ドクターサロン

 池田 この収録は2022年1月24日に行っています。新型コロナウイルス感染症のLong COVIDとはCOVID-19に感染した後の症状が続く、あるいは何かプラスのものが出てくる、そんなイメージでしょうか。まずLong COVIDというのはどのようなものがあるのでしょうか。
 森岡 新型コロナウイルスの急性期の感染後の罹患後症状で、厚生労働省は罹患後症状と呼んでいますが、いわゆる後遺症のことです。最も多いのは倦怠感だと思います。倦怠感に続いて、咳嗽、息切れ、味覚・嗅覚障害も急性期から続く症状としては頻度が高いと思います。遅発性の症状には、集中力低下、記銘力低下、そしてうつ、脱毛等々があると思います。
 池田 そこまでを含めてLong COVIDと、そういう言い方なのでしょうか。
 森岡 そのように思います。
 池田 大きく分けますと、感染のときから引き続いているもの、あとは1~2カ月たって引き続き出てくるもの、その2つに分かれるということでしょうか。
 森岡 そうですね。後遺症としての症状は大きくその2つに分かれると思います。あともう1つは、発熱をはじめとする急性期症状です。1カ月以内にほとんどの方でおさまってしまうもの、というのが3つ目のカテゴリーです。これに関しては後遺症と呼ばれないですから、先生がおっしゃるような2つのグループを後遺症として我々は考えています。
 池田 先生の施設では多数の方をフォローアップされていたということですが、どのような方に後遺症が残るのでしょうか。
 森岡 回復者血漿事業に参加していただいた526人のうち457人からアンケート調査に回答をいただきました。それによりますと、女性のほうが男性と比較して何らかの症状が残りやすく、リスクであることがわかりました。脱毛、味覚・嗅覚障害、倦怠感の4つに関して解析したのですが、4つとも女性のほうが男性と比較して出やすいことがわかりました。味覚・嗅覚障害に関しては、若いことや、やせ型であることも、女性である以外にリスクであることがわかりました。
 急性期のコロナの重症化因子では高齢、肥満、男性というのがありましたから、味覚・嗅覚障害が後遺症として出るリスクはその真逆です。それがなぜ出るのかは我々としてもわからないですし、今、興味を持っているところではあります。引き続き研究が必要な分野だと考えています。
 池田 若い人、女性、やせているとCOVIDにかかりにくいというイメージですよね。
 森岡 そう思います。
 池田 けれども、後遺症に関してはそちらがメインの訴える人ということなのですね。
 森岡 そうですね。急性期は重症化しないけれども、後遺症のリスクとしては上がるようです。後遺症といいますか、味覚・嗅覚障害のリスクですね。
 池田 脱毛もそうなのですか。
 森岡 脱毛は女性だけであることでした。
 池田 女性のほうが毛髪に関して敏感なのですかね。
 森岡 そこはすごく大事なところで、同じように脱毛が出ても、女性のほうが気になってしまうから報告するのではないかという意見も過去の論文でいわれていました。ただ、ほかの意見も総合して見てみますと、そういう意見はどうも正しくはなくて、ほかのメカニズムがあるのではないかといわれています。つまり、男性よりも女性のほうが脱毛が出やすいメカニズムが別に存在するのではないかという意見のほうが大きいです。
 池田 もちろん男性もあるのですよね。
 森岡 そうですね。当院から報告した脱毛の症例報告の方は、男性でした。
 池田 皆さん、脱毛といってもどんな脱毛なのだろうと、ちょっとイメージが湧かないのですが、脱毛の機序はわかっているのでしょうか。
 森岡 脱毛の機序は休止期脱毛と呼ばれています。髪の毛は、10本あったとすると、そのうちの1本ぐらいが休止期に入って抜け落ちるのが正常のようなのですが、精神的・肉体的負荷によって休止期に入る毛が増えてしまって、3本、4本と休止期に入って抜け落ちてしまう。そのために脱毛が起きるのが休止期脱毛といわれています。しかしながら、いずれは良くなってくるようです。また元どおりに休止期に入る髪の毛の本数が1本ぐらいに戻って、また生えて戻ってくるといわれています。これがコロナの後遺症における脱毛の機序であるといわれています。実際に457人から回答をいただいたアンケート調査でも、全体的に抜けるという方の脱毛が9割5分近くを占めていましたし、1年ぐらいたてばほぼすべての方で脱毛が良くなるというのも、この休止期脱毛には合致する所見だと考えています。
 池田 1年ぐらいたつと元に戻ってくるという感じなのでしょうか。
 森岡 軽症の方が多くを占めた調査では、そのような結果でした。
 池田 それはちょっと安心材料ですね。あと、息切れとか倦怠感、こういったものはほかの疾患でもよくあることですが、どのように鑑別して、どのように対処していくのでしょうか。
 森岡 そこは難しいですね。最近、厚生労働省から新型コロナウイルスの罹患後症状のマネージメントの手引きが出たと思います。そこにはまずかかりつけ医でどのような検査をすればいいかということが書かれています。実際に鑑別疾患として多いのは、コロナの入院のために筋力が落ちてしまった。あとは肺の機能、呼吸機能が低下してしまった、ゆえに息切れがする、だるいということが症状として出てくることが多いように思います。
 一方で、若い方に多いかどうかはちょっとわからないですし、私自身がまだ診断ができていないのですが、ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)のような病態を呈するような方々が一定数いると聞いています。そのような鑑別をするには、私の力ではなかなか難しいと思いますので、個人的には心療内科医や神経内科医に相談させていただいています。専門医に診ていただいたほうがいいように思います。鑑別のヒントとしていわれているのがPEM(post-exertional malaise)という、運動をするとものすごくだるくなってしまって、2~3日寝込んでしまうような症状がある場合には特にME/CFSのような病態を疑って、専門医に受診を促したほうがいいといわれているようです。
 池田 半分廃用性萎縮のような状態になっている方には、何か負荷をかけたりして、あるいは検査をしてリハビリに持っていくのでしょうか。
 森岡 当院でもリハビリテーションは積極的に行っています。当院の外来でフォローしている患者さんは、急性期に重症化してしまって筋力が低下したり、心機能、肺機能が低下したりしているような方ですから、リハビリテーションの専門のチームにお願いして、まず息切れの原因が何なのかを詰めてもらいます。あとは、だるさの原因が筋力が低下していることから来るのか、肺の機能が低下していることから来るのか、まずそこを同定して、オーダーメイドでリハビリテーションを行っています。手ごたえとしてはいいように思っています。
 池田 こういった方たちにリハビリを継続すると、ある程度時間がたつとまた正常に近い状態になっていくのでしょうか。
 森岡 そこはこれからの知見の集積が望まれると思うのですが、我々が担当した患者さんに関しては、リハビリをすることによってだいぶ良くはなるけれども、なかなか元には戻りきらないという方が多いように思います。
 池田 のんびりやろうという話ですね。
 森岡 そのように思います。
 池田 一方、最近オミクロン株がはやっていて、特に味覚・嗅覚に関してはあまり障害がないというような報道が多いですが、先生の実感としてはいかがですか。
 森岡 我々の病院で診ている新型コロナウイルス感染症患者さんも、12月以降はほとんど味覚・嗅覚障害を訴える方がいないです。沖縄からの報告でも、味覚・嗅覚障害があった方は2%と非常に少ない割合でしたので、オミクロン株は味覚・嗅覚障害を起こしにくいのだろうとは考えています。
 池田 デルタ株だとどのくらいだったのでしょうか。
 森岡 報告にもよりますが、我々のアンケート調査でも3~4割の方で急性期に味覚・嗅覚障害を認めていました。
 池田 デルタ株も2回ワクチンを終えた方もたくさんいらしたので、そういう意味ではちょっと違う株の印象ですね。
 森岡 どちらかというとそのような印象はあります。オミクロン株において味覚・嗅覚障害が少ないのがワクチンを打っているからなのか、軽症の方だからなのか、オミクロン株だからなのか、ちょっとわからないのですが、オミクロン株の特徴の一つなのではないかと個人的には考えています。
 池田 オミクロンの後遺症も含めた性格が明らかになるのはいつ頃なのでしょうか。
 森岡 2カ月、3カ月たたないとなかなか知見がそろってこないと思いますから、オミクロン株における後遺症というのは今年の2月、3月にならないと明確な全体像は明らかにならないと思っています。
 池田 南アフリカなどでオミクロン株がはやったのは11月の終わりぐらいからでしたね。そこで3カ月というと、世界的にも2月の終わりぐらいにならないとはっきりしたことは言えないということですね。
 森岡 そのように思います。
 池田 ありがとうございました。