ドクターサロン

 大西 槙田先生にご企画いただきました「日常臨床にひそむ内分泌疾患」のシリーズがスタートしますので、よろしくお願いいたします。 まず初めに、先生がこの内分泌のシリーズを企画された狙いから教えていただけますか。
 槙田 私たちが扱うホルモンというのは、生体のホメオステーシス、恒常性維持に必須のものになります。このホルモンが病的に高い、あるいは低いことによっていろいろな病気が起きます。内分泌疾患は非常にまれな疾患というイメージが先行していると思いますが、実はどの診療科にも関わっています。隠れた内分泌疾患、横断的診療と内分泌疾患という視点でも今回の特集を組んでみました。
 大西 それではまず、ポピュラーな病気としては甲状腺の疾患があるかと思います。ホルモンが多かったり、少なかったり。このあたりを解説いただけますか。
 槙田 ホルモンを出す臓器というと、私たちの体、上からいくと、視床下部、下垂体、そして先生のおっしゃる甲状腺、副甲状腺、また膵臓からもホルモン、インスリンが出ていますし、あとは副腎、そして性腺になります。今回は古典的な内分泌器官にフォーカスしますが、やはり甲状腺疾患が一番コモンなので、まず代表的な甲状腺疾患について、5回シリーズで先生方にお話しいただければと思います。
 甲状腺ホルモンが低下する代表的な疾患として慢性甲状腺炎、そして甲状腺ホルモンが高くなる代表的な疾患、バセドウ病、また急に首が腫れて痛くなる亜急性甲状腺炎。甲状腺ではホルモンが高い、低い以外にも腫瘍性病変がとても多いです。実際に超音波を当ててみると、2人に1人の患者さんに結節性病変が見つかります。そういった甲状腺偶発腫をどうしたらよいのかという話。そして、実際、「がん」と診断されても経過観察をしてもいいのだと、本邦の医師がエビデンスを出してくださった甲状腺微小乳頭がんについてもお話しいただければと思います。
 大西 次に下垂体ですが、非常に小さな臓器ですけれども、重要な働きをしているわけですね。そのあたりを教えていただけますか。
 槙田 下垂体というのは頭蓋の中の本当に中心にある小さな臓器ですがホルモンの司令塔です。下垂体疾患というと、まれな疾患というイメージが先行していると思うのですが、意外に日常臨床に隠れています。下垂体のホルモンが低下することによる下垂体機能低下症、中でも中枢性の副腎不全はとても重要です。そして成長ホルモン分泌不全症、成長ホルモンは子どもだけではなく大人でも重要だということについて解説いただきます。また、多飲・多尿とくれば糖尿病がまずは想起されますが、抗利尿ホルモンがうまく分泌されなくなることによる中枢性の尿崩症も忘れてはいけません。一方で、下垂体のホルモンが高くなることによる高プロラクチン血症、あるいはクッシング症候群の一部であるクッシング病、そして先端巨大症、SIADHなどがあります。
 下垂体機能低下症の原因としてのリンパ球性下垂体炎は私も実は今まで数人の患者さんしか拝見したことがなくて、とてもまれなのですけれども、最近がんの治療に欠かせなくなりました免疫チェックポイント阻害薬で、起きて4人に1人という高頻度で起きるというデータも出ています。また、無月経にはいろいろな原因がありますが、治療可能な高プロラクチン血症を見逃さないということが大事です。
 そして、クッシング症候群は古典的な内分泌疾患ですが、実は医原性、つまり副腎皮質ステロイド薬を使って、それによって起こってくるクッシング症候群が最も多いです。コインの裏表の関係にありますけれども、副腎皮質ステロイド薬を急にやめてしまうと今度は医原性の副腎不全になってしまうということも重要です。
 また、先端巨大症は手足が大きかったり、鼻が大きかったり、そういう顔貌だけではなくて、睡眠時無呼吸症候群、大腸がん、原因不明の心不全、糖尿病の悪化などを契機に見つかってくることもあります。
 そして、抗利尿ホルモンADHの不適切な分泌が原因となるSIADHは、低ナトリウム血症で必ず鑑別に上がってきますが、これに対して最近、そのADHをブロックする薬が使えるようになりました。また、先ほど申し上げましたが、大人でも成長ホルモンが重要で、不足している場合には補充するということも私たちは行っています。
 大西 次に副腎ですね。これは腎臓の上に乗っている小さな臓器ですけれども、これも不足すると副腎不全になったり、たいへんなことになるかと思うのですが、このあたりを教えていただけますか。
 槙田 おっしゃるとおりです。副腎もなくてはならない臓器です。もともと副腎皮質ホルモンというのは血圧を維持するのに重要なホルモンなので、多すぎると高血圧の原因となります。有名な病気は原発性アルドステロン症、そして褐色細胞腫、また副腎性のクッシング症候群などがあります。
 原発性アルドステロン症は高血圧の10%弱というデータもあるので、高血圧の患者さんの治療では一度はこの病気を疑っていただければと思います。
 また、褐色細胞腫、発作性の高血圧が有名ですが、最近はたまたま画像診断で見つかってくる副腎偶発腫を契機に診断される褐色細胞腫も増えてきています。そして、副腎偶発腫を見たときに私たちはどんなホルモンの病気を考えたらいいのかというお話もいただければと思っています。
 大西 それでは次に副甲状腺ですが、これは骨ともいろいろ関係があるかと思いますが、そのあたりを教えていただけますか。
 槙田 副甲状腺というのは、甲状腺の背中側にある米粒大の小さな臓器です。ここからPTHというホルモンが分泌されることによって、私たちの血液中のカルシウムのレベルが非常にタイトにコントロールされています。
 原発性副甲状腺機能亢進症というと、以前はカルシウムがすごく高くて食欲不振や脱水、また尿路結石発作だったり、骨折というイメージがあったと思うのですが、最近は患者さんは無症状で、たまたま軽度の高カルシウム血症で見つかってくるというものが圧倒的に増えてきています。現在、本邦初のガイドライン策定中でありますので、それについてもお話しいただければと思います。
 そして骨粗鬆症、これもいろいろな治療手段があるので、どんな戦略で治療したらいいのかというお話をいただけると思います。また、25ヒドロキシビタミンDが測定できるようになって時間がたちますが、実際に測定してみると、特に女性ではビタミンDが充足している方はほとんどいらっしゃらない。そしてほとんどは無症状なので、どうしたらよいのか。またビタミンD欠乏が重度で長期にわたると、骨が非常に痛くなる骨軟化症という病気の原因にもなりえます。
 大西 次は性腺ホルモンについて教えてください。
 槙田 性腺というのは性ホルモンを産生する内分泌器官で、最も多いのが染色体の異常による病気です。大人になって無月経の精査で診断される、あるいは、男性不妊症、無精子症の精査で診断されるようなものも多いです。
 大西 次に隠れた内分泌疾患ですね。これは意外と難しいと思うのですけれども、そのあたりで注意すべき点を教えていただけますか。
 槙田 5回シリーズです。電解質異常、高血圧、糖尿病、骨粗鬆症、不妊症、これらに隠れている内分泌疾患をどのようにして拾い上げていったらいいかということをお話しいただければと思います。
 電解質というのは私たちのホルモンによってコントロールされているので、逆に電解質異常、例えばナトリウムとかカリウムの異常にホルモンの異常が隠れているというのは実はとても多いです。
 また、血圧は私たちの血管の収縮度合いと体液量で決まりますけれども、いずれもホルモンによってそれらが調整されています。ですので、ホルモンの異常が高血圧の原因となっているということも見逃してはいけません。 また、糖尿病については、インスリンが唯一私たちの体の血糖値を下げるホルモンですが、その他の多くのホルモンは血糖値を上げます。ですので、ホルモンが高くなる内分泌疾患ではしばしば糖尿病を合併します。
 骨粗鬆症、これは加齢とエストロジェン不足というのがメインの病態ですが、それ以外のホルモンの過剰、あるいはホルモンの不足で、続発性に起こる骨粗鬆症も多いです。
 そして不妊症、これは男性、女性ともにホルモンの異常が隠れている。これもやはり見逃してはいけないと思います。
 大西 横断的診療と内分泌疾患ということで、様々な分野に内分泌疾患が関わるということだと思いますが、そのあたりはどのようなシリーズなのでしょうか。
 槙田 12回シリーズで、多くのエキスパートの先生方にお話をいただきます。まず内分泌緊急症。内分泌疾患というと、じっくり負荷試験をやって診断というイメージがありますが、緊急で対応しなくてはいけない病態もあります。副腎クリーゼとか高血圧クリーゼ、また高カルシウム血症クリーゼなどです。そして医原性の副腎不全、これは内服している副腎皮質ステロイド薬を急に中断することで起こるだけではなくて、副腎皮質ステロイドの外用製剤、例えば塗り薬とか、あるいは点眼薬、点鼻薬、喘息の吸入薬でも起きてくることに注意が必要です。
 そして内分泌腫瘍のお話です。内分泌臓器の腫瘍として副甲状腺腫瘍、下垂体腫瘍、副腎腫瘍がありますが、その背景にはgerm line mu tation、生殖細胞系列の病的vari antが隠れていることもあります。また、男性にも実は更年期があるのだという話。そして、甲状腺機能のコントロールは妊娠を考える女性にはとても重要だという話をしていただきます。また、摂食障害、あるいはアスリート、このような女性たちに起こってくる様々なホルモンの異常にフォーカスしたお話もうかがいます。
 そして、がんの治療では欠かせない免疫チェックポイント阻害薬ですが、内分泌のirAE、免疫関連有害事象もとても多いです。また、小児内分泌疾患を抱えながら成長した子どもたちが、将来その疾患とともに生きていくためのtransitionの話。そして、小児がんサバイバーの今後の未来について。また、ビッグデータから見た内分泌疾患という視点でもお話しいただきます。
 そして最後に、複数の治療選択肢が考えられる内分泌疾患において、実際にどのようなデータがあるのか、Evidence Based Medicineという視点、実際に患者さんにどのような治療を選んでいただけるのか、Shared de cision makingという視点からもお話しいただきます。
 大西 先生から今回のシリーズの概要をうかがいまして、たいへん興味深いシリーズだとたいへん楽しみにしています。ありがとうございました。