「皮膚病変」skin lesionsは「皮膚科医」dermatologistでなくとも、日常の診察で扱う重要なトピックです。しかし「かさぶた」や「カミソリ負け」といった皮膚に関する一般的な英語表現となると「そんなものは知らないよ」という方が多いのではないでしょうか?そこで今回は診察でも使える皮膚に関する英語表現を幾つかご紹介したいと思います。
最初に押さえておきたいのがrashという表現です。これは「皮疹」という意味の表現で、「皮膚がかぶれる」や「できものがある」など、皮膚の様々なトラブルを意味するとても便利な名詞です。ただその発音には注意が必要で、「ラッシュアワー」 rush hourのrushや、「ムチ」や「まつ毛」を意味するlash、そして自然素材のソープやシャンプーを売っているお店の名前でもあり「香りが豊かな・緑が生い茂った」を意味するlushという単語の発音にならないように気をつけてください。
もちろんこのrashには詳細な医学用語が存在します。凹凸がなく直径が1㎝以下の皮膚病変はmaculeと、そして1㎝以上のものはpatchとなり、どちらも日本語では「斑」となります。そして触知可能な1㎝以下のものはpapule「丘疹」となり、maculeとpapuleが混在する皮膚病変はmaculopapular rashと呼ばれます。
触知可能な1㎝以上の皮膚病変で表面が平坦なものはplaque「局面」と、そして真皮や皮下組織にまで及ぶものはnodule「結節」となります。そしてこのような皮膚の「ぶつぶつ」は、一般英語ではbumpsと呼ばれます。ですから関西弁で「さぶいぼ」と呼ばれる「鳥肌」もこのbumpsを使ってgoose bumpsと表現されるのです。そしてこのbumpとほとんど同じような意味で使われるのがlumpです。ただこのlumpには「皮下組織から生じる皮膚病変」というイメージがあり、breast cancer「乳癌」の症状である「しこり」としても使われます。
varicella「水痘」は一般英語ではchickenpox「水ぼうそう」と呼ばれますが、ここで生じる1㎝以下の「小水疱」はvesicleとなり、1㎝以上のbulla「水疱」とは区別されます。「火傷(やけど)」はburnsのように複数形になることが多く、second-degree burnsで認められる「水ぶくれ」も一般的にはblistersと表現されます。野球選手の手などにできる「マメ」もこの「水ぶくれ」ですので、英語ではblisterと呼ばれます。そしてchickenpoxのblistersは時間の経過とともに「かさぶた」となりますが、これはcrustsやscabsと呼ばれます。
内部にpus「膿」を含むskin lesionはpustule「膿疱」と呼ばれます。ちなみにこのpusは「パス」のような発音となり、「猫」を意味するpussは「プス」のような発音となります。スペルが似ているので注意してくださいね。
「瘢痕」はscarとなりますが、この使い方には注意が必要です。「手術痕」のことを我々はあまり意識せずにsurgical scarと呼びますが、英語圏の外科医の中には「術後の切開痕は瘢痕ではない!」という信念からwell-healed surgical incisionと呼ぶ方もいらっしゃるのでご注意を。
足にできる「タコ」は英語ではcalluses(「カルシィズ」のように発音)と、そして「魚の目」はトウモロコシに似ているためにcornsと呼ばれます。どちらも日本語の発想とは異なりますので注意してください。
真菌によって起こる「白癬」tineaはその特徴的なリング状の皮疹からringwormと呼ばれています。そして足にできる「水虫」にはathlete's foot、陰部にできる「いんきんたむし」にはjock itchという一般英語の表現があります。
皮膚が赤くなる「紅斑」にはerythemaという医学英語を使いますが、「紅潮した皮膚」としてflushed skinという一般英語も覚えておきましょう。このflushには「赤くする」以外にも「水で流す」というイメージもあるため、トイレで水を流す動作としても使われます。よく似た発音の単語でflashというものもありますが、これには「眩しい光」というイメージがあり、menopause「閉経」に特有の症状である「ほてり」hot flashesとして使われます。どちらも似たような表現で紛らわしいのですが、hot flushesは厳密に言えば誤った使い方ですので注意してください。そして頰が赤くなるerythema infectiosum「伝染性紅斑」は日本では「りんご病」と呼ばれますが、英語ではslapped cheek syndromeという一般英語が使われます。
「尋常性痤瘡」は医学英語ではacne vulgarisとなり、一般にはこの一部のacnesという表現が「ニキビ」として使われます。また初期の「白ニキビ」にはwhiteheadsという一般名が、そして角質が黒く変色した「黒ニキビ」にはblackheadsという一般名もあります。
一般英語でありながらも意外と多くの日本人が知らないのが「そばかす」を意味するfrecklesです。この「そばかす」を含む「しみ」は一般的にbrown spotsと呼ばれますが、加齢に伴ってできる「老人性色素斑」は特にage spotsと呼ばれます。
目の下にできる「クマ」は、陰影を表す「隈(くま)」という意味ですが、英語では「目の下の暗い円」を意味するdark circlesとなります。このほかにもunder-eye darknessなどの表現がありますが、いずれにしてもdarkという表現を使うことを意識しておいてください。このほか、加齢とともにできる「目の下のたるみ」にはeye bagsのようにbagという表現が使われます。
「カミソリ負け」は英語ではどう表現するのでしょうか? もしそれがカミソリで剃った後にできる「赤み」や「ヒリヒリとした感覚」ならばrazor burnsとなり、それが剃った後にできる「ブツブツ」であればrazor bumpsとなります。
浅くて細い「小じわ」はfine linesと言い、深くて太い「しわ」を意味するwrinklesとは区別して使われます。そして会話の中では「小じわとしわ」という意味でfine lines and wrinklesとセットで使われることが一般です。このwrinklesを取り除く美容外科手技がfaceliftと呼ばれ、医学英語ではrhytidectomy「rhyti-(しわ)+-ectomy(切除)」と表現されます。「肌のハリ」は「皮膚の弾力」というイメージでskin elasticityとなります。これに対して「肌のキメ」は「皮膚の質感」というイメージでskin textureと表現されます。
「蕁麻疹」の医学英語であるurticariaと一般英語であるhivesは日本人医師にも広く知られていると思いますが、皮膚に関する英語表現には日本人医師の間であまり普及していないものもあります。「アトピー性皮膚炎」は本来ならばatopic dermatitisとなりますが、一般の方の多くはeczemaという表現を使います。また日本では「蝶形紅斑」の英語としてbutterfly rashという表現が定着していますが、英語圏では「頰骨紅斑」を意味するmalar rashという表現の方が一般的です。そしてこのmalar rashが認められるsystemic lupus erythematosusも日本では略語を使ってSLEと呼ばれています。英国でも日本と同様にSLEと表現するのですが、米国ではlupusと表現するのが一般的です。 日本ではそれほど多くないmelanoma「悪性黒色腫」ですが、大きなオゾンホールが上空にあるAustraliaでは国民的関心事と言えるほど大きな健康問題です。そこでAustraliaでは昔から“SLIP, SLOP, SLAP, SEEK, and SLIDE”というキャンペーンを行っています。これは“Slip on clothing, slop on sunscreen, slap on a hat, seek shade, and slide on sunglasses”の略で、「上着を羽織ろう、日焼け止めクリームを塗ろう、帽子をかぶろう、日陰に入ろう、サングラスをかけよう」を意味します。ちなみに太陽の光が遮られた空間を「日陰」と言い、英語ではshadowではなくshadeと表現するのでお間違えなく。
知って楽しい「
第11回 皮膚に関する英語表現
国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター准教授
国際医療福祉大学大学院「医療通訳・国際医療マネジメント分野」分野責任者
日本医学英語教育学会理事
押味 貴之 先生