大西 髙野先生、職域精神保健における課題として、主治医との連携についてうかがいたいと思います。
まず初めに、職域の精神保健が今重要視されている理由、非常に大事な課題だと思いますが、そのあたりから教えていただけますか。
髙野 いろいろな疾患で働いている方が職場をお休みすることもあると思いますが、身体疾患でお休みされる方は徐々に微減傾向なのに対して、精神疾患というか、メンタルヘルス不調によってお休みされる方は年々増えている傾向があると思います。
大西 この2年余りはコロナの影響で働き方が変わって、体調を崩している方も多い印象を持っているのですが、現状はいかがでしょうか。
髙野 実際に働き方が大きく変わった方々に対しては、特にそこに適応するためのストレスもけっこうあったと思います。一方であまりコロナと関係ない、働き方では大きく影響していないかもしれませんが、変化の大きかった方々に対してはけっこう影響が出ていたかと思います。
大西 在宅ワークが増えて、あまり人と会わないというのも多かったように思いますが、影響がかなり出ているのですか。
髙野 在宅ワークに向いている方と向いていない方がいますので、そこら辺が極端に分かれたという感じはします。
大西 産業医と主治医の役割はどのように整理していったらよいでしょうか。
髙野 10月号(44頁)で河野先生が産業医の役割というお話をされていたと思います。主治医は病気を診断して治療していくのが大きな役割になる一方で、産業医は職場でどのように働いてもらうか、健康の問題と、就業にどれくらい影響が出ているか、その3つを判断しなければならないと思うのです。特に疾病を持っていたら、そのまま働いていけるのか、あるいは何か就業上の配慮をしなければいけないのか、あるいはお休みにすべきなのか、その辺の判定をしなければいけないと思います。
大西 産業医と主治医、会社の人事の3者で連携が十分取りづらいこともあるのですが、その辺を円滑にするような方法はありますか。
髙野 一つ考え方として、まず健康の問題がどの程度かということと、それによって仕事にどれくらい影響が出てしまっているのか。極端な話、仕事に大きな影響が出ていなければ、通常どおりに通院加療しながら働いていただいていいと思いますが、そこに健康問題が絡んでいるときには、どういう配慮ができるか、治療に専念すべきか、その辺の情報を共有しながら検討していくことが必要になると思います。
大西 連携が重要な理由の一つとして、まず就業区分をいろいろ検討しなければいけないということですね。
髙野 就業区分を検討していくうえでは、そのまま通常勤務していいのか、例えば残業を今はやめておこうかとか、一定の業務を少し制限してやらないようにするかとか、そういった就業上の配慮が必要か、お休みにすべきか、大きく3つだと思います。特に主治医にいろいろ治療していただいているのですが、職場でどのようなことが起きているかという情報をあまり持たれていない場合があって、患者さんがそこをうまく話せていないと、本人の同意を得て産業医と主治医が連携をしながら情報を共有して検討していくことが必要になってくるかと思います。
大西 休職するタイミングや復職のタイミングなど、その辺がなかなか難しい場合がありますが、円滑にする方法はありますか。
髙野 一つはまず経過を見ていくのですが、どんどん本人の苦痛が増えていく場合、もしくはどんどん仕事がしにくくなっていく場合、つまり健康の問題、労務の問題が徐々にひどくなっていて、そのまま経過を見るのは少し難しいというときには少し休んで、休むことに専念してもらったほうがいいという考え方になると思います。
大西 復職もいきなりだと難しい場合がありますが、そのあたりお考えはありますか。
髙野 スポーツ選手のけがと一緒で、けがが軽快するだけでなく、選手として戻れることが大事だと思いますが、それと同じで仕事ができる状態にあるか、頭がきちんと回るようになったか、集中力などいろいろなことを判断する力が戻ってきたかどうかを本人に確認しながら判断していくことが大事だと思います。
大西 産業医の大半は内科医が多いように思いますが、その辺の実態や問題点が、何かありましたら教えてください。
髙野 以前、日本の産業医を一番多く輩出している日本医師会の認定産業医を調査したところ、産業医の専門は内科系が約60%、外科系が約20%、精神科医は約5%でした。産業医が必ずしも精神医学に精通しているかどうかという問題もあるので、より連携が重要になってくると思います。
大西 私も産業医をやっていて、メンタル関係の課題がかなり大きなウエートを占めているので、精神科医の助けを借りたいという場面も多いのですが、そのあたりの連携はなかなか難しいところもありますね。
髙野 そうですね。どういうところに困っているかをうまく伝え合うことができるとよいと思います。
大西 外科医が産業医をされているケースもあるのですね。
髙野 そうですね。でも、多くはないです。
大西 内科だと必ずしもメンタル系に精通していない場合も多いですが、産業医として対応で気をつけることはありますか。
髙野 先ほど申し上げましたが、健康状態が改善してきているのか、あるいは仕事が従来に近くできるようになっているのか、そのあたりは精神医学に詳しくなくても評価していけると思うのです。特に職場の方々からの情報をきちんと収集することで評価できると思いますので、その辺を重視していただくとよいと思います。その情報を精神科の主治医に上手にお伝えして、実際はどんな状況なのかが、よりいい治療につながると思います。
大西 そういう患者さんは、どういう治療が主体になるのでしょうか。薬物療法などいろいろあると思いますが、よく話を聞いて信頼関係を作っていくとか、実際どのようにされているのでしょうか。
髙野 主治医なら、症状の改善だけではなくて、日常生活や職場生活を想定し、どの程度のことをやれているか、どれくらい回復している自覚を持っているか、その辺を確認していくことが大事だと思っています。
大西 今回のテーマでもある連携ですが、連携とはどういったことだとお考えでしょうか。
髙野 主治医と産業医では立場も違いますが、基本的には主治医・産業医・職場といった違う立場の方が同じ目的に向かって一緒に動くことができると、いい連携になると考えています。
大西 いろいろ話していると、会社には会社の立場があったりして、調整に多少苦慮することがありますが、そのあたりはどうしたらいいですか。会社はあくまで会社のルールというものがありますよね。
髙野 主治医の立場でも、実際に仕事ができるようにするにはとか、どのくらいできるようになればいいかとか、単に症状の回復だけではなく、社会生活機能にも視点を置いて治療していくことが大事だと思います。
大西 それでは最後に連携の課題について教えてください。
髙野 最近は主治医の立場でも産業医からいろいろ連携の手紙や文書をいただくこともありますし、私も産業医の立場でそういう文書を送ることがあるのですが、その文書のやり取りへの対価ですね。実際、情報提供いただくときにはそれなりの労力や時間がかかるのですが、その対価をいただくシステムがしっかりでき上がっていないところもあったりします。
大西 あまりないですよね。
髙野 産業医は企業に所属していて、保険医療機関ではなく、診療報酬とはまた別の話なので、その辺の課題はあると考えています。
大西 ほかには将来に向けてどうですか。これから働き方もだいぶ変わってくるかと思うのですが。
髙野 例えば、復帰を考えていくときには主治医にあらかじめ、会社の働き方の基準、例えば今はリモートワークが導入されていて、リモートワークのまま復帰できる企業もあれば、それを認めない企業もあったりします。会社ルールの情報を主治医にもあらかじめお伝えしておくと治療にも役に立ち、結果的に最終的な連携もうまくいくのではないかなと思います。
大西 どうもありがとうございました。
職域精神保健の課題(Ⅲ)
職域精神保健における主治医との連携
神田東クリニック院長
髙野 知樹 先生
(聞き手大西 真先生)