしまったことで見つかる方もいますので、どうも体調が悪い、という方にはバセドウ病の可能性も考えて検査をしてみるといいかもしれません。
大西
検査はどのように進めていったらよいでしょうか。
小林
採血の検査を行います。甲状腺のホルモン、Free T3、Free T4、TSHという甲状腺のホルモンの検査をします。さらに、バセドウ病は自己免疫的な病気で、甲状腺の膜の受容体に対する抗体ができる病気のため、バセドウ病に特異的な抗体の検査をします。それで甲状腺のホルモンが明らかに多くて、今言った抗体が高いようでしたら、厳密な診断基準ではほかにも検査が必要ですが、それで診断となります。
大西
画像検査が役に立つ場合もあるのでしょうか。
小林
そうですね。甲状腺が腫れることが多い病気ですので、超音波の検査をします。甲状腺が腫れていたり、甲状腺の血流が多いというのが特徴的な所見です。
大西
最終的な確定診断というのはどのようにつけるのでしょうか。
小林
厳密な診断基準ではアイソトープ検査というものをしなくてはいけないのですが、現実的には甲状腺ホルモンが多いことによる症状がまずあって、甲状腺のホルモンのFree T3、Free T4が高く、脳の下垂体から出てくるTSHというホルモンが低く、さらにバセドウ病に特異的な抗体であるTRAb、TSH受容体抗体が十分高ければ、ほぼそこで診断ができます。
大西
鑑別診断で気をつけなければいけない病態はありますか。
小林
無痛性甲状腺炎というものがあります。バセドウ病と同じように甲状腺ホルモンが高い病態なのですが、バセドウ病は甲状腺ホルモンが長く作られ続ける病気です。無痛性甲状腺炎は甲状腺になぜか破壊が起こり、甲状腺ホルモンが漏れ出ている状態です。通常は3カ月以上ホルモンが高い状態が続くことはありません。なので、ほうっておけば自然によくなります。
バセドウ病との鑑別はTSH受容体抗体が陰性かどうかと、場合によってはシンチグラムで行います。無痛性甲状腺炎の方にバセドウ病の治療をしてしまうと、甲状腺ホルモンが高い状態がおさまったあとに甲状腺機能低下症が強く出てしまうことがあります。バセドウ病の治療薬には副作用もあるので、必要がない方には薬を投与してはいけません。最初の段階でバセドウ病なのか、無痛性甲状腺炎なのかの鑑別をしっかりすることが大事だと思っています。
大西
治療の話に移りますが、まずは内服治療が適応となるのでしょうか。
小林
バセドウ病の場合は、抗甲状腺薬という甲状腺ホルモンの合成を抑えるような薬をのんでいただくのが基本的な治療です。
大西
具体的に初期量にはガイドラインみたいなものがあるのでしょうか。
小林
甲状腺ホルモンの採血の結果に応じてだいたいの量が決まっています。
大西
例えば、チアマゾールを使われると思いますが、目安はあるのでしょうか。
小林
ある程度あります。一番新しいガイドラインですと、例えばチアマゾール単独で治療をする場合と、そこにヨウ化カリウムという薬を組み合わせた治療をする場合もあります。チアマゾールは、今は投与の初めの頃は15㎎ぐらいまでしか使わないことが多いです。あまり甲状腺のホルモンが高くない方の場合には15㎎よりも少ない量で始めます。
大西
チアマゾールで治療を開始すると、時々顆粒球がかなり下がるということがいわれているかと思いますが、どのあたりで起きやすいのでしょうか。
小林
ほとんどは、のみ始めてから2カ月以内といわれています。一番多いのは1カ月ぐらいですが、のみ始めて2カ月間は注意が必要です。急に38度、39度ぐらいの熱が出てしまいます。最初のどが痛くなって、風邪のような症状で始まることが多いので、そういったときには気をつけておく必要があります。
大西
検査でもしそれが見つかった場合は、その後の対処はどのようにしたらよいでしょうか。
小林
大事なことは、医療機関に必ず連絡をいただくことです。チアマゾールは早くやめるべきです。あまりにも顆粒球数が少ない場合には顆粒球を増やす薬を投与する場合があります。常在菌が体に悪さをして敗血症を起こすことがあるので、必要に応じて抗生物質の投与なども行っていきます。
大西
治療は少し時間がかかる場合が多いかと思いますが、長期的にどのように治療して、最終的には減量してやめていくのか、その辺の目標みたいなものはどう考えたらいいでしょうか。
小林
甲状腺ホルモン、Free T3、Free T4が正常になるところをまず目標にして、正常近くになってきたら薬を減らしていきます。甲状腺機能さえ正常であれば、副作用が起こらない限り普通に生活ができる病気です。だんだん減らしていって、例えばチアマゾール15㎎から始めた場合は、5㎎まで減らし、その後は1日おきに5㎎ぐらいまで減らせる方は減らして、半年以上のんだところで、さらに抗体も陰性だったら中止を考えたりします。少なくとも2年間ぐらいは薬をのむと思っていただいたほうがいいと思います。
大西
ぶり返される方もたまにいらっしゃいますよね。
小林
はい。たまにではなく、けっこう多くいらっしゃいます。半分以上がぶり返すと言われています。バセドウ病と診断されると、残念ながら完治はあまりないと考えていただいて、付き合っていく病気と考えていただいたほうがいいです。
大西
内服治療以外の治療もあるかと思いますけれども、そのあたりについて教えていただけますか。
小林
内服治療以外の治療は、根治治療といいます。アイソトープをのむアイソトープ治療と、甲状腺を取ってしまう甲状腺摘出術があります。甲状腺摘出術は、本当に文字どおり甲状腺を外科的に取ってしまうもので、これは甲状腺がすごく大きな方や、甲状腺に悪性腫瘍がある方などが対象となります。アイソトープ治療は比較的どなたにでも行うことができるのですが、注意点として重症のバセドウ病眼症がある方や、近く妊娠を予定されている方は行うべきではありません。アイソトープ治療をしたら、少なくとも半年、通常は1年ぐらいは避妊をしていただきます。
大西
かなり有効率は高いと考えてよいでしょうか。
小林
そう考えております。米国などではアイソトープ治療をよくしていると聞いています。
大西
逆に少し低下していく場合もあるわけですね。
小林
そうですね。こういった根治治療で“治す”のはなかなか難しいです。手術は甲状腺を取ってしまうので、必ず甲状腺機能低下症になって、甲状腺ホルモンの補充療法が必要です。アイソトープ治療でも、全く何ものまなくてよいという状況までいく方はあまり多くなく、5年間ぐらいで3~4割ぐらいの方が機能低下症になってしまうといわれています。反対にもう一度治療が必要な方もいます。
大西
どうもありがとうございました。