山内
いわゆるでべそ、臍ヘルニアですね、質問は大きなヘルニアについてですが、小さいものも含めますと頻度としてはどの程度のものなのでしょうか。
渡邉
新生児の20~30%ぐらいに認められます。特に低出生体重児や早産児のお子さんにはもう少し高い率で見られます。
山内
かなりあるのですね。
渡邉
はい。日常、外来でよく見られる疾患です。
山内
原因ですが、例えばお産のときの軽いトラブルなどが原因なのでしょうか。
渡邉
それは全く関係ないと思います。臍帯が脱落するときの、臍輪という部分の筋膜の閉鎖不全が原因です。
山内
この修復の話になりますが、これは放っておいても治ることは治るのでしょうか。
渡邉
自然治癒が1歳までに8割、2歳までに9割になります。
山内
そうしますと、その段階で治ったといえば治ったということで、それでかまわないのでしょうか。
渡邉
臍輪(ヘルニア門)が閉鎖したのが治ったという判断になりますが、もともと皮膚の出っ張っていた部分の皮膚のたるみが残っているので、その部分が格好悪く残ってしまうことがあります。そこは、親御さんの希望があれば治療が可能です。
山内
昔からよくでべそと言われた、その状態になってしまうのですね。
渡邉
はい。
山内
一つは見た目の修復。もう一つは、あとでも出てきますが、絶対的な適応といったものを考慮しなければならないのですね。
渡邉
はい。
山内
患者さんは乳児ですが、苦しがるとか痛がることはありますか。
渡邉
あまりそういった症状は見られないのですが、臍ヘルニアに関しては、まれに嵌頓といった症状が起こりえます。嵌頓は、出てしまった腸管、臓器が還納できなくて血流障害を起こしてしまう症状なので、かなり大きく腫れて、発赤したりするので本人は痛がるかなと思います。
山内
もちろんこれは痛いだけではなくて、場合によっては致死的になると考えてよいのですね。
渡邉
緊急の処置が必要になるかと思います。
山内
さてこの処置というか、修復ですね。どういったものをされるのでしょうか。
渡邉
施設によってやり方はいろいろですが、現在は圧迫療法というものが比較的主流とされている方法です。圧迫する道具に関しては、スポンジや綿球などがセットになった器具のようなものも今は売られているようです。当院ではビー玉を使っています。
山内
ビー玉を押し込むということですか。
渡邉
ヘルニア門のところに出っ張ってしまった皮膚を腸管と一緒に押し戻してもらって、その押し戻したヘルニア門のところにビー玉を乗せるというイメージです。
山内
ビー玉を乗せるというのは何か意味があるのでしょうか。
渡邉
ヘルニア門を早く閉じさせるのと、皮膚を押し込むことで皮膚のたるみをなくして、治り方を格好よくしてあげるのが目的です。
山内
押し込んだ上で何かでテーピングのようなものをするのでしょうか。
渡邉
テープを使うのですが、赤ちゃんは肌が弱いため、テープかぶれが多く見られます。肌に優しいタイプのものをお勧めしています。
山内
これは家族の方でもできるのですか。
渡邉
私たちはそのように指導して、自宅でもできるようにしています。
山内
かぶれをどう防止するか、コツはあるのでしょうか。
渡邉
テープをはがしたりする刺激もかぶれにつながりますので、はがすときはそっとはがしてもらって、お風呂ではがしたら、きれいに洗い、少し空気にさらして、またつけてもらう。赤くなってしまった場合は少しお休みしてもらいます。
山内
この方法で、見た目もきれいに戻るというのは、どのぐらいの例があるのでしょうか。
渡邉
効果は早く現れて、早いお子さんだと1カ月もすればきれいにへこんだ臍ができていたり、2カ月もするとだいぶへこんだ臍になります。その中でもちょっと格好悪い臍になってしまうお子さんがいますので、そこに関してはご家族の希望があれば手術をすることができます。
山内
9割方は自然に治ってくるということですが、逆にいうと1割ぐらいは治らないことがあるのですね。あと見た目の悪いケースですか。
渡邉
はい。ヘルニア門が閉鎖しないタイプのものは2歳以降、手術を考慮したほうがいいと思います。
山内
年齢ですが、やはり「2歳」が出てくるのでしょうか。
渡邉
ヘルニア門が閉鎖する時期がだいたい2歳。逆に2歳までに自然治癒する確率は9割となっていますので、2~3歳以降という感じで設定しています。
山内
2~3歳ぐらいまではいったん待ってと考えてよいのですね。
渡邉
そうです。
山内
手術はどういったものでしょうか。
渡邉
手術方法も施設によっていろいろあると思いますが、基本的にはヘルニア門を縫合して閉鎖し、プラス格好いいおへそを作るので、臍形成術といったかたちになります。
山内
閉じるのは比較的簡単な手術でしょうか。
渡邉
平均して30~40分ぐらいの手術になっています。
山内
手術で難しいのはどういったところになりますか。
渡邉
格好いいおへそを作るというところだと思います。最初の形によっても変わってきますし、その方法は多分施設によっていろいろかと思います。
山内
先生のところは具体的に例えばどういった感じでされますか。
渡邉
なるべくへこませたおへそを作るので、ヘルニア門を閉じた後は皮 膚の裏を薄くし、それをおなかの奧のほうの腹壁に縫いつけるという手術をしています。
山内
手術の後、お子さんは成長しますが、成長でまた変わってくるようなことはないのですか。
渡邉
特にないです。
山内
なかなか優れたものですね。4歳、5歳と年がいった場合でもこの手術は可能なのでしょうか。
渡邉
可能です。すごく急いでやらなければいけない手術というわけではないので、そういった時期に関しては親御さんとの相談になります。
山内
例えば、手術に関して少し迷われるケースもあるのでしょうか。
渡邉
お子さんなので、どうしても全身麻酔という点で親御さんは心配されます。特に急ぐ手術ではないので、よく考えてもらうのがよいかと思います。
山内
例えば中学生ぐらいになってからでもできなくはないということですね。
渡邉
できなくはないですが、大きくなればなるほど少し痛みを強く感じるようになってきますので、小学校前ぐらいがいいかもしれません。
山内
そうですね。いじめの対象になってもたいへんですね。
渡邉
そうですね。見た目でからかわれてしまうという例もあります。
山内
最後に日常管理ですが、こういうお子さんがいた場合、何か特別注意することはありますか。
渡邉
まれにですが、さっき言った嵌頓といった症状があります。普段の日常生活に関してはそんなに制限がかかるわけでもないので、腫れぐあいを少し観察してもらうことでよいかと思います。
山内
ヘルニア門のところから例えば感染するようなことはないのでしょうか。
渡邉
ないので、大丈夫です。
山内
お子さんですから、激しい動き、運動なども出てくると思うのですが、こういったあたりはいかがでしょうか。
渡邉
それも特に制限はないです。
山内
嵌頓に関しては非常に痛がるというサインがあると考えてよいですか。
渡邉
そうですね。かなり赤く、そしてかなり硬く腫れると思います。本人は相当機嫌が悪く、痛みを感じると思いますので、そういったときはすぐ医療機関に連れていってもらうのがいいと思います。
山内
どうもありがとうございました。