ドクターサロン

池田

ピロリ菌の2次除菌療法に失敗した場合という質問ですが、まず最初にピロリ菌に感染しているかどうか、どのように診断されるのでしょうか。

佐藤

生検組織を使う方法と使わない方法と、合わせて6つあるのですが、生検する場合は培養法、顕微鏡で見る鏡検法、ウレアーゼ試験というのがあります。生検組織を使わないのは尿素呼気試験と血清あるいは尿中抗体と便中抗原です。血清抗体は採血でわかるので使われるのですが、現感染と既感染の区別がつかないので、すでにもう菌が消えている方も陽性に出る場合があり、現在では実臨床的には内視鏡をしたときに組織でウレアーゼ試験をやるか、尿素呼気試験をするのがよいと思います。

池田

呼気か生検、この2つが確実ということですね。

佐藤

そうですね。それが確実だと思います。

池田

その2つで陽性になりますと、1次除菌になりますが、どのような薬をどのくらい使うのでしょうか。

佐藤

酸分泌抑制薬は以前はPPIでしたが、現在はボノプラザンというアシッドブロッカーのほうが効くことがわかっているので、ボノプラザンを1日40㎎、アモキシシリンを1日1,500㎎、クラリスロマイシンを1日400㎎、これを分2で1週間投与するのが1次除菌治療です。

池田

かなり強力ということですね。1次除菌で消失する率というのはどのくらいなのでしょうか。

佐藤

ボノプラザンになってからまた除菌率が復活してきて、およそ90%近く効くと考えられています。

池田

以前のPPIとは違うのですね。

佐藤

PPIの場合は80%から70%ぐらいまで1次除菌率が落ちてしまったのです。それはクラリスロマイシン耐性率が非常に上がってきたことが原因なのですが、ボノプラザンを使うと、アモキシシリンと2剤の力でその部分もかなり除菌できるので、除菌率は90%弱まで戻ってきました。

池田

有効性はどのように、いつごろ判定するのでしょうか。

佐藤

少なくとも偽陰性を否定するために除菌が終わってから4週間空けてくださいということになっているのですが、4週間でもボーダーゾーンの方がいるので、判定が遅ければ遅いほど正しいのです。ですから、尿素呼気試験でも私は12週間後にやっています。8週間か12週間後に判定する医師が多いのではないかと思います。

池田

評価は4週間ということでしたが。

佐藤

4週間でもいいのですが、やはりそこだとボーダーゾーンの方が出てきます。

池田

偽陰性ということも含めて、少し間を空けるということですね。1カ月以上ということですか。

佐藤

そうです。

池田

それで、不幸にもまた陽性になってしまったという場合、今度は2次除菌ですが、どのような薬をどのくらい使うのでしょうか。

佐藤

2次除菌は、クラリスロマイシン耐性菌で失敗するのがほとんどの理由ですので、そこをメトロニダゾールに変えて1日500㎎、先ほどのアモキシシリンとボノプラザンの量は同じで、また1週間投与すると、90%以上効きます。

池田

1次除菌で90%の残り10%でしたよね。それのだいたい90%ぐらいがまた消えるのですね。ということは、質問の2次除菌に失敗する方はほとんどいないということなのでしょうか。

佐藤

かなり少ないですね。5%未満ぐらいではないかと思っています。

池田

でも、確実に、2次除菌でもだめという方がいらっしゃるのでしょうか。

佐藤

いらっしゃいます。

池田

これは純粋に菌がいるということなのでしょうか。あるいは、何かほかの要素があって偽陽性に見えるのでしょうか。

佐藤

おっしゃるとおりで、実際に菌が残っている方もいるのですが、診断の間違いの可能性があります。一つは除菌判定を抗体でしかやっていなくて、実は消えていたという方がいらっしゃいます。除菌されても抗体陰性にはなかなかなりませんので。

もう一つ重要なのは、自己抗体によるA型胃炎、自己免疫性胃炎というものがあるのですが、これは壁細胞がほとんど壊れていて、胃内のpHが中性になっているのです。その方たちにはウレアーゼ産生菌、ピロリ菌以外のナイセリアやαストレプトコッカスというのがいまして、尿素呼気試験が陽性になってしまうのです。そのために一見ピロリ菌がいるように見え、それで3次除菌に来るという方が今、けっこうな割合でいると考えられています。

池田

まず血清の抗ピロリ菌IgGだと既感染なのかわからないのですね。

佐藤

わからないですから、尿素呼気試験、あるいは便中抗原で調べていただくということになります。

池田

A型胃炎の場合は尿素呼気試験が陽性になってしまうのですね。

佐藤

そうなのです。偽陽性になるのです。ですから、一見消えていないようなのですが、実はもともとピロリ菌はいなくて、ほかのウレアーゼ産生菌で陽性になっているだけという方たちなのです。

池田

こういうことを除外するためには、例えば抗体で陽性だった方はやはり尿素呼気試験、あるいは便中抗原試験ですね。

佐藤

はい。

池田

A型胃炎の場合は便中抗原を見るのでしょうか。それとも、胃の状態を見るのでしょうか。

佐藤

胃の状態で調べたほうがよいと思います。ですから、そういう方々は一度A型胃炎を疑ってみて、内視鏡と生検による診断をするのですが、難しければ消化器内科にお任せいただければ、内視鏡と生検で診断できます。いったん疑っていただくのがよいと思います。

池田

やはり考えないとわからない、見落としてしまうとなると、なかなか一般内科医だと難しいですね。

A型胃炎の内視鏡所見と生検の所見はどういうものなのでしょうか。

佐藤

A型胃炎は体部のほうだけ萎縮して、前庭部は萎縮しません。全体的に見て体部の褪色調の萎縮に比べて前庭部が赤い色をしているのではないか、軽いのではないかと感じると我々はA型胃炎を疑います。それで前庭部と体部からそれぞれ2個ずつ組織を定点生検で取ってきて、顕微鏡で見ると萎縮のあるなしがわかりますので、それで診断がつきます。

池田

内視鏡所見でも病理でも特異的なものが見られるのであっても専門医でないとなかなか難しいですね。

佐藤

はい。

池田

そして3次除菌になるのですが、保険適用はあるのでしょうか。

佐藤

保険適用はないのです。ですから、自費でやっていただくしかないのです。

池田

判定も自費になるのでしょうか。

佐藤

はい。ですから、尿素呼気試験をやれば、その料金が自費になります。

池田

どのくらいの金額になるのでしょうか。

佐藤

今、3次除菌は1週間の処方をして、1万円ぐらいの金額がかかります。施設によりますが尿素呼気試験の診断料は約5,000円の料金がかかり、合わせて1万5,000円ぐらいはかかりますね。

池田

そんなにむちゃくちゃではないような感じがしますね。3次除菌の薬の組み合わせというのはどのようなものでしょうか。

佐藤

以前はPPIでやっていたのですが、現在はボノプラザンのほうがいいので、ボノプラザンとアモキシシリンとシタフロキサシンというニューキノロンを使います。それぞれの量は、ボノプラザンが1日40㎎で、アモキシシリンは1日1,500㎎と2,000㎎のレポートがあるのですが、PPIからやっていた流れとしては1日2,000㎎使うほうがいいと思います。シタフロキサシンは1日200㎎使い、そうするとアモキシシリンだけは1日4回投与になりますが、それを分2、1週間投与するということになります。

池田

これでも除菌できないことはあるのでしょうか。

佐藤

あります。ボノプラザンのレポートはまだ2つ3つしか出ていないのですが、それでも90%ぐらいの除菌率ですから、10%ぐらいの方は除菌できないことがあるのだと思います。

池田

ということは、1、2、3次を終える段階で、トータルからいくと、0.5%ぐらいの人が残ってくるということですね。

佐藤

かなり少ないです。

池田

そういう方はどうするのでしょうか。

佐藤

4次除菌も研究が始められていて、まだ定まったレジメンはないのですが、2つの研究がされています。一つは結核などに使うリファブチンを使う方法が考えられて、今、日本を含めいろいろな国で研究されています。もう一つはボノプラザンと、アモキシシリンを1日2,000㎎、高用量を2週間投与すると、かなりの高い除菌率なので、これを4次除菌に応用できるのではないかと研究している方がいます。

池田

3次で除菌できないとちょっと絶望的かなと思ってうかがったのですが。

佐藤

そんなにがっかりして、あわてていろいろなことをせずに研究が固まるまで少し待っていただいたほうがよいかと思います。

池田

それにしても、いろいろな種類の抗菌薬を組み合わせて、1、2、3、4次となってきているのですが、ピロリ菌自体を培養して薬剤感受性などを測ることはできるのでしょうか。

佐藤

保険診療ではできませんが、することは可能です。

池田

培養するというのは特別なイメージがあるのですが、普通の検査会社でできるのでしょうか。

佐藤

はい。外注の検査会社でできます。

池田

そうなのですか。昔、ピロリ菌が最初に見つかったとき、培養したりするのにすごく難しかったというレポートがありましたが。

佐藤

一般の細菌よりは日数と手間がかかるので難しい点はありますが、培養法とか輸送培地も含めていろいろ発達してきているので、現在は特別難しいことはありません。

池田

特に2次除菌が成功しなかったような症例は、いろいろ薬に耐性があるような感じですよね。

佐藤

おっしゃるとおり、耐性を調べて、テーラーメイドで除菌法を考えるという医師もいます。

池田

3次ぐらいまでは何とかなるけれども、4次になるとまだ開発中ということですので、ちょっと怖いですね。調べたらいいのではないかと思うのですが、この培養と感受性の費用は高いのでしょうか。

佐藤

とても高いというわけではないのですが、おおよそ3~4種類調べても1万円ぐらいのお金はかかるのではないかと思います。

池田

4次除菌のレジメンを作る際にも、そういった検討も必要なのでしょうか。

佐藤

もちろんそうですね。3次除菌の時点で感受性検査をしたほうがいいですよとおっしゃる医師もいるのですが、全国あまねく皆さんができるわけではないので、ということです。

池田

その辺を考えながら4次除菌のレジメンを考えていくということになりますね。どうもありがとうございました。