ドクターサロン

池脇

肺がん検診の胸部レントゲンの撮像に関して具体的な質問をいただきました。そもそも肺がん検診というのはいつぐらいから始まったのか、そのあたりから教えてください。

中山

国が老人保健法という法律を制定して、それで胃がん、子宮頸がんなどのがん検診を国の施策として国が資金を投じて行われるようになったのですが、肺がん検診に関しては1983(昭和58)年に胸部X線と喀痰細胞診を併用するかたちで導入された経緯があります。その後、各自治体がそれを採用し全国で広く行われるようになりました。

池脇

1983年ですから、もう40年弱ぐらいの歴史ですね。機器が単純レントゲンということでしたら比較的全国的にも広がりやすいデバイスを使うことから、順調に普及したのでしょうか。

中山

正直いって、検診の受診率からいうと昔のほうがはるかに高かったのです。地方では60~70%ぐらいの受診率があったところもあったのが、だんだん下がってきて、それでもほかのがん検診よりは高いという状況になっています。

池脇

基本的には肺がん検診は胸部レントゲンということで、変わらず来ているのでしょうか。

中山

昔は結核検診が主体で、それからアナログフィルムというものが用いられてきました。正直いって、今の目で見るとフィルムの質がそれほどよくなかったのでしょうけれども、今はほとんどデジタルに代わっています。デジタルだと撮影する人の技量というよりは機械の性能によるところが大きく、特にここ5年、10年ぐらいはかなり画像の質は上がっていると思います。

池脇

少なくとも以前の胸部レントゲンに比べると、最近のレントゲンの解像度、精度は格段に進歩しているのですね。

中山

そうですね。昔は例えば心臓の裏が全く見えないとか、肝臓の裏に当たる部分が見えないようなアナログフィルムがたくさんあったと思います。デジタルではその辺のところを機械が補整しているので、そういうところもきちんと見えています。あとはそこに隠されている病気を見つけようと、実際にじっくり見ていただくことが必要になると思います。

池脇

今回の質問は、正面の1方向のみ、あるいは正面と側面の2方向がいいのか、ということですが、いかがでしょう。

中山

確かに側面写真を追加すると心臓の裏にある腫瘤が見やすくなります。感度が10%上がるかもしれないという報告はありました。ただ、人間の体は横に長いので、側面の写真は、被曝線量が正面1枚の2倍になるのです。そうすると、2枚撮るのは正面1枚に比べて3倍の放射線被曝になるのですが、そのわりにあまり見えやすいような画像ができないのです。専門医でも、小さい1㎝ぐらいの結節などは側面撮影ではとても見つけることは無理なので、やはり正面1枚をしっかりと撮ってしっかり読むほうがよっぽどいいかなという感じです。

池脇

専門医がそうおっしゃるので、1方向だけ、それをじっくりと見るほうが、方向を違えて2つで見るよりはむしろ見つかるのではないかという理解でよいのでしょうか。

中山

そうですね。枚数が増えると手間もかかりますし、被曝も多くなって、それであまりわからないのではやる意味がないかと思います。

池脇

そもそも早期の肺がんは単純レントゲンでわかるのかどうか。がんも種類によって肺門型、末梢型などいろいろあるようですが、医師にとっては比較的見つけやすい肺がんと、そうではない肺がんに、何か線引きはあるのでしょうか。

中山

30~40年前だと、突然片肺が真っ白くなったり、閉塞性肺炎はよく経験されていました。この原因となる太い気管支にできる肺門型のがんが肺がんの3~4割を占めていたのですが、急速に減少して、ほとんどなくなりました。これはおそらく喫煙率とか、たばこのフィルターもだいぶ変化してきたことが影響しているといわれていて、肺の端っこに出てくるタイプのがんばかりになったので、画像診断、X線とかCTで見つけやすいものが増えています。 喫煙率が大幅に低下しているので、比較的ゆっくりとした進み方の腺がんが過半数とか8割ぐらいを占めています。だいたい1年、2年、3年間ぐらいかけて徐々に大きくなっていくタイプのがんがありますから、そういうものは胸部X線で十分治る範囲で見つけられるので、ちょっとずつ大きくなる結節を過去のX線と比較読影して見落とさないようにしていただければと思います。

池脇

一方で、いわゆる肺門型といわれる扁平上皮がんは、喫煙者も減って少なくなってはいても、早期の肺門部のものをレントゲンで見つけるのは難しいですか。

中山

X線でもCTでも、肺門部肺がんは初期像はまったくわからないのです。昔から喀痰細胞診をすれば画像に変化が出ない状態で早期で見つけられるということだったのですが、そもそもそこにできるがん自体がものすごく減ってしまったのです。全国でも喀痰細胞診で見つかるがんは年間数十例ぐらいしかなくなってしまったので、無理やり喀痰をやるメリットはあまりないという感じです。X線だと検診だけでも数千、1万人近く見つかっている状態ですから、数十人とはどうかしらというぐらい病気が減ってしまったのだと思います。

池脇

肺がん検診は胸部レントゲンと喀痰細胞診の2つの柱で、いわゆるハイリスクの方は喀痰細胞診と聞いたのですが、あまり効率のよい検診にはなっていないのですね。

中山

そうですね。本当にここ数年、特に加熱式たばこが出てきてから、紙巻たばこをやめる方が非常に多くなってきたので、そういう点から見ても喀痰細胞診を無理に併用するより、胸部X線をたくさん撮るほうがいいのかなという感じです。

池脇

胸部レントゲンでちょっと怪しいな、あるいはこれは明らかにという、いろいろな見え方があると思うのですが、その次の精密検査はどういったものになるのでしょうか。

中山

怪しいと思ったら、すぐにCTを撮るのが一番いい方法です。どのぐらいあったらCTを撮ればいいかということですが、例えば握り拳大とか、そのぐらい大きいしこりだと、これはすぐに専門病院に紹介したほうがいいという感じなので、検診で本来見つけていただきたいのはだいたい1㎝ぐらいのしこりです。これはX線写真だとあばら骨1本分ぐらいの大きさのものになるので、本当にあるかないかよくわからない、でも少し気になったらすぐCTを、というぐらいの感覚でいいと思います。

池脇

そのぐらいの大きさですと、ステージでいうとだいたい1、2ぐらいで、予後のいいタイプの肺がんですね。だからこそ、きちっと早期に見つけていくということなのでしょうか。

中山

そうですね。おそらく1㎝ぐらいだったらステージ1の確率がかなり高いので、あまり経過を見ずに、すぐCTを撮って、なかったら「よかったね」と患者さんを褒めてあげるぐらいの感じでいいかと思います。

池脇

先ほどいわゆる末梢の肺野で見るようになって、1年、2年、3年と進行しているとおっしゃっていましたが、がんというのはそんなにゆっくりなタイプもあるのですか。

中山

日本や中国、韓国はそういうゆっくりとした、あまりたばこに関係していない腺がんが多いといわれています。何か怪しいと思って、去年のフィルム、その1年前、さらに1年前を見ても、やはりちょっとあって、少しずつ大きくなってくるというものです。これは手術しても予後がよくて、8割、9割治ってしまうので、そういうものを見つけていただければと思います。

池脇

ちょっと怪しい影があった方の場合はきちんと毎年受けていただくことが大事ですね。

中山

そうですね。それと、去年、一昨年と比べる比較読影をしていただくのがとても大事です。

池脇

どうもありがとうございました。