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皆さんは「トイレはどこですか?」を英語でどのように表現しますか?

「え? “Where is the toilet?”じゃないの?」と思った方も多いことでしょう。確かに英国や豪州では日本と同様にtoiletは「トイレ」という空間として使われます。ですから“Where is the toilet?”という表現は英国や豪州では極めて自然な表現です。しかし北米ではtoiletは「便器」そのものであり、通常日本人が「トイレ」として表現する空間は、個人宅のものはbathroom、そして公共施設のものはrestroom(カナダではwashroom)やladies/gents(ladies’/men’s room)などと表現されます。ですから米国で“Where is the toilet?”と聞いたら、怪訝そうな顔で“It’s in the restroom.”と思われてしまうのです。

またrestroomは比較的婉曲的な表現でもあるので、個人宅を訪問している場合でも“May I use your restroom?”の方がより丁寧な表現となります。よく「なぜa restroomではなくthe restroomのように定冠詞を使うのですか?」という質問も受けるのですが、話し手は「この施設内(もしくは周辺)にあるはずのトイレ」というイメージで話すため、the restroomのように定冠詞を使うのが一般的なのです。ですから皆さんが米国での学会で「トイレはどこですか?」と尋ねる場合には、“Where is the restroom?”や“Where is the ladies/gents?”などと表現するのが最適なのです。

英国や豪州ではこのtoiletやbathroom以外にも、looという表現が「トイレ」として使われます。また少し婉曲的な表現としてはfacilitiesというものもあります。英国でもbathroomという表現は使われるのですが、これは文字通り「浴槽が併設されているトイレ」というイメージになります。カナダでは今も「話し言葉」として使われるwashroomですが、カナダ以外では「書き言葉」としてしか使われません。ただこのwashroomを意味するラテン語であるlavatory(「ヴァタリィ」のように発音)は、現在でも「飛行機内のトイレ」の標記として国際的に使われています。またこのlavatoryは「血液検査」を意味するlaboratory(「ララトリィ」のように発音)と混同される方がいらっしゃるので注意してください。日本でもトイレの表示で使われるWCですが、これはwater closetの略で、現在では英語圏でも「書き言葉」としてしか使われていません。

このほか「トイレ」には、かなりカジュアルな「口語表現colloquial expressionsも数多く存在します。代表的なものとしては英国のBog/Khazi/Jacksや米国のJohn、そして豪州のDunnyがあります。一見するとどれも固有名詞のように見えますが、a/the restroomと同様に、a/the johnやa/the dunnyのように冠詞をつけて使われます。

では次に「尿」に関する英語表現を見ていきましょう。

尿」を意味するurineと「排尿する」を意味するurinateは医学英語ではありますが、英語圏ではどちらも一般の方に使われる表現です。ですから医師としては、まずこのurineとurinateを使うようにするといいでしょう。また「尿」は婉曲的にwaterと、そして「泌尿器」はwaterworksとも表現されます。ここから「利尿剤diureticsは一般の方にはwater pillsと呼ばれます。またurinateは英国ではpass waterとも表現されるのですが、英国以外ではこの表現を使う人は少ないので注意してください。

また英語圏の患者さんがよく使う表現としてはpisspeeというものもあり、どちらも動詞・名詞の両方として使われます。日本ではこれらの表現を「子供が使う表現」と思っている方も多いようですが、実際には大人も普通に使う表現です。子供に対して使う語現としてはweeやwee-weeという表現があるので、これらは区別して覚えておいてください。

そして「排尿する」という行為には英語でも様々な「婉曲表現euphemismsが存在します。日本語の「お化粧直し」という婉曲表現に匹敵するのがpowder one’s noseという表現です。そして日本語の「生理現象」に相当する英語がcall of natureです。また英国では古風な婉曲表現としてspend a pennyというものがあります。これはその昔、英国では公衆トイレを使うのにone pennyが必要だったため、spend a pennyが「公衆トイレを使う」という意味になり、そこから「トイレに行く」を意味するようになったのです。そして日本語の「」と「」に匹敵するのが、英語のnumber onenumber twoです。大人がこの表現を使うことはあまりないのですが、人前で小さな子供に「どっちがしたいの?」と聞く際には、“Do you need a number one or number two?”のような表現を使います。

最後に「大便」に関する英語表現も確認しておきましょう。

「(大)便」は英語ではstoolとなり、これは医学英語としても使われます。日常会話でstoolは「背もたれや肘掛けのない椅子」も意味しますが、同時に「便座」も意味します。ここから転じてstoolは「(大)便」を意味するようになったと考えられています。ただ「排便する」のdefecateという動詞は一般の方にはあまり馴染みがなく、「お通じがある」を意味するhave a bowel movementという表現が使われます。ですから医師としてはまずこのstoolhave a bowel movementという表現を押さえておきましょう。

「(大)便」を意味する代表的な一般表現としてはpoopoopというものがあります。どちらも「排便する」という動詞としても大人にも使われますが、poo-pooという表現は子供に対してしか使われません。また「(大)便」にはfecesという表現も使われ、「便失禁」にはstool incontinenceよりもfecal incontinenceという表現の方がよく使われます。ちなみに便失禁の有無を患者さんに尋ねる際には“Did you soil yourself?”のようにsoilという動詞を使います。「土・土壌」を意味するsoilは動詞としては「土をつけるように汚す」というイメージになり、soil oneselfで「便失禁をする」という意味になります。(「尿失禁urinary incontinenceの有無は“Did you wet yourself?”などと尋ねます。)

下痢」のdiarrheaと「便秘」のconstipationはどちらも有名ですが、慣用表現としてdiarrheaにはthe runsという名詞が、そしてconstipatedにはbeing clogged upという形容詞が使われます。また「下痢止め・止痢剤」のantidiarrhealと「下剤」のlaxativeはどちらも患者さんが理解できる一般英語です。

そして「(大)便」と「排便する」にも様々な慣用表現が存在します。経済用語の「ダンピング」の由来であるdumpは、「どっさりと落とす」というイメージから「便」という意味にもなりますし、テニス用語の「デュース」の英語であるdeuceは元々数字の2を意味するのですが、「サイコロを2つ振った場合の最低の数字」というところから「不運」や「災難」を意味し、そこから転じて「糞=便」という意味でも使われています。どちらもtake a dump/deuceのように使うことで「排便する」という意味になります。また「排便する」を意味するかなり面白い表現としては、make a deposit in the porcelain bank「陶器の銀行で貯金する」というものもあります。このporcelainは「陶器」を意味する名詞なのですが、口語では「便器」という意味にもなります。ですからpray to the porcelain god「陶器の神に祈る」という慣用表現は、「便器に顔を突っ込んで吐く」という意味になるのです。

このように「トイレ」に関しては、ここで紹介した英語表現以外にも日本人が知らないものが数多く存在します。英語圏でも国や地域によって実に多様な表現が存在するので、興味のある方はぜひ調べてみてください。