山内 熱性痙攣はおなじみのものではありますが、救急車で来たときにけろっとされている場合は熱性痙攣だなと、我々も落ち着いて対応できますが、これがまだおさまっていない、痙攣あるいは意識障害があるお子さんがいきなり救急車で来ると、不安に駆られるものです。こういった場合の小児科医の対応の仕方をまずご紹介願えますか。
夏目 確かに多くの場合は、家で熱性痙攣が起きても、病院に救急車で運ばれてきた頃にはおさまっていることが大半ですが、一部にはなかなか発作が止まらなくて、重積状態といわれる発作が止まらない状態で救急で対応することもあり、我々小児科医でもやはりたいへんびっくりするものです。この痙攣発作に対応するときのポイントはこちらがパニックにならないで落ち着いて対応するということです。
あとは、まずこの発作を止めなければという薬のほうに頭がいきやすいのですが、痙攣発作が起きている、意識障害がある患者さんを最初に対応するときには、気道確保やバイタルサインをまず確認して、そのうえで薬の投与に進む、そういうところが大事ではないかと思っています。
山内 これは乳児の方でも起こる病気ですね。乳児が運ばれてきた場合はどうされるのでしょうか。
夏目 乳児の場合、これまで痙攣発作を止める薬の投与というと、静脈ルートを確保してジアゼパムなど即効性のある薬を静注するのがスタンダードです。ただ、ご存じのように、乳児では点滴を取るだけでも時間がかかったりするので、ここが一つ大きな課題になると思います。
山内 この治療法に関してはまたあとでお願いしたいのですが、最初に来られたときの鑑別診断で大事なところを教えていただけますか。
夏目 やはり熱性痙攣は頻度が高く、多くの人は経過がいい一方、救急では細菌性髄膜炎や急性脳症など中枢神経感染症に関係する見逃すとたいへん危険な病気との鑑別が大事で昔から悩ましい点です。意識状態など熱性痙攣と鑑別が難しいことがあって、熱性痙攣だろうと思っても、発作が止まった後の意識レベルがちゃんと回復するのを見届けて、そうした怖い疾患が鑑別にあることを忘れないことが大事かなと思っています。
山内 一過性の痙攣はほぼ熱性痙攣で間違いないのは確かなのでしょうか。
夏目 ただ、これもなかなか難しいことがあります。発作自体は短くて、最初は熱性痙攣かと思っても、やはり意識の回復が不十分であったり、また発作が起きてきて髄膜炎が見つかったりということもあって、特にご指摘いただいたような乳児では昔から鑑別が難しいこともあるので、こうした疾患を忘れないことが大事だと思います。
山内 念のための検査というと、先生方はどのあたりまでされるのでしょうか。
夏目 髄膜炎かどうかを調べるのと、腰椎穿刺で髄液検査をするのかということになります。これも少し歴史があって、何十年も前は細菌性髄膜炎の頻度が今よりも高かったこともあると思いますが、アメリカなどでも乳児で初めての熱性痙攣があったら、単純型のような状態でも髄液検査をやりなさいというガイドラインの推奨がありました。しかし、やはりこれは侵襲性があり、やり過ぎだろうということで、今は短時間の発作でおさまって、意識回復がよくて、いわゆる神経学的な異常所見がほかになければ、必ずしもそういう侵襲的な検査は必要ないと、判断が昔とは変わっています。
山内 経過を見てくださいということでよいのですね。
夏目 そうですね。
山内 では、初期治療に移りたいと思います。最近新しい治療法、治療薬も開発されてきたようですので、まずこのトピックから教えていただけますか。
夏目 乳児とか小さいお子さんが痙攣を起こして搬送されてきて、まだ痙攣発作が続いている場合、スタンダードな治療の仕方としては点滴静脈ルートを取って、そこからジアゼパムなどの静注薬を投与するというのが通常のやり方ですが、小さいお子さんですと、点滴ルートを確保すること自体がなかなか難しいことが起こりえます。それによって痙攣発作の治療が遅れてしまうこともありえますので、最近トピックとなっているのは、静脈ルートではない投与方法の薬が市販されたことです。具体的にはミダゾラムというジアゼパムと同じベンゾジアゼピン系の薬ですが、ミダゾラムを注射のシリンジのような形をしたキットで口腔内に粘膜投与する。そういう薬が市販されています。
海外のあるランダマイズドコントロールスタディなどの結果を見ると、痙攣発作が続いているお子さんに点滴ルートを取ってジアゼパムを静注するのと、最初から口腔や鼻腔にミダゾラムを投与するのとで比べると、効果は変わらずに、非静脈的に投与したミダゾラムの群のほうが発作が止まるのも早かったという報告が出ており、今後のお子さんの痙攣の治療について大きな変化を与えるものだと思っています。
山内 それはたいへんな朗報ですね。口腔以外、鼻腔でもかまわないということですね。
夏目 そうですね。海外の報告などでは鼻腔でも効果があります。場合によっては筋注という報告もあるのですが、日本で小児の痙攣に対しての治療薬として承認されているものは口腔内です。頰粘膜への投与ということになります。
山内 かつ即効性というのは非常にありがたいですね。
夏目 そうですね。小児科医に限らず、広く救急を担当する医師に使っていただければと思っています。
山内 ただ、小児ですと体格に随分差があり、6カ月ぐらいのお子さんから6歳くらいのお子さんまでけっこう幅広いので、投与量を変えないとだめだと思われますが、これはいかがでしょうか。
夏目 今市販されている薬剤の規格が、ミダゾラムの規格は年齢単位で4つほどタイプが分かれていますので、患者さんの年齢に合わせて使うキットを選んでいただく、そういう使い方になっています。
山内 使い方も随分と簡便になったという印象ですね。質問に戻りますが、ジアゼパム坐薬を使うということで、予後、てんかん発症に差があるのではないかという研究も進められたのでしょうか。
夏目 これも重要な問題で、来たときに発作は止まっている。ただ、中にはいわゆる複雑型熱性痙攣として、1回の発熱期間に2回目の発作を反復する方がいて、これがなかなか救急や診療を担当する医師にとっては困る状態になります。ジアゼパムの坐薬は熱が出たときに、これまでに熱性痙攣が繰り返し起きているような人が発熱時に投与して熱性痙攣を予防するのがもともとの使い方なのですが、これを救急外来で熱性痙攣を起こしてきたけれども止まっているときに、反復を防ぐために投与するといいのではないか、と考えられるのです。ただ、これをやるべきかどうかは、実はガイドラインの策定上など、いろいろな臨床の場でも多くの議論がある問題になります。
山内 この反復型、これは複雑型と呼んでいるようですが、将来てんかんの発作リスクが高いのでしょうか。
夏目 確かに複雑型熱性痙攣というのはもともとが1回の発熱期間に反復するタイプ、長時間発作が続くタイプ、焦点発作のような要素のあるタイプ、の3つがあって、いずれかを持っていると複雑型と分類され、これらのない単純型の熱性痙攣よりも将来のてんかん発症に関連する因子になるといわれています。
山内 将来のてんかん予防に関してはまだこれから議論が必要、ということですね。
夏目 そうですね。私が考える注意点としては、今の複雑型熱性痙攣という状態は将来のてんかん発症のリスク、関連因子になるといいましても、これはおそらく反復しやすい人というのはもともと痙攣を起こしやすい素因が高い人なのだろうと想像されます。ですので、例えば今の救急外来で反復をジアゼパムの坐薬で予防するかどうかにおいても、これで予防しなかったら、それが原因で将来のてんかんを発症させてしまうとか、そういう原因のように考える必要はなくて、個別の症例においてはそれで将来のリスクを上げてしまうと心配する必要はないだろうと思います。あとはそもそも熱性痙攣全体で見ても、複雑型を含めて、将来てんかん発症を起こす人はわずかで、大多数の人は起こさないので、あまり過剰に心配しないようにするのが大事だと思っています。
山内 どうもありがとうございました。
熱性痙攣の初期治療
名古屋大学小児科特任教授
夏目 淳 先生
(聞き手山内 俊一先生)
熱性痙攣が止まっている場合の外来でのジアゼパム坐薬の使用についてご教示ください。
熱性痙攣診療ガイドラインでは「来院時に熱性痙攣が止まっている場合、外来でルーチンにジアゼパム坐薬を入れる必要はない」と記載されています。しかし、ジアゼパム坐薬を使用しなかったグループは、使用したグループに比べて熱性疾患罹患中の熱性痙攣再発が有意に多いという報告が多くあります。また、発熱24時間以内に複数回発作を認めた場合は複雑型に分類され、将来てんかん発作リスクが高いとされています。初期治療の差(ジアゼパム坐薬を使用したかしていないか)で複雑型に分類されてしまう症例も存在しますが、それでも将来のてんかん発症のリスクが左右されてしまうのでしょうか。
埼玉県開業医