池田
森尾先生、PFAPA症候群とはどんな病気なのでしょうか。
森尾
横文字ですので、なかなかイメージがつきにくいと思いますが、周期性発熱を主体とする病気で、略語としては加えてアフタ性口内炎、咽頭炎、頸部リンパ節炎などを伴う症候群をPFAPA症候群と呼んでいます。
池田
PFが周期性発熱、Aがアフタ性口内炎、Pが咽頭炎、Aが頸部リンパ節炎ですね。
4つの症状がありますが、イメージとして周期性発熱にアフタ性口内炎、咽頭炎、リンパ節炎、これらは全部一度に出てくるのでしょうか。
森尾
周期性発熱は全例で、咽頭炎、扁桃炎は9割ぐらいの方が症状を示されて、頸部リンパ節腫大が6割ぐらい、アフタ性口内炎が5割ぐらいです。同時にすべて出る方もあれば、何回かの周期に1回、アフタ性口内炎を認めるという方もいます。
池田
その全部が出るわけではない。ある症状は出やすいけれども、ある症状はほとんど出ないなど、複雑な状態ですね。診断のときに一番頼りになるのが症状だと思いますが、症状がまちまちな感じですね。診断はどのようにされるのでしょうか。
森尾
最初の発熱は、小さい頃に発症することが多く、平均3歳ぐらいで最初のエピソードがあるといわれています。最初は咽頭炎、扁桃炎ではないかと受診するのですが、ウイルスもばい菌もつかまらない。また周期的に発熱を起こすということで疑われる方が多いです。
池田
最初の症状だったら、最近であればコロナやインフルエンザを疑ってしまいますね。
森尾
はい。
池田
ポイントは周期性に繰り返す発熱なのですね。
森尾
はい。
池田
この周期はどのくらいなのでしょうか。
森尾
これが大切で、3~8週おきというのですが、平均が4~5週に1回と思っていいと思います。熱の期間が3~6日。平均が4~5日と思っていいと思います。4~5週に1回、4~5日間39度以上の発熱がある方、こういう方が典型的です。
池田
1カ月強で1週間弱、39度以上発熱するのですね。しんどいですね。そういう経過があるとPFAPA症候群を疑うということですね。
森尾
そうですね。そういう周期を何回か繰り返されると、これはPFAPA症候群ではないかと疑います。
池田
それに加えて先ほどのアフタ性口内炎やリンパ節炎、咽頭炎ということですね。
森尾
はい。先ほどの質問のように、コロナやインフルエンザではないことも重要ですし、あとは例えば周期性好中球減少症やほかの自己炎症性疾患ではないことをしっかりと確かめていくことが大切です。
池田
その辺の鑑別はやはり専門医でないと難しいようですね。
森尾
そうですね。ほかの自己炎症性疾患ですと、例えば胸の痛みや、発疹、関節炎などがあったりするのですが、このPFAPA症候群だと、あっても非常に軽度であるといわれています。ただ、この辺は一度専門医に診てもらったほうが無難ではないかと個人的に思っています。
池田
先ほど一般の感染症も否定しなければいけないということでしたが、採血など一般の感染症と比べて有意差が出るような検査はあるのでしょうか。
森尾
発熱を起こしたときにCRPはかなり上がっています。血清アミロイドAなども上がるのですが、最近プロカルシトニンが測られ始めましたが、これが上がらなければ感染症ではないことが証明されます。でもあまり測らないと思います。
池田
一つプロカルシトニンの上昇があるかないかも参考になるのですね。
森尾
はい。あと発作がないときは、熱もなく完全に無症状で、炎症反応も認めない。これも特徴です。
池田
オン、オフがすごくはっきりしているのですね。
森尾
おっしゃるとおりです。
池田
気になるところは、家族性があるかどうか、あるいは何か遺伝的素因はあるかですが、そのあたりはいかがですか。
森尾
お子さんの親御さんの話を聞くと、「私も小さいときに周期性の熱を出していた」という方が3~5割いるといわれています。親がPFAPA症候群だったという方も1割ちょっとぐらいいるという論文もあります。
池田
半分の方は遺伝的な背景があるだろうということですか。
森尾
はい。ただ、遺伝子がわかっていないのです。
池田
遺伝があるような方は、どちらかというと常染色体顕性遺伝ですか。
森尾
そういう方が多いですね。
池田
39度以上が4~5日というのはたいへんなことだと思います。治療はどのようにされるのでしょうか。
森尾
承認外ですが幾つかの方法がありまして、予防的な方法としてはシメチジン、H2ブロッカーを用いると、3~6割ぐらいで有効だといわれています。これは量が大切で、体重当たり15~20㎎を分2で使っていただく。そのくらいの量が必要だといわれています。
池田
熱のないときからのむのですか。
森尾
そうですね。ずっとのんでいただくことになります。
池田
これをのんで3~6割ぐらいはいいという感じですが、それでもだめな方にはどのようにされるのでしょうか。
森尾
発作のときにステロイドが有効で、これが診断の一つの判断になるともいわれています。だいたい頓用でプレドニゾロン換算で体重当たり0.5㎎を使っていただくと大半の例で解熱するといわれています。
池田
解熱したらすぐやめてしまうのですか。
森尾
1回使って、怪しければ同量を12時間後や24時間後に再投与して、熱ごとに使うというイメージです。
池田
診断がついていて、シメチジンがちょっと、という感じのときに、プレドニゾロン0.5㎎/㎏/dayをまず頓用でやる。
森尾
私どもはむしろ診断的に使うこともあります。
池田
まずは診断のために使うのですね。
森尾
はい。
池田
これは劇的に効くのですね。
森尾
わりと劇的に効くのですが、ただ、3~5割ぐらいの方で、使うと周期性が乱れて短縮したりする方がいらっしゃるので、そういう方は使いたくないとおっしゃいます。
池田
それは怖いですね。よかれと思って使っていたら周期が短くなって、4~5週間だったものが3週間とか、そのくらいになってしまうのですか。
森尾
そうなのです。4~5日の熱だったのが、1日、2日でおさまるけれども、間隔は短くなる感じです。
池田
それもよし悪しですね。そんなことをしながら様子を見て、どうしてもというときには何かほかの治療はあるのでしょうか。
森尾
9割以上で効くといわれているのが唯一、扁桃摘出術です。ただ、扁桃摘出術は侵襲がある手技でもあるので、適応を慎重に検討していただくことになります。
池田
なるべくは使いたくないという感じですね。
森尾
そうですね。これはだいたい自然に治る病気なのです。
池田
そうなのですか。
森尾
はい。最近私たちは発症してから8年ぐらいでおさまりますという話をしています。以前は4~8年と言っていたのですが、最近は8年ぐらいとお話をさせていただいています。8年間というのは長いですね。
池田
そうですよね。それもイメージとしては月1回、同じようなエピソードが繰り返される。当然家族歴がある方なら親御さんもよくわかっているから、すごくストレスになりますね。
森尾
そうですね。
池田
でも、8年我慢すれば何とかなるかなという感じなのですね。
森尾
私どもの外来でも、2~3歳で発症した方が、9歳、10歳、11歳でいわゆる卒業されていくというパターンが多いです。
池田
成人でもあるのですか。
森尾
重要なポイントをありがとうございます。成人が周期性発熱でPFAPA症候群と診断されるケースがぱらぱらと出てきました。8年たつと完全に良くなる方が多いという話をするのですが、まれに成人になって再発する方がいるのです。
池田
成人の発熱の症状も4~5週間おきに39度以上で4~5日なのでしょうか。
森尾
はい。かなりきついと思います。
池田
例えば小児のときPFAPA症候群と診断された方が大人になって再発したとすると、この場合もシメチジンから始めるのでしょうか。
森尾
はい。シメチジン、ステロイド、扁桃摘出術などが考えられます。
池田
成人なら扁桃摘出術もありかという感じはしますけれどもどうですか。
森尾
そうですね。
池田
成人の予後はわかっているのでしょうか。
森尾
まだデータが少ない状況かと思っています。
池田
小児のように8年ぐらいでおさまるとはなかなかいかないのですか。
森尾
最近成人になって再発するという報告が出てきたので、何年ぐらいで再発するかが明らかになるのにはまだ時間がかかると思います。
池田
どうもありがとうございました。