ドクターサロン

池田

入園や入学のときにアレルギーの検査の有無という項目があるそうですが、そもそもなぜこのような項目の質問がされるようになったのでしょうか。

小林

おそらくですが保育園や幼稚園、学校がアレルギーに対してちょっと過敏になっている。きちんとアレルギーがわかっているか知りたいという欲求があるからだと思います。

池田

この場合、鼻炎、喘息があるわけでもなくという質問ですが、対象となるのは食物アレルギーなのでしょうか。

小林

食物アレルギーのアクシデントが一番多いかと思いますので、施設側としてはそういうことが起こってほしくないという思いがあると思います。

池田

何か給食などで食べさせて、ショックになってしまうとたいへんなことになるから、あらかじめ知っておこうということですか。

小林

そうですね。例えば東京都の統計では保育所で初発のアレルギーが起こるのは37%というデータも出ています。

池田

初発というと、わからないですよね。

小林

はい。たとえ前もって検査をしていたとしても、抗体が上がっているとも限りませんので、予測することはできないと思います。

池田

ということは、何か起こった際に、問題ないと回答があったら、それが自分たちの安全の担保になるという考えなのでしょうか。

小林

私はそう思っています。すべてそれで説明できるかどうかというと、100%とは言い過ぎかもしれませんが、一種のエクスキューズであると思っています。

池田

親としては「ああ、そうか、検査したことないから、やってみてもらってもいいかな」ということで来ると思うのですが、実際に何種類も検査できるものなのでしょうか。

小林

医療保険の範囲があり、大学病院とかマルメではない場合は13項目まで行うことができます。ただ、マルメでやっているところは1人当たりの金額が決まっていますので、たくさん項目を行うと持ち出しになってしまいます。

池田

そういう意味では、症状がないお子さんに検査をむやみに行うということは、医療経済上どうなのでしょうか。

小林

医療経済上はマイナスです。無駄な検査はするべきではないと考えます。実際、体の中にはアレルギー反応を抑える働きがいろいろあり、陽性でも症状のない方はいっぱいいるのです。その場合は逆に陽性だということで除去されてしまうという、過剰な除去が起こりうるのです。

池田

過剰な除去というと、それに対して、レベルは別として反応を持ち続けるということですか。

小林

検査上は感作という状態ですが、症状が出ない人がけっこうたくさんいるのです。

池田

逆に、正常といわれるお子さんを検査して、食物に対する抗体はけっこう出るものなのでしょうか。

小林

出ます。そこが問題なのです。私たちがアレルギーの診断をするときに最も大事なのは検査結果ではないのです。症状が出て、そのときの状況はどうだったか、何を食べてどのくらいの時間でどういう症状が出たか、それを詳しく聞くことが一番大事なのです。その後に同じようなことが何回かあって、再現性があれば、さらに確かめられます。それで疑わしい食物に対して血液検査を行って、IgEが上がっていれば、より確かである。血液検査はそのぐらいの意味合いです。

池田

補助的なものということですね。

小林

そうですね。補助的と言ってもいいと思います。

池田

View39とはどんなものなのでしょうか。

小林

スクリーニングにはいい検査かもしれません。アレルゲンが何かわからない場合に容疑者を見つける、と思ってください。ただ、犯人ではありません。実は定量性にやや欠けるところがあるものですから、View39の結果だけで除去してはいけないとされています。あくまで最初の手がかりとしてする検査だと思ってください。時々、たくさん陽性が出て食べるものがなくなってしまったという場合があります。「でも、先生、実際食べていたんですけど」と言われる場合もあるのです。その場合は検査は正しい結果を示していないと考えたほうがいいと思います。

池田

確定というのはいわゆるチャレンジテスト(食物負荷試験)になるのでしょうか。

小林

チャレンジテストが確定診断には一番いいとされていますが、どこでもできるものではありません。万一、アナフィラキシーが起きてしまうと、すぐ対処できるかという問題がありますので、必ずしもすべての地域でできるというわけではありません。

池田

イメージとしては、医師の前で、あるいはベストはルートを取っておいて、そしてチャレンジするということでしょうか。

小林

そうですね。ルートを取る取らないは施設によって若干違うようですが、少なくともモニタリング、心電図やサチュレーションモニターをつけて、監視しながら行う。可能であれば複数の医師で監視します。今はびっちりとした同意書も書かなければいけないぐらい、けっこう大きな検査といいますか、事故が起こりうる検査であるという考えで行っています。

池田

その危険性も考えつつ、状況を整えて検査していく。

小林

そうです。

池田

例えば、食べさせる量はどのくらいから始めるのでしょうか。

小林

どのぐらいの量を食べて症状が出たのか最初にアナムネで聞くのです。その量を基にして、最初はそれよりも少ない量から食べて、それからその3倍、3倍というように、30分ごと、あるいは1時間ごとに増やしていきます。施設によって若干異なりますが、例えば卵で症状が重い人は0.1g食べて、その次0.3g、1g、ある程度食べられる人は1g、3g、10gというふうに、それぞれの施設のプロトコールに従って行います。

池田

30分おきぐらいというのはだいたい同じなのですね。

小林

そうです。だいたいが30分おきぐらいです。ただ、例えば患者さんにお話を聞くと、食べてから40分で出たという場合もあるのです。そういう場合は1時間ごとに行う。食べて2時間で出ましたという人だったら、長い時間をかけて検査をすることになるでしょうね。

池田

入院みたいな感じですね。

小林

特にアナフィラキシーを起こしたような方や年少児の方の場合は原則入院で行います。

池田

そうなのですね。それだけ重篤になる可能性もあるという話をして、きちんと同意・説明書にサインしていただくということですね。

小林

そうです。ただ、すべての地域でやるわけにいきませんので、アナムネとか状況証拠から明確な場合は負荷試験を行わない場合もあるかと思います。

池田

もう一つ、兄姉が食物アレルギーなので、この子もそうなのではないか、血液検査をやってほしいという話にもなると思うのですが。

小林

それは心情的には理解できます。兄姉でちょっとたいへんな思いをしたので、弟妹に関しても心配である。当然だと思います。ただし必ずしも100%、兄姉が症状が出たから弟妹も出るというわけではありません。意外に少なくて、すべて検査をやっていると医療経済的にはマイナスであるという論文もあります。

池田

そうですよね。兄弟とはいえ、遺伝的にも全く違うものでしょうから。

小林

そういうことです。最初に食べるときには安全性を考えてできるだけ少量を食べる、そういったことを指導します。

池田

やはりベストとしては医療機関に来ていただいて、ちょっと少量食べて遊んでおくとか。

小林

例えば兄弟が非常に強い症状だったり、親御さんがすごく心配している場合は、外来に来て少量食べて1時間遊んでいてもらう。大丈夫だったら帰ってもらう。負荷試験とまではいわないですが、そういうふうにして親御さんに安心していただく場合もあります。

池田

少なめでよかったということになると、例えば翌日、倍量などを食べていただくようなこともするのでしょうか。

小林

それよりはもう少しゆっくりとした速度で、2~3カ月かけてだんだん増やしていくことになると思いますが、最初食べたときに全く症状が出ていない場合は慎重に徐々に増やしていくのがいいと思います。1日ごとの倍増だと、もしかしたら途中で症状が出る人がいるかもしれません。

池田

自宅で症状が出ると怖いですね。

小林

そうなのです。ですから、そこは慎重に、週単位、月単位で考えていったほうがいいと思います。

池田

そのほかのアレルギーですが、例えばアトピー性皮膚炎や鼻炎、喘息などがありますが、こういう場合はやはり検査しなければいけないのでしょうか。

小林

例えば、鼻炎が一番わかりやすいと思うのですが、典型的なⅠ型アレルギーですし、原因がはっきりします。その場合、抗原を知っておくということは大事だと思います。

池田

保育所などは関係ないような感じがしますが。

小林

治療とか今後のケアの意味で知っておくことは大事ですが、保育所ですべて対処できることではないと思いますので、保育所が「検査をしてください」というのはちょっと言い過ぎかと思っています。

池田

おそらく親御さんたちはアレルギーというと、保育所が想定している食物アレルギーではなくて、アトピー性皮膚炎とか鼻炎、喘息のほうにいきますよね。

小林

生活管理指導表というものにはアレルギーのいろいろな疾患が項目として載せられていますが、アトピー性皮膚炎や鼻炎も項目としてあります。そうすると親御さんたちは、ここに書くと保育所がいろいろケアしてくれるかなと思うわけですが、正直いって食物アレルギーが主で、そのほかに関してはそんなに細かいケアが行われるわけではないようです。

池田

保育所側とちょっとベクトルが違うのですね。

小林

そうですね。そう思います。私たち医師はその間に入るので、時々困ることがあります。親御さんには説明しているのだけれども、親御さんが保育所に行って話をすると、「いやいや、違うのだ」となって、間に挟まってしまうことがあるのです。

池田

板挟みですね。最後の質問ですが、これらをどのように説明すればよいでしょうか。

小林

アレルギーの検査は、症状があって、特定の原因があると疑われる場合だけです。また前もって今後出るアレルギーが検査で予想できるわけではありません。検査で陽性でも、即食べ物を除去する必要があるわけではありません。先ほど補助的という話が出ましたが、アレルギーの検査によってアレルギーがすべてわかるわけではないので、安易に行うべきではないと思っています。目的を持って検査することが大切です。

池田

どうもありがとうございました。