山内
今回のテーマはなかなか差し迫った問題で、現在も進行形かと思いますので、とりあえずリスクと感染対策に関してお話しいただきたいと思います。まず実際のリスクの報告についてはいかがでしょうか。
河合
日本全国で、ある健診センターで検査した医師が感染したとか、そういう散在性の報告はありますが、何人中何人、何%に起こるという明らかな報告までには至っていません。
山内
医療従事者側の対策も着々と進んでいますので、簡単に何%というわけにもいかなくなっているのでしょうね。
河合
先生がおっしゃるとおりで、私どもも含めて医療サイドも最初は手探りでしたが感染対策を徐々に進め、今はしっかりしたものでやっています。その辺の状況は改善したため、データがあまり出ていないという状況ではないかと思っています。
山内
早速その感染対策に移りたいと思います。まず医療従事者は当然マスク、ゴーグルといった、プロテクターの世界になるのでしょうね。
河合
以前より、患者さんに使うスコープ処置具は減菌・消毒した状態で、それ以外は普通にやっていていいというかたちでした。しかし、コロナ禍になってからは白衣ではなく、内視鏡用のスクラブを着用し、スタンダードプリコーションを徹底するためにpersonal protective equipment(PPE)として、帽子、ゴーグルとマスク、ガウン、手袋、それから靴を防御するものもつけています。必ずPPEを装備してスコープを操作するというように、本当にだいぶ変わってきました。
山内
これは今、その辺でも見られるように思いますが重装備ですね。質問の中に内視鏡の洗浄時のリスクがあります。これに関して少し詳しく教えていただけますか。
河合
内視鏡の洗浄に関しては、検査が終わったところから洗浄する部屋、あるいは洗浄する場所まで内視鏡を持っていって、まずはスコープについている粘液や血液をしっかり洗い流し、次にスコープ内部を機械や手で洗って、最終的に消毒して乾かすという作業です。消毒液には次亜塩素酸のような細菌、ウイルス、さらには芽砲も消毒できるものを使用します。新型コロナウイルスだからといって、やることは大きくは変わっていませんが、一つひとつの操作中に周りに洗浄液が飛び散らないように、あるいは洗っている方にも感染しないようにより守るという意味では、スコープを運ぶ際にできれば箱のようなもの、あるいは少なくともビニールのようなものでしっかりと完全に囲って、洗浄の機械、あるいは洗浄の流しまで運びます。洗浄担当者も同様にPPEを着用して感染対策をします。さらに処置具に関しても同じように、洗ったのち、超音波洗浄機にかけて、最後はオートクレープで滅菌するという方法です。これは以前からも行われていましたが、ただ、その一つひとつの操作に関しても、より飛沫等が飛ばないように慎重にやっていただく必要が出てきたということです。
山内
あと部屋の問題ですね。コロナは空気感染ともいわれていて、患者さん同士、あるいは医療関係者との間でも問題になります。部屋の空調をはじめとして、こちらもけっこうたいへんでしょうね。
河合
コロナ陽性が確定している場合は陰圧室が必要となります。それ以外、通常の検査では換気を全体によくして行います。以前は私どもの施設もほかの施設も、患者さんのプライバシーのために、ほとんど密閉して、外に音が出ないようにしていたのですが、今は逆になるべく換気をよくして、中で空気がとどまらないようなかたちで行うようにしています。
山内
あと、もちろん待合室の患者さんの密を避けるというのも出てきますね。
河合
そうですね。
山内
こう言ってはなんですが、お聞きしますとコストがかなりかかるような気もしますね。
河合
感染対策は医療において重要事項です。消毒および一人ひとりに一つひとつ交換していましたが、現在はディスポーザブルで一人ひとりを新しいものにしていくことが多いので、以前よりも少しコストはかかっているというのが本音であると思います。
山内
開業医や健診センターには影響も多大と考えてよいのでしょうね。
河合
私どもの施設でもやはりその辺の影響は出ていますし、健診センターや開業医となりますとコストアップしている割合が少し高くなっていると思います。
山内
防御服や消毒に関して新たに必要なものがいろいろ出てきますが、こういったものへの保険からの補?は、今のところないのでしょうか。
河合
私どもの施設ももちろん患者さんに使ったものはすべて洗浄、消毒していますが、こちらに関してはすべて病院の費用でやっていて、保険のほうで、この消毒をしたから何点を加算できるというような、あるいはガウンをこれだけつけてやっているからこれだけ防御加算がされるというのは、まだできていないのが現状です。
山内
少し話が違いますが、胃の内視鏡に関しては経鼻内視鏡がありますね。これだと、口にマスクをすることはできるのでしょうか。
河合
私どもの施設でも口と鼻と両方で行っていますが、鼻から行う場合はマスクをしたままでも鼻から挿入ができるので、検査中に、もし“ゴホッ”と嘔吐反射等が起こっても、マスクで飛沫を明らかに抑えるという報告が論文等にも発表されていますので、なるべく鼻からの内視鏡のときはマスクをしていただいて検査しています。
山内
あと、個々の話を少しうかがいたいと思います。コロナ感染をすでに起こされていることが判明している患者さんが、例えば吐血といったもので緊急で来た場合、内視鏡検査はなかなか厳しいのでしょうか。
河合
コロナ感染している方の内視鏡検査の場合は、陰圧の部屋で完全に密閉してしっかりやらなくてはいけない。いろいろな感染対策も今まで以上にしっかりやらなければいけません。あとは患者さんの状態も把握しなければいけないので、原則、先生がおっしゃったとおり、吐血による消化管出血の程度が強く止血をしないと生命に関わる場合は、内視鏡検査を必ずやります。吐血は少なく、ヘモグロビン値もほとんど下がっていない場合は、まずはコロナ感染の状況を把握して、それでもまた吐血したり、何かあったときに実施するようにしています。
山内
少し待機的になりつつあるのですね。
河合
はい。
山内
肥満、高血圧、糖尿病などいわゆる感染のハイリスク患者さんも少し待機的になっているのでしょうか。
河合
私どもの施設でも経年的にいろいろ内視鏡検査をしている方が多いのですが、リスクを考慮して検査を行うようにしています。例えば胃がんならば、ピロリ菌がいない方、かかったことがない方とか、あるいは大腸のポリープでいうと、ポリープが1回も見つかったことがない方は、少し間隔を長くしてもリスクが大きくないので、少し期間を延ばしています。
山内
ありがとうございました。