山内
中島先生、新しい便秘薬がどんどん出てきています。まず、従来薬も加えてどういうアプローチをしたらいいか、使い分けを含めてお話をうかがえますか。
中島
従来薬には主に酸化マグネシウム、刺激性下剤のセンナ系の薬と、それからピコスルファートナトリウムのような薬がありますが、大きく分けて酸化マグネシウムと刺激性下剤。あとは最近の新薬という3つのカテゴリーがあると思います。実地診療ではまず保険診療で保医発のガイドラインがあり、まずは従来薬を使うということになっているので、特別な問題がない限りは通常ですと酸化マグネシウムのような一般的な便秘薬を使うことになると思います。
山内
これは第一選択薬としてはほぼ揺るぎないと考えてよいのですね。
中島
刺激性下剤を最初にお使いになる医師もいますが、刺激性下剤の位置づけはあくまでもレスキュー薬です。通常、非刺激性の下剤、酸化マグネシウムや新薬でも非刺激性の下剤を使って、それでもだめなときに使うというのが刺激性下剤の位置づけになっています。
山内
酸化マグネシウムをまず選ぶ。これは年齢も性別も、あまり問わずと考えてよいでしょうか。
中島
酸化マグネシウムというのは200年前にシーボルトが日本に持ってきて以来、長く使われていますので、そういう意味で日本人は処方経験が豊富でいいのですが、残念なことに人生50年の時代であればあまり問題なかったのですけれども、人生100年の時代になりますと、電解質異常、特に高マグネシウム血症の副作用がたびたび指摘されて問題になってきています。
山内
具体的にはどういったケースで特に注意したらよいでしょうか。
中島
最近、国内から出た論文などを見ると、まずは高齢者です。あとは腎機能低下者、特にeGFRが60を切るような方は少し慎重にしたほうがいいのではないか。量が多いのはもちろんリスクが上がりますし、長期投与、それからPPIなど酸分泌抑制薬を併用しているときなどは患者さんが服用量を増やしてしまうこともあって注意が必要です。
山内
使い方としては、2g/日ぐらいまでは投与可能ですが、腎機能などに問題がある場合、あるいは予知される場合は1g/日ぐらいと考えてよいのでしょうか。
中島
それに関する明確なエビデンスはないのですが、フルドーズを高齢者や腎機能が悪い方に使うのは少し気が引けるので、先ほど言いましたように、腎障害がある方は半量ぐらいまで、だめなときにはほかの薬に切り替える。それから、本格的に腎臓が悪い方はむしろ酸化マグネシウムは控えたほうがいいようなこともあります。
山内
それ以外に、吸収の問題といったもので、何かポイントはありますか。
中島
実は酸化マグネシウムというのはプロドラッグでそのままでは効かず、胃酸と膵液によって塩化マグネシウム、それから炭酸水素マグネシウムになり最終的に薬効成分である炭酸マグネシウムになります。したがって、食後に服用するのが最も理想的で、胃酸と膵液が必要ですから、PPIなど酸分泌抑制薬を投与すると非常に効きが悪くなりますし、胃を全摘して胃がない方は効かないのですが、なぜか酸化マグネシウムをのんでいる方がけっこういます。特に今まで酸化マグネシウムをのんでいる患者さんで、胸やけなどでPPIを投与すると途端に便秘薬が効かなくなります。便秘薬は安全だと、酸化マグネシウムを2倍や3倍のんでしまう方もいて、そういう場合は注意が必要です。
山内
先ほどのお話では、食後にのんだほうがより有効なのでしょうか。
中島
胃酸分泌は食後が一番多いので、副作用予防のためにも食後が一番有効性が高いと考えられています。
山内
時々、夜寝る前にのんで、朝出そうという感じの使い方もありますが、むしろ食後に分3にしてのんだほうがいいと考えてよいのでしょうか。
中島
はい。一番効率的なのみ方です。
山内
第一選択薬は非常にシンプルで、次に第二選択薬になるときです。従来からいろいろな薬がありますが、昨今、新しいものが出てきましたので、この段階では新薬が入ってくると考えてよいのでしょうか。
中島
酸化マグネシウムを使いにくい方、あるいは無効な方、不十分な方は新薬に切り替えたほうがよいのではないかと思っています。といいますのは、あまり患者さんに不満足を与えてしまうと処方継続率が低下してしまい、自分でサプリメントをのむなどのほうにいってしまいます。新薬に切り替えるタイミングとしては酸化マグネシウムがちょっと効きが悪いというところでいいのではないかと思います。
山内
新薬は非常に種類があるので、一つ一つ解説をお願いします。
中島
おっしゃるように様々なものがありますが、わが国で最初に出たのは10年ぐらい前です。上皮機能変容薬といいまして、小腸の末端から腸液を分泌して便を軟らかくするという作用で、ルビプロストンというものが出ました。これはエビデンスレベルも安全性も高い薬です。ただ、副作用としては下痢と悪心といったものがありますので、その辺を最初に患者さんに伝えることが重要ではないかと思います。
山内
下痢が起きたときは量を調節して構わないのですね。
中島
はい。ルビプロストンは最初は24μgのカプセルを1日2回がフルドーズでしたが、最近は12μgのカプセルも出てきて、量を減らすことによって下痢のコントロールや悪心の低減が図れるようになってきました。
山内
この薬は老若男女はあまり問わないのですか。
中島
はい。ただ妊婦には投与禁忌です。
山内
エビデンスもそろって使いやすいですね。
それ以外の薬はどうですか。
中島
先ほどの上皮機能変容薬に関してはもう一つ、リナクロチドというものがあります。これは作用は同じですが、腹痛を低減する効果があり、腹部症状がある方、特に便秘型の過敏性腸症候群、IBSの方には切り札になる薬です。
山内
もう1種類ぐらいありますか。
中島
その後出てきたのが胆汁酸トランスポーター阻害薬のエロビキシバットです。ご存じの医師も多いかもしれませんが、これは先の2つの薬と作用機序が違うため、また新たな選択肢として我々が使える薬が増えてきたと思っています。
山内
第三選択薬のあたりになってくると考えてよいのでしょうか。
中島
どれを選ぶのがよいか、今のところエビデンスはありません。例えば酸化マグネシウムが効かないときにはエロビキシバットを使う医師もいますし、ルビプロストンを使う医師もいますので、その辺は各自の処方経験に合わせてお選びになればよいのではないかと思います。
山内
あと、ポリエチレングリコールというのはいかがでしょうか。
中島
ポリエチレングリコールは、いわゆる浸透圧性下剤です。これは海外では50年ぐらい前から使える薬ですが、日本に入ってきたのは最近で、体に吸収もされず、電解質異常も起こしませんし、アメリカなどでは普通にドラッグストアで売っている最もポピュラーな薬です。小児科で使える便秘薬が日本にはなかったため、小児の学会から日本で使えるようにしてほしいと要望し使えるようになった薬です。
山内
日本人の場合は少量でも効きそうな感じがしますが、そうでもないでしょうか。
中島
様々ですね。ただ、用量は調整できます。
山内
以上の新しい薬、それぞれに注意すべき点があると思うのですが、代表的なものを少し挙げていただけますか。
中島
新薬ですので、比較的安全性は高いですが、先ほど言いましたように、ルビプロストンは悪心と下痢に、リナクロチドは下痢に注意が必要です。それからエロビキシバットに関しては下痢と腹痛に注意が必要です。いずれも有害事象は投与初期に起こりますが、下痢のときは減らすような工夫を一言添えていただくだけで患者さんの忍容性は上がると思います。
山内
副作用といいますか、作用でもありますね。
中島
そうですね。
山内
あとは、酸化マグネシウムと同じように、服薬のタイミングが問われる薬剤もあるようにお聞きしますが、これはいかがでしょうか。
中島
ルビプロストンは食後投与ということで、48μg/日でしたら朝・夕食後。量を減らしてもだいたい朝と夕食後が通常使うには一番よいのではないかと思います。一方、リナクロチドは、食前投与になっています。エロビキシバットも食前投与で、胆汁酸がトランスポーターを阻害するので、胆汁酸の吸収を阻害するためには食前に飲むのが一番いいのですが、朝でも昼でも夕でも食前であればいいと思います。
山内
薬によって食前・食後が微妙に違うというところが大事なポイントですね。
中島
そうですね。あとは作用時間ですが、だいたいゆっくり効きますが、エロビキシバットだけは投与後平均5時間で出ます。朝食前にのむとだいたい午前中にはトイレに行くことになるので、トイレに行く場所と時間を確保してもらうことを一言言っておくと、患者さんが困らずに済むのではないかと思います。
山内
昔から便秘は、特に高齢者ではなかなかたいへんな方がいましたが、こういった薬でかなり状況は良くなったと考えてよいのでしょうか。
中島
選択肢が増えたということは非常にいいことだと思います。
山内
最後に併用についてはいかがでしょうか。
中島
新薬同士は薬価がかさみますので、併用は酸化マグネシウムと新薬、あるいはそれに刺激性下剤を頓用で加える。そういうかたちがベストではないかなと思っています。
山内
ありがとうございました。