ドクターサロン

 池田 緑内障というのはどんな病気で、どんな症状があるのでしょうか。
 結城 緑内障はどちらかというと末期になるまで自覚症状が少ない病気で、基本的な症状としては視野が欠けることと視力が下がることが病気のポイント、症状となっています。病気の本質的には網膜の光を感じる細胞のその次にある、光を感じて電気刺激を脳まで伝える網膜神経節細胞というものが死んでしまう病気です。その死んでしまったところが見えなくなっていくという病気です。
 池田 網膜からの電気刺激を伝える細胞がだめになってしまうのですね。
 結城 100万本ぐらいあるのですが、それが普通の人よりも速いスピードでなくなっていく病気です。
 池田 一部の視野が欠損していくだけだと、なかなか自覚はないと思うのですが、どんなときに見つかるのでしょうか。
 結城 例えば、中心部分あたりに視野欠損ができてしまうと、物を見る、文字を読むときにすごく強く自覚される方もいるのですが、端っこにできたときはほとんど気づかれない方が多いのです。一番気づかれるのは、40代以上の方ですと会社の人間ドックで眼底写真を撮ったときに気づかれるパターン。若い方であれば、コンタクトレンズを作りに行くと眼科の診察があるので、そこで見つけられることが多いです。自覚症状で視野が欠けて見づらいと言って来られる方はまれにいますが、そういう方は8割ぐらいの視野を失ってしまっていたりするという印象があります。
 池田 ちょっと恐ろしいですね。網膜と脳をつなぐ神経がやられる原因は何なのでしょうか。
 結城 原因として確実なのは、眼圧という目の内圧が正常値を超えて高くなると、視神経を支えている篩板の形をゆがめてしまい網膜神経節細胞が死んでいくことです。ただ、日本人の眼圧の正常範囲は10~20㎜Hgなのですが、緑内障の8~9割ぐらいは正常眼圧緑内障という眼圧が正常なタイプの緑内障で、そういう緑内障の眼圧は日本人の平均値ぐらいなのに、網膜神経節細胞が眼圧に対して弱いためにそれが死んでいく。眼圧が高くてなる緑内障と低くてもなる緑内障があるというイメージでしょうか。
 池田 どちらかというとそちらは神経細胞のほうに変化があるような感じですね。
 結城 そうですね。眼圧に対して弱い、脆弱であると考えられています。
 池田 診断はどのようにされるのでしょうか。
 結城 診断は、眼科の基本的な検査で、視力検査とか細隙灯顕微鏡検査とか眼底検査といった1セットがあるのですが、それに加えて隅角検査と眼圧検査、光干渉断層計検査と視野検査、これらを組み合わせることで行います。隅角検査は緑内障の開放隅角と閉塞隅角、続発緑内障の病型判断に必要になります。緑内障かどうかを診断するのに眼底、眼圧検査を行い、眼圧が高ければ眼圧が高いタイプの緑内障、低ければ正常眼圧緑内障。眼底検査では視神経乳頭の形を見て、緑内障と視神経乳頭陥凹拡大という緑内障の特徴的な変化があるかどうかを判定します。緑内障は網膜が薄くなる病気ですので、光干渉断層計で網膜の厚みを測って、正常な人よりも薄いかどうか。最後は視野検査を行って、視野が欠けているか、欠けていないかといったことを判定します。
 池田 日本人に多い病気ではないかと思うのですが、どのくらいの頻度なのでしょうか。
 結城 多治見スタディという岐阜県で行われた有病率の調査で、だいたい40歳以上の5%、20人に1人が緑内障を持っているとされました。緑内障は日本人の後天失明原因の第1位です。
 池田 近年、いろいろなIT機器も増えて、目を酷使するものが多くなりました。若い人も多いのでしょうか。
 結城 緑内障のリスク要因として近視がほぼ確実とされています。近視のリスクがまたいろいろ難しいところがあるのですが、基本的には屋外活動が予防的に働くというのは確実で、逆にいえば屋内作業が増えれば近視も増えます。近眼の人口が若い人で増えているのは確実ですから、緑内障の若年者も増えていくものと思われます。
 池田 次に治療ですが、まず薬物治療をされるのでしょうか。
 結城 手術の選択肢もあるのですが、どうしても合併症が出るので、まずは薬物治療を行うことになります。ガイドラインでも第一選択薬の目薬は、プロスタグランジンとβ遮断薬とEP2受容体作動薬の3種類あり、それぞれ特徴がちょっとずつ違います。一般的にはプロスタグランジン関連薬が第一選択薬とされています。眼圧下降効果がよくて、体への副作用がない。ただし、目の周りにしみができたりする眼局所副作用があったりしますので、主治医と相談しながら、その3種類から自分にとって最適な点眼薬を選ばれるのがいいと思っています。
 池田 これを使ってもあまり眼圧の低下が得られないときは手術になると思うのですが、どのような手術があるのでしょうか。
 結城 クリニックによっては先にレーザーの治療を勧めるようなところもあると思います。レーザー治療は失明に至るような合併症がまずないとされていますので、それを考慮する可能性もあるかと思います。 続いて、緑内障の手術は目に穴をあけるか、あけないかという2つの手術がありまして、目に穴をあけない方法としてMIGS(ミグス)という極低侵襲緑内障手術である線維柱帯切開術とか、iStent inject、いわゆるインプラントなどがあります。ただし、high teenといいまして、よくても15~20㎜Hg程度の眼圧に落ち着いてしまうので、もともとの眼圧が15~20㎜Hgの人には適応が限られると思います。また、1~2%の確率で眼圧が手術によって40㎜Hgぐらいまで上がってしまう方がいるので、手術で眼圧を下げようと思った結果、眼圧がよけい上がってしまうことがあります。なので、とにかく緑内障を見つけたら手術するというのはよろしくないかと思います。
 池田 質問の濾過手術というのはどういうものなのでしょうか。
 結城 濾過手術は目の中で水を処理するのを諦めて、目の中の水を眼外に出すという感じの手術になります。ただ、穴をあけてしまうと目の中の水が全部外に流れて、眼圧がゼロになってしまうので、弁状の構造を作成し、その弁の下に小さい、3㎜╳1㎜の穴をあけて、弁を細い糸で何針か、私の場合は5針縫うことでふたを作り、そのふたのすき間から水が漏れるようにして、そのすき間で眼圧を調整する。このように白目と白目、結膜と強膜のすき間に水を流し込んでいくという手術が濾過手術、線維柱帯切除術になります。緑内障のゴールドスタンダードの手術です。
 池田 よく見ると、その部分は少し盛り上がったようになるのですか。
 結城 そうですね。眼圧が下がっている患者さんほどそこにたくさん水がたまります。人によっては、無血管濾過胞という、真っ白な雲みたいな感じ、空に浮かぶ雲みたいなものができている患者さんもいると思います。
 池田 少し盛り上がる感じですね。ほかの人に「どうしたの」とか言われるほどだと、ちょっと気になりそうですね。
 結城 ご自身が鏡でチェックされて、びっくりしていらっしゃることもたまにあります。術後、初めてその部分を気にして見たら、膨らんだ白いものができているのですから。
 池田 なるべく見えないところに作るのでしょうか。
 結城 そうですね。眼科用語では11時とか1時というのですが、上のほうに作る。耳寄りの上、鼻寄りの上みたいな感じで作る場合が多いです。
 池田 それで見えなければ特に問題はないのですね。
 結城 あまり気にされる方はおらず、目薬の副作用で目が充血しているのが治ってよかったという方のほうが多いです。
 池田 この手術の効果はいかがですか。
 結城 平均すると4~5年後にだいたい半分の方の眼圧が12㎜Hg以下になります。平均眼圧は12㎜Hgぐらいですが、白内障の手術を受けている方とか、別の手術を受けていたりする方はちょっと成績が不良になってしまうこともあります。先ほどの流出路再建術と比べると、10㎜Hg台前半から、場合によっては10㎜Hgを切る眼圧を目指すことができるという意味では、優秀な手術になるかと思います。
 池田 最後に確認なのですが、眼圧が正常化して、悪化要因はとれたのだけれども、もともと失われた視野は元に戻らないのでしょうか。
 結城 死んでしまった神経、脳も再生しないことになっていますので、完全に失明してしまってから手術を受けても失われた視野は再生しようがないのです。いいタイミングで手術を受けることが一つのポイントかと思います。
 池田 簡単にいえば、早期発見、早期治療ということですね。
 結城 そうですね。ただ、濾過手術は合併症が多い手術の代表でもあり、例えば基本的には手術を受けると視力が下がってしまいます。私の実感でいうと、0.5%ぐらいの可能性で矯正しても視力が0.1を切ってしまいます。濾過手術を受けることは一定の確率で失明することになると思うので、手術の適応が一番重要で、見えていて、自覚症状もない目に手術をして、それによって失明しないようにすることが絶対に必要です。この手術を受けないと寿命までにQOLを著しく損ねるといったときには私は手術をお勧めします。
 池田 どうもありがとうございました。