山内
まず診断方法の種類とその精度についてですが、診断方法としてレントゲン、エコー、CTといろいろあり、どれを選んだらいいか、少しわかりにくいですが、最も推奨されるのはどれなのでしょうか。
伊東
骨粗鬆症の診断は、国内外で診断基準が定められています。実際に使用されるのは骨折、特に骨粗鬆症で起こりやすい椎体もしくは大腿骨の付け根、頸部の骨折があるかないか。あとは、デキサ法というX線を使用した骨密度の測定装置による骨密度で70%もしくは80%を切っていて椎体や大腿骨頸部以外の特定の箇所に骨折があるかどうか。これら、もしくはこれらの組み合わせで診断基準が決まっています。
骨密度だけでいうとYoung adult mean(YAM)の70%未満です。これは女性の20~40歳とか、20~30歳の方々の平均を100としたときの値で、70を切ると骨粗鬆症。また、先ほど言ったような椎体や大腿骨の頸部の骨折があれば、それだけで骨粗鬆症と診断がつくことになっています。山内
ほかにもエコー、CTも使われているようですが、こちらに関してはいかがでしょうか。
伊東
先ほど言った腰椎や大腿骨頸部の骨密度測定装置は非常に高価で場所も取りますので、腕の橈骨のX線の骨密度であったり、足のかかとを超音波で測る骨密度の装置も使われます。しかし、先ほど言ったものを正しい骨密度の装置とすると、若干測定の結果にずれが出てきますので、そういった装置で骨密度が低いと診断された場合でも、一度は大腿骨頸部や腰椎のデキサ法を受けていただくことを推奨しています。
山内
できれば一度は専門機関でデキサ法を使ったほうがいいのですね。
伊東
そういうことですね。
山内
少し話がずれますが、時々骨粗鬆症で痛むということが見られるようですが、これは診断上いかがでしょうか。
伊東
私がまさに専門とするところで、先に言いますと、骨粗鬆症のみで骨折をしていないのに痛みが生じることはありません。骨粗鬆症を診断する際、本来は骨粗鬆症を起こすようなほかの病気、例えば甲状腺機能亢進症、もしくは副甲状腺機能亢進症といった病気があります。あと骨密度が下がるほかの病態として我々が専門にする骨軟化症は血液中のリンが下がって骨に石灰化が起こらない病気です。これを必ず先に除外診断してから骨粗鬆症の診断をつけなくてはいけないのですが、残念ながら日本でも海外でもこういった病気が見逃されている傾向があります。
先生がおっしゃった痛みは、おそらく骨軟化症でリンが低下することで石灰化が起こらずに、やわらかい骨ができて、普通の骨粗鬆症のようにボキッと折れてしまうのではなく、ひびが入るような骨折を起こすのです。これはレントゲン等々に写らないので、患者さんはただ痛いということで、診断がなかなかつかないのでしょう。これはしっかりとリンが上がるような、原因になっているホルモンもしくはビタミンDの欠乏等々を改善しないといけません。治療法が全く異なりますので、我々はこういった二次性骨粗鬆症とか、骨粗鬆症の類縁疾患と呼ばれるものをしっかりと事前に除外診断をするように整形外科医、一般内科医に勧めています。山内
少なくとも一度はカルシウムとリンを測定したほうがいいのですね。
伊東
カルシウム、リン、あとアルカリホスファターゼというマーカーもぜひ測定いただきたいと思います。
山内
次の質問ですが、内服薬、注射薬、たくさんあるのでこのあたりも少し整理していただくとありがたいのですが、まず現在のガイドライン、特に一般の医家が初めてアプローチするときに、どういった薬から使っていくことを念頭に置いたらいいかをお願いできますか。
伊東
最初にどのような骨粗鬆症の治療薬があるかといいますと、まず活性型ビタミンDを少し修飾したエルデカルシトール、あと女性ホルモンを修飾したSERM(サーム)、そしておそらく一番多く使われていると思われるビスホスホネート、これは骨の吸収を抑える薬です。また、同じく骨の吸収を抑える薬の仲間で、骨を吸収する破骨細胞を分子的に抑える薬であるデノスマブという薬があります。また最近使われるようになってきたのが骨の形成を促進する薬で、副甲状腺ホルモン製剤のテリパラチドやロモソズマブというものがあります。これをどのように使うかは、整形外科や内科の専門医でも非常に迷うところだと思います。
一般的によく使われているのはビスホスホネート、もしくはデノスマブという骨の吸収を抑える薬だと思うのですが、新しく出てきた骨形成促進薬は非常に効果が高いのです。この薬をどういった方に使うかというと、先ほど言った骨密度とか骨折の程度で判断しますが、さらに重症骨粗鬆症という定義があって、YAMが例えば60%未満であったり、椎体の骨折が2つ以上あるなどの、特に重症な骨粗鬆症患者さんに対しては骨形成促進薬を、1年とか2年の一定期間だけ使うことが推奨されています。 残りのエルデカルシトールや、SERMは比較的効果がマイルドなので、ビスホスホネートやデノスマブでいわれている顎骨壊死や非定型骨折を起こしにくい薬です。これを若い、比較的早期に骨密度が下がってきた閉経後女性の骨粗鬆症患者さんに対して長期に使う目的で使用することがあります。山内
これらの薬はあまり併用されることはないと考えてよいのでしょうか。
伊東
基本的には併用はできないのですが、活性型ビタミンDを修飾したエルデカルシトールとその他の薬は唯一併用が可能です。
山内
薬はいつまで使うのでしょうか。
伊東
まさに核心を突いた重要な質問だと思います。一般の方々は、骨粗鬆症の治療で一度骨密度が薬によって上がれば、その後、治療を中止しても骨密度が下がらないというイメージを持っている方が多く、医師にもそういった方が非常に多いのです。しかし実際、体の代謝の問題ですので、例えば高血圧とか糖尿病の方で薬で治療してよくなったのに、薬をやめたらまた血圧が上がったり、血糖値が上がったりするのと一緒で、骨もその人の年齢や性別、もしくは遺伝的なもともとの性質に沿った骨密度が決まっています。二次性でなく、本当の骨粗鬆症であれば、骨粗鬆症治療薬で治療を行って骨密度が上がった場合でも、治療をやめてしまうと、数カ月、1年以内とかで徐々に効果が切れてきて、骨密度は元に低下します。残念ながら治療は長期間続けなくてはいけません。
山内
効果判定とタイミングということですが、これはやはり骨密度で判定すべきでしょうか。
伊東
骨密度が効果判定にも使われていますが、実は効果判定の基準は学会から明示されていません。しかし一応、骨密度、骨粗鬆症の場合はYANの70%未満というのが一つ指標としてあるので、70%を超えるようにするのが一つの指標かもしれません。
また、骨密度以外に骨代謝マーカーという骨吸収マーカー、形成マーカーがあります。骨密度はだいたい半年とか1年後に測るのに対して、治療薬を使った1カ月後とか3カ月後に骨代謝マーカーを測ります。骨吸収マーカー、形成マーカーが、骨吸収抑制薬だったら下がるし、骨形成促進薬だったら上がる。その反応を見て、その薬が患者さんに合っているかどうかを比較的早く判定する材料となっています。山内
骨密度測定は半年後、1年後ぐらいの間隔でよいでしょうか。
伊東
骨形成促進薬は1年間で腰椎の骨密度が10%ほど上がるのですが、従来のものはだいたい3~5%なので、1年間ぐらい経過を置かないとはっきりとその差が出てきません。そのため、我々のセンターでは半年、1年、その後は1年おきといったかたちで見ています。
山内
最後に生活指導ですが、やはり食事・運動療法は有効なのでしょうか。
伊東
ちょっと予想に反する答えかもしれませんが、骨粗鬆症の方で普通に日常生活を送って食事している方が、皆さんがイメージで持っておられるようなビタミンDやカルシウムを取ったり、あとは運動を一生懸命やれば骨密度が上がるかというと、残念ながら薬で得られるような著明な効果は期待できません。先ほど言ったように、その方に決められた骨密度があって、それ以上には食事や運動では変化しにくいのです。
ではビタミンDとかカルシウムは全く気にしなくていいかというと、ビタミンDやカルシウムが摂取不足という要素が加わると、さらに骨密度が落ちてしまうことになるので、骨粗鬆症と診断された方に対しては、カルシウムよりはどちらかというとビタミンDを積極的に食事で取ってもらったほうがいいと思います。特に腸管でのビタミンDの吸収が落ちてきている高齢者やステロイド薬を使っている方や、非常にやせてしまって消化管の機能が落ちている方はビタミンDの吸収が落ちます。治療としてビタミンDのサプリメントや、場合によっては病院で処方される活性型のビタミンDを内服してもらえばいいと思います。 また、そうでない方が骨粗鬆症が心配だといわれて何か食事で気をつけるとすれば、天然型のビタミンDが多く含まれているキノコ類、特にキクラゲ、シイタケなどが有効だと思います。魚のサケなどにも含まれているのですが、それをたくさん食べて今度は肥満になってしまうようなことになったら困りますので、どちらかというとキノコ、そうでなければサプリメントでいいかと思います。山内
どうもありがとうございました。