ドクターサロン

大西

職域精神保健の課題というシリーズの一つとして、てんかんに関して取り上げたいと思います。

まず、てんかんとはどういった病気なのか教えていただけますか。

赤松

てんかんの定義は、脳の過剰放電に基づくてんかん発作が繰り返して出現するものです。ですから、脳の一つの状態で、てんかん発作を起こしやすい状態の患者さんをてんかん患者さんと呼ぶと考えてもらったらよいです。

このてんかん発作には実は、軽くて本人だけしか感じない発作から、いわゆる大発作、全身けいれん、いろいろなタイプの発作があるということをご理解いただければと思います。

大西

実際、てんかんの患者さんは日本ではどのくらいいるものなのでしょうか。

赤松

我々も福岡県久山町の住民でてんかんの有病率を検討したのですが、40~60歳までのいわゆる働き盛りの人では、1,000人当たり4人ぐらいで、約0.4%がてんかんを有していることになりました。

大西

てんかんの症状といいますか、発作などが出始める年齢はどのぐらいでしょうか。

赤松

小児の発症率が一番多くて、働き盛りは少ないです。それから、中高年になってからまた増える、前はUの字のshapeをしているといわれていましたが、実は今は、Jの字ですね、高齢者のほうがむしろ多いです。

大西

実際、臨床の現場でてんかんという診断をつけるには、どのようにされているのでしょうか。

赤松

実際には小さな発作も、過剰放電は脳の回路を伝わって大きくなります。ある程度以上の発作になると意識がなくなる。あるいは、脳全体に広がると全身けいれんになることがあります。これはけいれんせずに意識がなくなる意識減損発作。あるいは、もうちょっと大きくなってけいれんする。こういうことで病院に来られる方が多いです。

大西

実際、治療に関してはかなり進歩といいますか、確立されてきているのでしょうか。

赤松

抗てんかん発作薬は非常に進歩して、患者さんの約8割は抗てんかん発作薬をきちんと内服することによって発作が2年以上止まるとなっています。

大西

テーマである職域精神保健との関連から次にてんかんへの対応についてうかがいます。まず、てんかんの方が実際従事できる業務内容というのはある程度具体的にあるのでしょうか。

赤松

てんかん発作がもし起こったときにどうなるかを考えると、高所作業や大きな機械の運転、あるいは自動車の運転、それからもし意識を失えば、もしけいれんを起こせばということを考えれば、自明の理ではないですが、よくわかるかと思います。

大西

事務的な仕事が向いているという理解でよいでしょうか。

赤松

そうですね。今は事務的な仕事がかなり増えてきましたので、端末の操作とか事務的な仕事というのは問題が非常に少ないですね。

大西

実際、就業上必要な配慮というのは何かありますか。

赤松

まずは本当はかなり個別な対応が必要だということです。例えば、抗てんかん発作薬をのんで5年も発作がない人がまた発作を起こす確率は非常に低いです。そういう人はあまり過度に病気のことを心配する必要はありません。しかし、例えば普通自動車運転免許は2年以内に発作があれば運転は許可されません。反対に言うと、2年以上発作が止まっていたら自家用車の運転は許可されます。こういうことがあるので、そういう個々の患者さんの発作の抑制状況を鑑みて業務を考えていくことが必要です。

大西

実際その方が配属された部署の上司の方とか同僚の方への対応や協力などはどのようにしたらよいでしょうか。

赤松

理想的には、この人はこういう病気があって、もし発作が起きたときにどういう対応をするかを周りの人に教えておくことは必要かもしれません。しかし、先ほども言いましたように、長い間発作が抑制されている人について、そういうことをあまり言うと、かえって周りの人が過度に心配されることもあります。ですから、これは産業医あるいは主治医などと健康を管理する部署の方とうまく連携を取るのが必要です。反対に、例えば睡眠不足ですぐ発作になりやすいというような人は業務をちょっと考えてあげるという配慮が必要な場合があります。そういう場合は必ずしも多くはないです。

大西

コントロールされていれば多くの場合、問題ないという話だったと思いますが、万が一、職場で発作が起きた場合、実際ちょっとあわてる場合もあるかと思うのです。そのときにどうしたらいいかをあらかじめ決めておくとか、マニュアルなどを作っておいたほうがよいのでしょうか。

赤松

現実的には、やけどをするとか、転落するとか以外で問題になることは非常に少ないです。

大西

だいたいは短時間で発作がおさまると考えていいのでしょうか。

赤松

そうです。全身けいれんの発作は実は持続時間は60~90秒です。5分も続くことはないです。ですから、危険がないように見守る。口の中にハンカチを突っ込めとかいうのは迷信で、そんなことをしても何もいいことはないです。

大西

あまりあわてる必要はないのですね。

赤松

反対にあわてないといけないのは、けいれんが5分以上続く場合です。これはてんかん性けいれん発作、重積状態の可能性が高いので、そのときは救急車を呼ばないといけないです。

大西

実際、てんかんのある方を会社で採用するときに何か気をつけることはありますか。あまりそういうのはこだわらなくていいのでしょうか。

赤松

もちろん業務ですね。バス会社がてんかんの人を運転手に採用するのは現実的にはありえないことです。しかし普通の業務で、てんかんがきっちり抑制されていれば、特別配慮が必要でない場合が多いです。

大西

そうしますと、普段きちんとコントロールされていて、業務内容をある程度決めれば、だいたいつつがなく仕事ができる場合が多いと考えてよいでしょうか。

赤松

そうです。

大西

今高齢の方もお仕事をされるケースがかなり増えていると思うのですが、先ほどのお話では、高齢の方でけっこうてんかんの方が多いとのことでした。そのあたりは少し注意していったほうがよいのでしょうか。

赤松

高齢者になるとてんかんの有病率は若い人の3倍ぐらいになります。

大西

そんなになるのですね。

赤松

その中でも側頭葉てんかんという、意識だけなくして、けいれんしないタイプが多いです。側頭葉てんかんはもちろん若い人にもあるのですが、側頭葉てんかんの頻度は高齢者でわりと高くなって、急に意識をなくしても、倒れずにぼうっとして返事をしないで、ちょっと周りのものをさわる、軽い自動症があるのが典型的な発作で、これはてんかんとは認識されないこともしばしばです。

大西

そのあたりは気をつけていくことですね。

赤松

はい。

大西

どうもありがとうございました。