ドクターサロン

山内

男性更年期障害が最近また話題になってきています。いつもの話ですが、老化自体とは別に定年等々、社会的変化が出てくる年代でもありますので、どうしてもメンタル不調から来るうつ状態も出てきやすいところです。これらは差別化するほうがいいとお考えでしょうか。それとも、包括的に一緒に考えたほうがいいのでしょうか。

松下

結論から説明させていただきますと、我々は、メンズヘルス外来や、男性更年期外来として治療、診断に当たっていますが、基本的には差別化して考えています。患者さんは本当に幅広くて、年代もそうですが、症状としても精神心理症状に関して、すでに心療内科やメンタルクリニックにかかっていて、そこで治療をさんざんやってきた。しかし、症状が改善しないということで男性更年期の外来に来られる方も非常に多いです。一方でいきなりメンタルクリニック、精神科にかかるのは抵抗があるということで、最近はWebサイトから情報も手に入りやすいですから、男性更年期障害のほうからのアプローチをしてみたらどうだと家族から指摘されて、最初に我々の領域である男性更年期障害かどうかのアプローチを望んでこられる患者さんも多いです。

山内

基本軸にテストステロンの低下を見ていくということでよいですか。

松下

そうですね。テストステロンの低下があるのかどうか。そして、それがそういった訴え、症状と関連があるのかどうかを診ていきます。

山内

何歳ぐらいからテストステロンが低下してくるものなのでしょうか。

松下

生理的には20~30歳代をピークとして、加齢とともに低下していきます。その加齢による低下も個人差があり、身体的な併存症、例えば糖尿、高血圧、そういう動脈硬化に関する症状をお持ちの方だったり、また内臓脂肪がだんだん増えてくるメタボの進行とともに男性ホルモンが下がってきた方だったりします。個人差はありますが、基本的に加齢とともに下がってきます。

山内

大ざっぱに50歳代ぐらいから出てくると見てよいのでしょうか。

松下

そうですね。そういった方が多いです。

山内

多い症状としてはどのようなものなのでしょうか。

松下

大きなくくりとしては、精神心理症状、身体的症状、性的な性機能症状の3つに分けられます。その中でも特に実臨床で経験するのは、ほてり、発汗、意欲の低下、仕事への集中力の低下、あとは睡眠、寝つきが悪い、途中で目が覚めてしまうといった症状、あとは比較的若い人に多いのですが、性欲の低下、実際の勃起機能低下、この辺が一番多い症状です。

山内

女性の更年期障害といいますと、すぐにほてり、のぼせといったものが来るのですが、男性の場合はどうなのでしょうか。

松下

男性もその訴えが非常に多いです。女性と同じようにその訴えが多いのは50歳前後、あとは60代、70代の方もそのようなほてり、発汗、特に寝汗とか、夜中にパジャマを着替えないといけないぐらい発汗症状がある、そういった症状の方が多いです。

山内

ここで素朴な疑問になるのが、女性の場合は女性ホルモンが低下していく。男性の場合、男性ホルモンが低下してくる。相対的に女性ホルモンが増えてくるような気もしますが、症状は同じものが出てくるのでしょうか。

松下

症状はだいたい同じだと思います。ただ、その原因として男性ホルモンの低下だけでそういうことが起こっているのかは非常に難しいところです。我々も男性ホルモンの低下でそのような症状があるのかどうか、診断かつ治療的な意味合いも含めて男性ホルモンの補充治療をよく行うのですが、多くの患者さんは改善するものの、治療に抵抗を示してなかなか改善しないという方もいるので、単純に男性ホルモンだけが原因とは言い切れないのです。でも非常に有効な治療として行っています。

山内

性ホルモンですから、男性ホルモン、女性ホルモンのバランスの崩れといったものも問題になるのでしょうね。

松下

そうですね。問題になります。

山内

診断になりますが、基本的には血中のテストステロン濃度の測定でよいのでしょうか。

松下

そうですね。血中のテストステロン濃度の測定。あとは症状を合わせて総合的に全体をみて診断していきます。

山内

この診断基準はどうなのでしょうか。

松下

男性ホルモンとして総テストステロン(トータルテストステロン)、そして遊離テストステロン(フリーテストステロン)、主にはこの2つを測ります。それ以外では、それをコントロールしているLH、FSH、プロラクチン、主にこの辺も測りますし、メタボリック症候群との関連もよくあるので、血糖値、脂質異常関連を含めた一般的な項目と、あとは前立腺がんの腫瘍マーカー、PSA、この辺を含めて血液検査は全部行っています。

山内

テストステロンの基準値といったものはあるのでしょうか。

松下

総テストステロン、フリーテストステロンともにあります。その数字だけで、それを下回っているから治療するというわけではありません。一つの参考として、この15年ぐらいはフリーテストステロンは8.5という値を一つの基準としていたのですが、今回、15年ぶりに診療の手引きが改訂されますが、少し厳しく7.5という数値を設定して診断基準を設けています。総テストステロンに関しても、単位は海外と日本でちょっと違ったりもしますが、300という値をずっと一つの基準でやっていましたが、今回の改訂では250になりました。総テストステロンもフリーテストステロンも15年前の診療の手引きとは若干変更して設定しています。

山内

テストステロンの日差変動や日内変動はどうなのでしょうか。

松下

基本的には日内変動があり、朝方高くて、夕方、午後以降下がっていくので、例えば海外のガイドラインなどでは早朝から午前中の採血が推奨されているのですが、日内変動が特にあるのは若い人なのです。50歳、60歳、中高年以降の方はわりと日内変動が少なくなってきますので、必ずしも絶対午前中、朝に診断のために採血しなければいけないということはないと個人的には思います。ただ、海外では基本的には午前中、朝に採血しなさいとなっていますので、基本的に日内変動を頭の片隅に置いて診断する必要があると思います。

山内

治療ですが、先ほど来からのお話をうかがいますと、とりあえずテストステロンをトライアルすることになるのでしょうか。

松下

そうなのです。以前はテストステロンの数値が低いと、例えば心血管系の合併症や生命予後にも関係するといわれていたときもありました。昔はテストステロンが低いから、それを上げるために治療していたということもあるのですが、今は基本的には症状があればやってみる。テストステロン値を上げるためというよりは、症状を改善するためにテストステロン治療を始めるというようなスタンスです。

山内

実際、症状の改善はいかがでしょうか。

松下

我々のデータを説明しますと、約7割の方に効果があります。一方で3割ぐらいの方はテストステロン治療を始めても、すべての症状を改善するわけではないのも正直なところです。そういう方は男性ホルモンの低下がそういった訴え、症状とあまり関係ないだろうと解釈せざるをえないので、そういう場合はしかるべき科に案内、例えばメンタル的な症状が強い場合は心療内科やメンタルクリニックに案内するとか、メタボリック症候群など、そういった方面の改善が必要な場合は生活習慣の改善を医師に相談するというようなアプローチを取っています。

山内

実際の治療薬ですが、これは経口薬のようなものですか、注射薬のようなものですか。

松下

テストステロン製剤は筋肉注射で行っています。海外を中心に、日本でも自費としてはジェルやクリームという経皮的に吸収させるアプローチの塗り薬もありますが、筋肉注射のほうが効果が得やすいですし、症状の改善があるかどうかを見るためには注射製剤が非常に使いやすいので、我々はそれを使っています。保険でも日本では筋肉注射しか使えないので、それを使っています。

山内

薬の濃度などで国際的な違いはあるのでしょうか。

松下

塗り薬に関しては、海外でよく使われるものは5%と濃いもので、症状の改善には非常に有効なのですが、日本で販売されている塗り薬は濃度がそんなに高くないものなので、効果が得られる場合もありますが、海外の薬に比べると少し効果が弱い場合もあります。どうしても塗り薬をご希望という場合には海外から取り寄せて販売、処方していますが、筋肉注射は海外、日本も含めてそんなに濃度が変わりませんので、それで治療を行っています。

山内

使用期間に関しては特に縛りはないのですね。

松下

使用期間は特に縛りはないです。ただ、効果がないのにずっとやっていく必要はないので、きちんとその効果が出る出ないの見極めは、例えば最初3カ月なり半年なり期限を設定しています。それは保険の縛りというよりは、効果を実際感じないのに1年も2年も無駄に使う必要はないとの判断をしているからです。

山内

どうもありがとうございました。