ドクターサロン

 池田 岡野先生、乳幼児の鼻炎と簡単に言いますが、アレルギー的なものととらえてよいのでしょうか。
 岡野 現在ではアレルギー的な鼻汁、鼻閉というのが多いかと思います。いわゆるアレルギー性鼻炎に伴った鼻汁や鼻閉が多いのですが、それでもアレルギー以外の鼻炎もあります。特に昔でいう蓄膿症になるかもしれませんが、副鼻腔炎は子どもでもまだまだ多くて、そういったところから鼻水とか鼻づまりを訴える方もいます。また、子どもさんですと、特に5歳、6歳ぐらいになると、アデノイドという鼻の奥にある扁桃組織が肥大して鼻づまりを起こして鼻水がたまることもありますので、そういったアレルギーではない病気で起こることもあります。
 池田 アレルギー症状だと思って治療して、それがあまり改善せずに長引くというと、ほかの病気も考えなければいけないですね。
 岡野 アレルギー性鼻炎と思って抗アレルギー薬で治療しても良くならないような場合というのは、副鼻腔炎などほかの病気が隠れていることがあります。ただもう一つ、アレルギー性鼻炎にはいろいろな薬がありますが、薬を飲むだけではなかなか良くならないことも多く、やはり原因となる物質を吸わないようにする工夫がいると思います。子どもさんの場合はハウスダスト、ダニのアレルギーなどが多いかと思いますが、薬を飲む、あるいは点鼻薬を使用するだけではなくて、しっかり家の掃除をしたり、これからの時節は湿度が高くなってダニも増えますので除湿をしたり、春に、花粉症であれば花粉を吸わないような努力をするとか、そういったことをしないと、なかなか症状は良くなりません。その辺のチェックも必要かと思います。
 池田 環境をまず整えることが基本にあるのですね。
 岡野 はい。
 池田 それをしなければ、いろいろな抗アレルギー薬を選択・使用してもあまり効果が出ないこともあるのですね。
 岡野 そうですね。
 池田 アレルギー性鼻炎として治療していくのですが、先生は抗アレルギー薬をどのように選択して使われるのでしょうか。
 岡野 まず抗アレルギー薬というのは薬効、薬の効き方によって幾つかの種類があります。小児、乳幼児の場合であればヒスタミンを抑える抗ヒスタミン薬というものもありますし、ロイコトリエンという主に鼻づまりや炎症に関わる物質を抑える抗ロイコトリエン薬もあります。それから、炎症を抑えるステロイド薬としては鼻噴霧用点鼻薬というものがあり、いろいろ組み合わせて治療しています。
 もう一つはアレルギー性鼻炎には病型があります。くしゃみや鼻水で困っているような方もいれば、鼻づまりで困っているようなこともあります。くしゃみ、鼻水というのはヒスタミンを介している神経反射という面が強いので、私はくしゃみ、鼻水で困っている子どもさんにはヒスタミンを抑える抗ヒスタミン薬を処方することが多いです。一方、鼻づまりで困っている子どもさんであれば、ロイコトリエンの働きを抑えるような抗ロイコトリエン薬で治療することが多いです。
 ただ、環境を整備してこういった薬で治療してもなかなか良くならないような子がいます。そういった子の鼻の粘膜を見ると、だいたい粘膜が腫れていて炎症を起こしていることが多いので、そういった子であれば、年齢の制限は多少あるのですが、ステロイドの点鼻薬等を用いてしっかり炎症を抑えるようにしています。
 池田 そういった薬の選択というのは、症状もそうですが、それぞれの子どもさんの反応性にもよるということですね。
 岡野 そのとおりです。
 池田 赤ちゃんの鼻粘膜というのはなかなか見えないですよね。やはり専門医に中をちょっとのぞいていただいて、腫れや赤みを見て適切に点鼻薬を併用するといったことになるのでしょうか。
 岡野 そのとおりです。耳鼻科医であれば鼻の中を見るのはそれほど難しいことではないので、鼻の中を見て粘膜が例えば赤く腫れているとか、白っぽく腫れているとか、あるいは鼻水が水っぱなであるとか、粘っこい鼻水であるとか、そういったことを見て、アレルギーを抑える薬がいいか、それ以外の薬がいいか。アレルギーを抑える薬であれば、抗ヒスタミン薬がいいか、抗ロイコトリエン薬がいいか、そのあたりを選択することが必要かと思います。
 池田 こういった選択の際に、よく血液検査でRASTなどをやりますね。その値は参考になるのでしょうか。
 岡野 一般的にはRASTの値が高ければ重症といわれていますが、はっきりとした相関は見られないことが多いです。RASTが陽性か陰性かが原因アレルゲンになっているかどうかを判断する一つになるかと思います。RASTが5や6だと原因として考えやすいかと思うので、そういったものをターゲットにした治療を行うことが多いと思います。
 池田 血液検査を行って出る値というのは、診断には役に立つけれども、重症度の判定にはあまり役に立たないという考えでいいのでしょうか。
 岡野 そうですね。強く相関するものではないので、陽性か陰性かを重視しています。また現在では、血液検査で陰性であってもアレルギー症状が出る「局所アレルギー性鼻炎」という病気もあることが知られています。
 池田 もう一つ、小さなお子さんに点鼻をするのはなかなか難しいですが、やはり親御さんがされるのですか。
 岡野 3歳児、4歳児であれば親御さんがします。小学生ぐらいになると、頑張って自分たちでする子もいますが、多くは保護者の方の努力が必要になると思います。
 池田 どのように指導されるのですか。
 岡野 子どもさんは急にノズルを鼻に入れるとびっくりしたりするので、一つは優しく入れるということと、あともう一つ、子どもさんは粘膜が弱いので鼻出血、鼻血を出しやすいのです。ノズルの先を鼻中隔、鼻の真ん中の仕切りに向けないように、少し外側に向けるようにすることによって鼻出血なども防げるので、そういったノズルの鼻への挿入の方法など、びっくりさせないような方法で行うことを指導したりしています。
 池田 ちょっとやってみないとわからないですが、すごく難しい感じがします。でも、子どもさんも慣れるとやってくれると思うのですが、そういった治療法で難治の場合、質問では「長引く」という表現ですが、この場合は、先ほどのアデノイドや副鼻腔炎などの鑑別ですけれども、実際に先生がよく行われているような治療の組み合わせで難治な場合などは、けっこうあるのでしょうか。
 岡野 あります。アレルギーの治療だけでは良くならないような方はおられます。
 池田 そのときは環境整備とそれまでの組み合わせた治療法でだいたいはいけるのでしょうか。
 岡野 アレルギー性鼻炎の場合はいける人も多いのですが、アレルギー性鼻炎でも、それだけではなかなか良くならないような方も確かにいます。そういった場合はより根治的な治療として、これも年齢の制限はありますが、アレルゲン免疫療法や、頻回な鼻処置などを勧めることも多いです。
 池田 回数を増やすということですね。アトピー性皮膚炎もそうですが、自然寛解というのがありますよね。アレルギー性鼻炎はそういった症例もけっこうあるのでしょうか。
 岡野 これは残念ながら、アレルギー性鼻炎は一度発症すると、なかなか寛解、自然に治ることは難しいことが知られています。アトピー性皮膚炎や小児喘息であれば寛解する人も多いかと思いますが、アレルギー性鼻炎は一度かかると、これがはっきりとしたアレルギー性鼻炎であれば、自然に治ることは少ないと思います。
 池田 先ほどおっしゃった舌下免疫療法など、いわゆる根本的なところを変えていこうということだと思うのですが、これは適応年齢は何歳からなのでしょうか。
 岡野 もともとは12歳以上ということになっていたのですが、子どもに対しても有効で安全だということがわかりまして、現在では5歳以上のアレルギー性鼻炎の子どもさんで可能です。ダニのアレルギーとスギ花粉症の2つによってほとんどのアレルギー性鼻炎は起こりますので、5歳以上の激しい喘息がないような子どもさんであれば、適応はあると考えます。
 池田 実際のやり方はどのような感じなのでしょうか。
 岡野 ダニの舌下錠もスギの舌下錠も、口の中で非常に溶けやすいものになっています。口の中に1~2分ぐらい、子どもさんの場合は唾液が多いので、もう少し短くても大丈夫ですが、唾液によって錠剤が溶けます。溶けた状態で飲み込むということを行っています。
 池田 ちょっと待たなければいけないのですね。
 岡野 そうですね。
 池田 子どもさんだと、その間頑張ってといっても、うまくいかないことも多いのではないかと思うのですが、粒のまま飲み込むのは意味がないのでしょうか。
 岡野 この舌下免疫療法自体、もともとは舌下で溶けた抗原が口の中の細胞に取り込まれて免疫を制御するといわれているので、粒をそのまま飲み込むのは一般的ではありません。もう一つは、粒で飲み込んだ場合、粒が食道などに引っかかることで食道炎を起こすこともいわれています。そういったところから、粒は口の中で十分溶かして、溶けた状態で飲み込むことが重要かと思います。
 池田 口の中で溶かす。そして口の中の粘膜細胞に教育することが重要なので、飲み込んでしまって、例えば腸から吸収するのであれば免疫療法にはならないという考えですか。
 岡野 アレルギー性鼻炎に対する免疫療法としては一般的ではありません。やはり口の中で溶かすことが重要になると思います。
 池田 イメージとしては、粘膜の病気なのだから粘膜で反応させて、飲み込むのはついでということなのでしょうか。
 岡野 そのとおりです。患者さんによっては、口の中で溶かした後に吐き出すというふうな方法もしていて、それでも十分な効果が出るので、必ずしも飲み込む必要はないと思います。
 池田 いわゆる食物アレルギーの食べて治すという考えとは全く違うものなのですね。
 岡野 そうですね。食べて治すのではなくて、なめて治すというかたちになると思います。
 池田 粘膜の細胞に教育をすることによって免疫寛容を起こすという考えですね。
 岡野 そのとおりです。
 池田 もし舌下免疫療法をやるとなると、どのくらいの期間になるのでしょうか。
 岡野 だいたい数カ月で効果は出てきます。スギ花粉症の場合ですと、始めた翌年から効果が出ると思います。ただ、アレルゲン免疫療法の一番の目的は長期寛解で先ほど先生がおっしゃったように、治すのを目的としています。一般的には3年間続けることで、一度治療を終了しても数年効果が続くことが現在わかっているので、舌下免疫療法をするからには3~5年の継続が必要かと思います。よく患者さんには、石の上にも3年ではなくて、「べろの下にも3年」とお話をしたりもしています。
 池田 いい言い方ですね。例えば、先ほどうかがった経過としてなかなかグローアウトがないのであれば、ある年齢に達したときに、これをやらざるをえないということですか。
 岡野 適応があれば積極的にお勧めするようにしています。
 池田 ありがとうございました。