ドクターサロン

 池脇 矢田先生、心房細動に関して高齢の方をどこまで治療したらいいのだろうかという素朴な質問です。
 質問にある高齢者、超高齢者という言葉の定義ですが、2017年に日本老年医学会が以前は65歳だった高齢者を75歳以上、超高齢者を90歳以上としました。ですから、今回の高齢者というのは基本75歳以上ということでお聞きします。そういう高齢者で、どこまでレートとリズムを治療したらいいのか。専門医の立場から先生の考え方をお聞かせください。
 矢田 まず75歳以上ということは、皆様もよく使われていると思いますが、CHADS2スコアの年齢のところで必ず1点になるので、基本的にはまずレートコントロール、リズムコントロールの前に、抗凝固薬は大半の方に必要になるというところが一番大事かと思います。抗凝固薬に関しては、今はおそらくワルファリンよりもDOACを使うほうが脳出血等の出血性合併症が少ないので、先生方も腎機能が悪い方でなければ日頃から使っていらっしゃると思います。
 その抗凝固薬を使ったうえで、ではレートコントロールにいくのか、リズムコントロールにいくのか、そこのところは個々の症例ごとでなかなか判断が難しいところがあると思います。今ガイドラインでもいわれているのは、症状がある方、心房細動によって動悸がドキドキして辛い、息切れがする、そういう症状がある方に関しては、症状を取ってあげるためのリズムコントロールにいくことが多いかと思います。
 池脇 以前は薬物による除細動でしたが、今はリズムコントロールというとほぼアブレーションと考えてよいのですか。
 矢田 もちろん個々の症例ごとによりますし、アブレーションも少ないながらも合併症はゼロではありません。高齢の方はやはりそういう侵襲的なことはしたくないという方がいらっしゃいますので、そういう方は薬をまずしっかり使っていただきます。Naチャンネル遮断薬を使うことが多いと思いますが、それが1剤でも効かなくなってくる薬剤抵抗性になると、ほかの薬剤に変更してもほとんどの方が再発しますので、そういう方はアブレーションのよい適応になってきます。今の時代、最初から薬でいくよりはアブレーションしたいという方に関しては、よく説明したうえでアブレーションをすることも実際はありますが、そこは患者さんの希望に合わせて提案してどちらを選択するかを決めていくことが多いかと思います。
 池脇 確かに高齢者とひとくくりではなかなかいかず、その方の社会的な活動度、それこそ認知症が入っているかどうかなどによって医師の判断もだいぶ変わってくるのですね。
 矢田 おっしゃるとおりで、アブレーションをするときに大事になってくるのは一つ認知症と、もう一つフレイルだと思うのですが、フレイルの患者さんはアブレーションをしてもあまりメリットがないことが多いです。今は80代でもかなりお元気な方、ゴルフに行かれたりなど、アクティビティが高い方もいますので、ひとくくりに年齢だけではなかなか切れないと思いますが、フレイルとか認知症があるかないかで、フレイルがなくてしっかりしている方は80代でも実際のところアブレーションすることが多いです。ただ、90歳以上の超高齢者になりますと、さすがにそういう侵襲的な手技は極力しないことが多いので、その場合は薬剤によるコントロールにいくかと思います。
 池脇 患者さんの心房細動の症状があるかどうかでその後の治療を考えるということをおっしゃいましたが、心房細動は症状があるなし以外に発作性心房細動(PAF)か慢性心房細動(CAF)かも治療の判断に関係してきますか。
 矢田 そこも非常に大事なところかと思います。アブレーションのよい適応はPAFで数時間とか1週間以内で止まる方、特にそういう方は、症状がかなり強い方、あるいは全くない方にはっきり分かれます。その中で、症状がある方は比較的薬物かアブレーションでリズムコントロールにいくことが多いです。
 Non-PAF、CAFといった持続性心房細動になってきますと、だいたいの方が症状がなくて放置していたので慢性化してきている。持続性に進行している方が多いので、持続性の方は比較的症状があっても、年のせいかなと思って放置していた方が結構いるのです。ただ、持続性心房細動の方でも、よくよく考えると最近息切れがしてくるとか、症状が出てきて、BNPも高くなってきて心不全を合併してきているような方に関しては、症状が比較的軽くてもアブレーションにいくことが多いかと思います。
 池脇 アブレーションを行う立場の医師からすると、CAFよりはPAFのほうが成功率が高いのですね。
 矢田 おっしゃるとおりです。もちろん施設によって違いますが、PAFですと、1回の手技でも、7割前後の治療成績がありますし、アブレーション+薬物療法のハイブリッドで治療しますと、1回でも8~9割ぐらいの方が洞調律を維持できることが多いですので、発作性はよりよい適応でしょう。ただ、持続性に関しては、初回でよくてだいたい5~6割だと思うのですが、やはり再発が多いです。持続性心房細動に関しては2回目以降の治療も十分ありうることを納得いただいたうえで治療にいくことが多いかと思います。
 池脇 リズムコントロールに関しては何歳という区切りではなくて、患者さんの背景とか、そういったもので判断されているとのことですが、もう一つのレートコントロールに関してはどういうアプローチをされているのでしょうか。
 矢田 レートコントロールに関して、迷われるのが心拍数をどこまでコントロールするかだと思います。今のガイドラインでも、基本、心拍数は110/分以下でいいといわれていて、80/分以下と110/分以下で2つの群に振り分けた場合に、実際に有害なイベントはどちらも差がなかったということから、これは個々の症例に応じてでいいと思います。基本はまず110/分以下にコントロールして、例えば心不全症状がある、息切れがする、あるいはBNPが高い方に関しては、より下げてみるというのも一つの手だと思いますが、基本110/分以下でコントロールできればいいと考えています。
 池脇 レートをコントロールしたいというときに先生が主に使われるのはβ遮断薬が多いのでしょうか。
 矢田 心機能が良好、EF 40%以上の方に関しては、β遮断薬の薬物療法、内服加療がファーストチョイスになってきますし、それでコントロールがつかない方に関してはCa拮抗薬のベラパミルとかジルチアゼムを併用していくことになると思います。
 池脇 この10年前後ぐらいで、限定的だったアブレーション治療が今いろいろなところで行われていて、そういう意味ではアブレーション件数が増えてきているような状況だと思います。それに伴って以前だったらアブレーションをしないけれども、今だったらできる、そういう傾向にあるのでしょうか。
 矢田 アブレーションの適応として、最近広がっているのは心機能が低下したHFrEFの方であれば生命予後をよくするというデータも出てきていますので、心機能が低下している方こそ逆に洞調律に維持し、心房の収縮能を回復させて心不全をよくするということもあります。それ以外にも、過剰なところがあるかもしれないですが、認知機能をよくするともいわれたり、いろいろないい効果がいわれています。個々の症例によってやる・やらないを迷う症例はあると思うのですが、迷ったときには開業医であれば専門医に一度コンサルテーションするのが非常に大事なことかと思います。
 池脇 心房細動のアブレーションというのは、1回のアブレーションで徹底的につぶすというよりも、あまり深入りしないで、1回やって、再発するようであれば2回、3回という、長期戦と聞きましたが、どうなのでしょう。
 矢田 基本はそれでよいと思います。特に発作性の方は最初からいろいろ拡大して行う必要はないと思いますので、どこの施設でも肺静脈隔離単独でいかれることが多いのではないかと思います。個人的には、持続性の方は肺静脈隔離プラス心房粗動を焼いたり、左房の後壁をボックスで隔離したりすることはあるのですが、基本的には特に発作性の方の場合は最初は肺静脈隔離だけで効く方は十分効きますので、それでだめだった場合は肺静脈以外のところを2回目で治療していく医師が多いかと思います。
 池脇 最初にICをされたうえで納得していただいて、場合によっては何回か繰り返して洞調律を目指すという考え方なのですね。
 矢田 そうですね。
 池脇 最後に、ポリファーマシーなど薬の相互作用、この場合はおそらく除細動できるリズムコントロールの薬剤が中心かと思いますが、何か注意したほうがいい組み合わせはあるのでしょうか。
 矢田 まずポリファーマシーに関しては、世界のDOACのスタディを見ても、少なくとも90%以上の方が高血圧である。半数近くの方が脂質異常があって、糖尿病がある。心房細動がある時点で6剤以上のんでいる方が非常に多く、ほとんどポリファーマシーに近いと思うのです。そういう方にアブレーションで薬剤を減らせる方は減らすというのも一つの考え方かと思います。 あと、ポリファーマシーの際に問題になる薬として、一つはレートコントロール薬として心機能が悪いときに使うジギタリスですね。これが高齢で特に腎機能が悪い方がジギタリス中毒になりやすいという特徴があるので、使うとしても0.125㎎、あるいはその半分で使って、腎機能と血中濃度を定期的にモニタリングしながら使う必要があるかと思います。リズムコントロール薬に関しては、よく使うNaチャンネル遮断薬のピルシカイニドも注意が必要です。これはほぼ腎排泄の薬で、腎機能が悪い方には減量が必要で、低心機能の方に関しては使えません。腎機能を定期的にチェックしながら、腎機能が悪い方の場合は肝代謝の薬、プロパフェノンやベプリジルを患者さんの状況に応じて選択していく必要があるかと思います。
 池脇 高齢者ならではの、特に腎機能には配慮して薬を選択しましょうということですね。
 矢田 あとは少量から徐々に始めていくというのも手かと思います。
 池脇 ありがとうございました。