ドクターサロン

池脇

今日は2022年2月25日で、オミクロン株の第6波の真っただ中です。この第6波は20代から始まって、高齢者と二極化してきました。新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)患者のうち小児が3割ぐらいととても多くなっていますが、増えてきている背景というのは何なのでしょうか。

勝田

デルタ株流行期までは子ども感染や、学校・幼稚園・保育所感染は比較的少なかったのですが、流行株がオミクロン株に変わって感染力が増したことによる影響が一つ。もう一つは、20代以上に関しては比較的早期にワクチン接種が開始され、かつ一部の方はすでにもう罹患されて免疫を持っているのに対し、まだワクチンが接種されていない子どもたちが最後に残っていたという2つが理由で子どもの感染が増えてしまっていると考えています。

池脇

先生方も日常診療で小児のコロナ感染症患者さんを診療されていると思いますが、今は多いのですか。

勝田

そうですね。オミクロン株になってから入院患者さんの絶対数は増えています。ただ、成人のように肺炎で重症化するというよりも、付随症状が大きな影響を与えています。例えば嘔吐がひどくて点滴が必要とか、痙攣してしまって経過観察が必要とか、クループ症候群で上気道症状があってステロイド治療が必要など、肺炎自体というよりはそういった付随症状で入院する方が非常に増えています。

池脇

オミクロン株は軽症といわれてはいても、総数が増えると一定程度の症状までいってしまう、あるいは先生が言われたように、付随したことで入院が必要な子どもさんが増えてきているということですね。

勝田

おっしゃるとおりで、重症化率はオミクロン株流行期になってからもほぼ変わっていないと認識していますが、絶対数は確実に増えています。我々の施設でもオミクロン株が流行してから、もともと元気だったお子さんが肺炎で入院するなど、いわゆる重症のコロナ感染症の患者さんの絶対数も増えてきていますので、そこはちょっと油断ができないと思います。

池脇

質問は成人と小児において臨床的にどこが違うかということですが、先生の印象はいかがでしょう。

勝田

一つは、よくいわれているとおり、コロナによる肺炎症状は確実に子どものほうが軽症です。これは海外のデータを見ても間違いないと思います。ただ、子どもに関してはもともと、特に年齢によっては小さい子は基礎体力がなかったりというところを考えると、クループ症候群で入院とか、脱水で入院とか、そういったプラスアルファの症状で重症化しやすいというのが一つの特徴です。

池脇

小児特有の臨床的な特徴として、あまり熱は出ないけれども、胃腸障害、嘔吐、といった胃腸炎が多い印象を持たれていますか。

勝田

消化器症状を認める子どもは多いですね。デルタ株流行期まででもそれなりに消化器症状で発症するコロナの小児症例は認められていましたが、オミクロン株流行期になって、嘔吐を主訴に来院される方がかなり増えています。

発熱に関しても、確かにデルタ株流行期までは比較的無症状もしくは軽症の子どもが多く、発熱を認める割合も小児は半数ぐらいで非常に低かったのですが、オミクロン株流行期になってからだいぶ増えてきて、それに伴い熱性痙攣の患者さんがかなり増えていると思います。かつ熱性痙攣も、通常好発年齢とされる0~2歳ぐらいではなく、5歳、6歳を超えてから初発の熱性痙攣を発症する子どもが目立ってきています。同様の患者さんが増えてこないかを注視していく必要があるかと思います。

もう一つ大きな特徴は、日本国内ではそこまで報告されていませんが、小児特有のコロナの症状として、川崎病様症状と心不全プラス消化器症状を認めることがあり、MIS-C(ミスシー)と呼ばれています。一部のMIS-C患者さんは重症化します。米国ではかなり報告数が多くて、致死率が1%弱ぐらいといわれており、小児特有の重症なコロナの症状です。最近は成人でも同様の症状が報告されていますが、MIS-Cは基本的には子ども特有の重症なコロナの病態です。

池脇

大人に関してはコロナに対しての治療薬として、抗ウイルス薬やステロイド、あるいは抗体製剤などいろいろありますが、小児に対しての治療はどういう状況なのでしょう。

勝田

コロナ全体に言えることですが、あらゆるワクチンもしくは治療薬は、小児のデータがすべて遅れてしまいます。ワクチンは少しずつ普及していますが、小児への導入は一番最後でした。内服薬に至っては、使用できるのは18歳以上ですから、まだ子どもは恩恵にあずかれないという状況です。抗体製剤に関しても基本は12歳・40㎏という縛りがありますので、12歳未満は投与ができません。成人と同様のレムデシビルや、ステロイドを使った治療はできますが、そこからプラスアルファが小児においてはまだ確立されていないというのが難しいところです。

池脇

大多数の子どもさんはそこまでいかないにしても、治療のオプションは限られているということですね。

勝田

そこは非常に脆弱な部分がまだ残っていると思います。

池脇

最後に、学校や幼稚園・保育所でクラスターが起こったとき、あるいは家庭内感染があったときの管理方針についての質問です。

勝田

コロナ感染症が始まった当初は学校も幼稚園も保育所も、1人でも陽性の方が出るとすべて閉じてしまうというところから始まったと思います。ただ、長期化の様相を呈してきたところで、例えばご両親の就業の問題やお子さんたちの保育を受ける権利、教育を受ける権利も無視できない状況になってきて、最近は個別の対応が導入されています。一定程度、例えば発症者が10~15%を超えてくると学級閉鎖、学級の間でさらに広がると学年閉鎖、それでもだめだと学校閉鎖というように、ケース・バイ・ケースで状況に合わせた閉鎖をする。その期間に関してもなるべく短くする方向で関係各所が調整し、なるべく小児の日常を維持しながら、かつコロナの対策をしていこうという流れになっています。そういった部分では以前ほど早期に閉鎖はされにくくなったとはいえ、それでも多くの保育所、幼稚園、学校が一時閉鎖をまだまだ必要としているというのが現状かと思います。

池脇

本当に発症者が多いときには休校、休園も必要なのかもしれませんが、子どもさんが休園で看護師が出勤できないといったことは医療の逼迫にもつながる一つの要因ですね。

勝田

まさにそのとおりで、医療業界で働いていると、看護師をはじめとしたエッセンシャルワーカーの就業の不安定さを目の当たりにします。おそらくそれは医療業界だけではなく、すべての業界において急に出勤できなくなる社員の方々が出てしまうというのは、コロナの流行が長期化してきている中で容認できない部分も出てきているので、そのあたりのバランスの調整が非常に難しい時代になっていると思います。

池脇

最後に小児のワクチンに関してうかがいます。10代に関しては始まっていて、5~11歳が、3月ぐらいから始まろうとしています。親御さんとして、子どもにワクチンを打たせるかどうか、迷っているところも多いのではないかと思うのですが、そういったときに、どう答えたらいいのでしょうか。

勝田

ここは専門家でも意見が分かれるところなので、かなり私見も入ってしまうのですが、一つはワクチンを含むすべての医療行為は100%安全が保障されるものではないので、接種することのメリット、デメリットのバランスを取るというところになると思います。そこで必要なのは、一つは正確な疫学情報です。昨年12月までは小児症例はほとんどなかったので、多くの方はワクチンになかなか興味が湧かないし、ワクチンに対する必要性というのもあまり認識されなかったと思うのです。ただ、最近は小児症例が増えてきていて、全体の3割を占めるようになってくると、小児に対してワクチンを接種するメリットが増加してきているかと思います。

もう一つは、実際打つワクチンが安全かどうかが小児においては特に重要視されますが、そこに関しては国内ではまだもちろん5~11歳の子どもたちに接種したデータはないわけで、海外のデータを頼りにせざるをえないと思います。ワクチンが5~11歳の小児に対して早期に導入された米国では接種回数が1,000万接種を超えてきていて、かなり大規模なデータが出てきています。

ご存じのとおり、今回新たに5~11歳に導入されるワクチンは抗原量が12歳以上に用いるワクチンの1/3になります。実際に接種する量で12歳以上と5~11歳への接種による有害事象を比べた米国からのデータでは、実は12歳以上よりも5~11歳のほうが有害事象が少なくなっています。12歳以上で注視されている心筋炎に関しても、5~11歳に関しては12歳以上の1/10程度と報告されていますので、まれな症状に関する安全性も少しずつ確立されてきています。その辺のバランスを取ると、私個人としては少なくとも基礎疾患がある方に関しては、より積極的にお勧めしたいと思います。これは小児科学会も同様の意見です。

また、元気なお子さんたちにどこまで急いで接種するかは非常に意見が分かれていますが、私個人はそういった方たちにも十分な説明をしたうえで、接種することによるメリット、デメリットをできれば本人にも、そしてお父さん、お母さんには少なくともしっかり理解していただいて接種をすることが重要だと考えています。そこを怠って何となく不安なまま接種してしまうと、あとですごく怖くなってしまったり、トラブルの原因になるので、もちろん忙しい臨床の中でゆっくりお話しするのは難しいと思いますが、ほかのワクチンと同様、新型コロナウイルスワクチンに関しては特に丁寧な説明をして、納得して接種をしていただくというところを、小児科医は怠らずにしっかりしていく必要があるかと思います。

その結果として、いろいろ情報を得て、やはり打たないという判断をされた方を決して差別することなく、その方たちの選択肢も我々としてはしっかり受け入れて、例えば学校などで打たない子が不利益やいじめに遭ったりしないようにすることも非常に重要と思います。

池脇

ありがとうございました。