ドクターサロン

 池田 長尾先生、卵アレルギー児のMRワクチンやインフルエンザワクチンの接種の注意点について質問です。1歳2カ月で、卵を食べると2~3時間後に口の周りが赤くなったり、ただれたりする症状を持っているということですが、これは実際に卵アレルギーなのでしょうか。
 長尾 卵アレルギーの可能性もあると思います。例えば典型的な即時型の症状が出てくるときには、卵を食べて30分以内、長くて1時間以内に体が赤くなったり、口の周りが赤くなったりするようなことがありますが、ちょっと長めのところで症状が出てしまうこともあるので、可能性としてはあると思います。ただ、ついたところが赤くなるという現象は、特に赤ちゃんでは、おしょうゆとか、塩分が強いものなどが、口の周りにつくと赤くなったりします。よだれかぶれもそうですが、いわゆる接触性皮膚炎もあったりしますので、絶対卵アレルギーかどうかはこの話だけではちょっとわからないですが、可能性はあると思います。
 池田 即時型でもないようですね。卵アレルギーの遅延型での悪化というのはあるのでしょうか。
 長尾 アトピー性皮膚炎などは例えば卵を食べると翌日ちょっと湿疹が悪化していたりとか、そういったタイプのものもあります。
 池田 では一応それも考えておかなければいけないのですね。
 長尾 そうですね。
 池田 そもそも、なぜ卵アレルギーがあるとワクチンのときに注意がいるのでしょうか。
 長尾 例えばインフルエンザワクチンは鶏の有精卵、孵化鶏卵の中でインフルエンザウイルスを増やします。卵の中でインフルエンザウイルスが増えると、理論上、そのウイルスを取り出すときに卵白アルブミン、卵の蛋白質が混入するのではないかと懸念されていましたが、現在は非常に製造技術がよくなって、インフルエンザワクチンの中に含まれる卵の量、卵白アルブミンというのは感度以下、数ng/mL未満というかたちで非常に少なくなっていて、今は基本的には心配いらないレベルになっています。
 池田 この質問は以前のイメージを引きずってしまっているのでしょうか。
 長尾 そうだと思います。添付文書の接種要注意者に鶏卵アレルギーのお子さんが含まれているのですが、毎年改訂されている予防接種のガイドラインでも、大きくは心配いらないような感じで書いてあります。卵アレルギーだから心配というのではなくて、インフルエンザワクチンの接種液の成分で反応するという報告もありますので、卵に関してはあまり心配いらないと考えていいと思います。
 池田 最近開発されているmRNAワクチンなどと同じ扱いになるのでしょうか。
 長尾 基本的に卵アレルギーだから心配ということは不要かと思います。
 池田 特にアレルギーのあるお子さんはいろいろなアレルギー症状をお持ちですよね。ですから、化学物質も含めていろいろなものに感作されている可能性はあるので、やはりワクチンのときは注意が必要であるという意味では同じなのでしょうか。
 長尾 今先生がおっしゃったように、mRNAワクチンは一般的なワクチンよりもいろいろな副反応が心配されていますが、そういったときにいわゆるアレルギー体質が非常に強い方というのは接種要注意者として少し長めに様子を見ましょうといわれていたりしますので、一般的な注意というレベルかと思います。
 池田 次の質問は、血液検査が何点以上の場合は専門医へ紹介したほうがよいでしょうかというものです。これはどんな検査で、実際に点数でそういった線引きができるのでしょうか。
 長尾 卵アレルギー自体をあまり気にしないことになるので、実際にはおそらくこの質問者は血液検査で特異的IgE抗体、卵白とかオボムコイド、卵の蛋白質の成分の特異的IgE抗体を見る検査のことをおっしゃられているかと思うのですが、ワクチンが心配だから専門医へ紹介という意味では不要だと思います。例えば卵アレルギー自体がものすごく重症なお子さんは、それはそれできちんとアレルギーの専門医にその対応をご相談いただいたほうがいいかと思います。あまり血液検査の結果にとらわれずに、少しずつ卵を食べていいのかな、どうかなという指示をするのが難しいと判断される場合には、専門医に紹介いただくといいと思います。
 池田 ワクチン接種に対しての注意喚起で専門医へ行くのではなくて、卵のアレルギー自体を心配して紹介するということですね。
 長尾 そうですね。
 池田 一方、血液検査で特に問題がないお子さんに関しては注意点はあるのでしょうか。
 長尾 一般論ですが、血液検査で問題がなくても、ある一定の割合、例えばインフルエンザワクチンだと100万接種分の1.3人という割合でアナフィラキシーを起こすことがありますので、何か変だなとか、ちょっと搔きだしたなとか、咳をしだしたなというようなことがあれば、早めに伝えていただくということが一つ。
 もう一つは、ワクチンを打つときには問診がありますが、ちょっといつもより体調が悪いとか、例えばアトピー性皮膚炎の湿疹が非常に悪化していたりとか、ちょっと風邪気味でコンコン、ゼイゼイしているかなというようなことがあるときにそのワクチンを打って症状が悪化すると、ワクチンのせいなのか、たまたまその症状が悪化したのか、違いがわからなくなってしまうので、全身状態がいいときに打つのが大事だと考えます。次のワクチンを打つときの問診で「この前ワクチンを打ったときにゼイゼイがひどくなったのです」と言われると、その言葉だけを信じると、次にワクチンを打とうとする医師が、本当にこの子にワクチンを打って大丈夫かと心配になってしまいます。やはり次のワクチンのためにも体調がいいときに打つのは大事なことだと思います。
 池田 そのお子さんの次の接種も考えると、やはり状態がいいときにやっていくということですね。最近のmRNAワクチンなどでもそうなのですが、アレルギー歴があるような方は接種後30分、あまりそういうことがなければ15分待てということですが、例えば卵アレルギーがある、あるいはアレルギー自体があるお子さんは、インフルエンザワクチンを接種された後、どういうフォローアップになっているのでしょうか。
 長尾 基本的にはほかのお子さんと変わらない対応でいいかと思います。非常に頻度が低いのです。例えば、先ほど申し上げましたように、卵アレルギーがあってもなくても、ものすごくまれにアナフィラキシーが起こることはあるのですが、実際、小さなお子さんでインフルエンザワクチンやMRワクチンを打っても、そのお子さんが症状を起こすかどうかは、本当に予想がつかないです。例えば過去に私がMRワクチンのデータを見たときは、1,300万人ぐらいのお子さんにMRワクチンを打って、2人だけアナフィラキシーを起こしているのです。それぐらいの割合のため、絶対注意しなければいけないのかどうかに関して予想がつかないですよね。なので、通常のお子さんと同じような対応でワクチンを打った後お帰りいただくということで、基本的に問題ないかと思います。
 池田 逆にmRNAワクチンの接種後が通常ではないのですね。
 長尾 mRNAワクチンは通常のワクチンより副反応の割合が多いのです。アナフィラキシーの頻度は最初に騒がれたときよりも低くなってきましたが、ちょっとした蕁麻疹とか、そういったレベルのことはいわゆる赤ちゃんに打つワクチンよりも多くみられますので、アレルギー素因がとても強い人、アナフィラキシーの既往があるとか、薬剤アレルギーで非常に重症だったりとか、mRNAワクチンの成分でアレルギーがあるような方は30分待ってくださいとなります。しかし卵アレルギーが重症だというぐらいではあまり接種要注意者にはならないという考え方でいいかと思います。
 池田 では通常の接種をして、普通に状態を見ながら帰っていただくのですが、そのときにご両親に何か指導されるのでしょうか。
 長尾 何かいつもと違った点、搔きだしているとか、機嫌が悪いとか、咳をしだしているとか、何かしら「あれっ」と思うような症状があれば、接種したクリニックにもう一回ご相談いただくことが大事ですよということは伝えていただいたほうがいいと思います。
 池田 特に、体が全身真っ赤になったり、かゆくなったりしたらすぐ来なさいと、可能性としては低いけれどと、そんなかたちなのでしょうか。
 長尾 一般論にはなりますが、アレルギー症状というのはけっこうじわじわ来るのです。例えば15分以内に現れたときには進みがその分速い。だけれども、1時間ぐらいして「あれ、何か変だな」といったときには、1時間ぐらいしてやっと出てくる症状なので、アレルギー症状もじわじわ来るのです。なので、そこは落ち着いて、「あれ、何か変だな」と感じた時点で接種した医療機関に問い合わせていただいて、その医師の指示を仰ぐというようなことになるかと思うのです。
 1時間たっていきなり、例えば1分以内にすごい勢いで悪化することはアレルギーではあまりなく、徐々に「あらっ」というようなかたちで症状が進みます。皮膚だけだったら、見た目は派手ですけれども、少なくとも時間的に余裕があるというように考えていただく。呼吸器の症状がちょっと気になりだして、どんどん増えてきたといったときには、場合によっては救急車を呼ぶことになるかと思います。
 池田 皮膚だけでなくて、多臓器の症状が救急車を呼ぶかどうかの判断のもとになるのですね。
 長尾 そこになるかと思います。
 池田 先ほどありましたが、アトピー性皮膚炎などが翌日に悪くなる。これについてはあまりお話しにならないのですか。
 長尾 経験的にもワクチンで翌日アトピーが悪化というのはあまりなく、どちらかというとお出かけして環境が変わったり、そういったことです。ワクチンのせいでアトピーが悪化したように犯人扱いせずに、湿疹が悪化したらきちんと外用剤を塗るなど、きちんと対応することのほうが大事かと考えます。
 池田 実際にコロナワクチンの開発と普及の間で皆さんすごくワクチンに対して不安を持っていらっしゃるので、一般のインフルエンザワクチンはどうなっているのかと思いました。
 長尾 確かにmRNAワクチンは状況が状況ですし、効果があるので、ある一定の副反応を許容するかたちですが、通常のこれまでのワクチンはコロナワクチンレベルの副反応だと、そもそも承認されないですよね。なので、副反応はもっともっと低いというレベルで考えていいのではないでしょうか。
 池田 それを聞いて安心しました。ありがとうございました。