ドクターサロン

 山内 光藤先生、まずシェロングテストについて簡単に解説願えますか。
 光藤 シェロングテストというのは、別名能動的起立試験といいます。これを考案したシェロング先生は、起立不耐症状がある患者さんの起立不耐症の原因が、交感神経が緊張した体位性頻脈型なのか、あるいは交感神経機能が低下した起立性低血圧型なのかを鑑別するための試験として考案されています。ですから、今日の日本では起立性調節障害、特に小児心身症とされる起立性調節障害の簡便な検査法として用いられることが多い検査です。
 また、成人では神経変性疾患のうちパーキンソン病や多系統萎縮症など自律神経症状を伴うような疾患においても、その起立性低血圧の有無を検査するために外来で用いられることが多い検査です。
 山内 具体的にはどういったやり方をする試験なのでしょうか。
 光藤 私どもの施設では、まず15分間ベッド上の安静臥床を行っていただき、その後、2分間、1分ごとに血圧と脈拍の測定を行います。その後、起立負荷をして、起立直後、起立1分後、2分後、3分後、4分後、5分後と、1分ごとに脈拍と血圧の変化を記録していく検査です。
 山内 これの診断基準に関してはウェブサイトで見ていただくことにしたいと思います。検査をするときの条件が幾つかあるように思われますが、例えば行う時間帯とか食事の条件がありましたらご紹介願えますか。
 光藤 食事の影響、食後性の低血圧の影響をなるべく受けないようにという観点で、午前11時以降のお昼前や、午後3時以降の夕方に起立試験、シェロングテストを行うことが多くあります。逆に食事の影響で低血圧になる食後性低血圧を疑った患者さんでは、あえて食後の血圧が下がりやすい時間帯にシェロングテストを行うこともあります。
 山内 使い分けがあるのですね。
 光藤 はい。
 山内 あと、今服用している薬の影響といったものはいかがでしょうか。
 光藤 すでに起立性の低血圧があるような患者さんで昇圧剤を内服しているような場合は、昇圧剤の内服を中止したうえで検査を行うことが望ましいと思います。
 山内 検査を施行するときに注意しなければならないことについてはいかがでしょうか。
 光藤 この起立試験というのは失神を誘発する可能性がある検査で、時々実際に検査中に失神される患者さんがいます。したがって、1人では検査を行わずに、看護師やほかのスタッフが立ち会って、失神が起きたときにすぐに対処できる態勢を取ったうえで検査を実施することが望ましいと考えています。
 山内 救急対応ができる施設が望ましいのですね。
 光藤 はい。私どもも救急カートは念のため近くに置いて検査を行っています。
 山内 この試験の再現性についてはいかがでしょうか。
 光藤 特に起立性調節障害の小児例では、朝は、起立不耐症状が強くて学校に行けないけれども、午後から元気になるというお子さんがいます。そういうお子さんに午後、起立試験をやっても所見が得られないことがあります。学校に行けないとされている午前中に起立試験を行うと、起立性調節障害の診断を満たすようなこともありますので、あえて症状が起こりやすい時間帯に行ったほうがよいと考えています。
 山内 この試験を確定診断に用いることはできるのでしょうか。
 光藤 起立試験には能動的起立試験と受動的起立試験があり、このシェロングテストのような能動的起立試験で起立性低血圧や体位性頻脈を認めた場合は、それだけでも診断としてよいと思います。ただ、それで陰性だった場合は、受動的起立試験であるティルト試験まで行うことが望ましいと考えています。
 山内 ティルト試験は外来でもよく行われる方法と思われますが、これとの違いを教えていただけますか。
 光藤 能動的起立試験は被験者が自分の足で立つということですので、自律神経系への負荷という意味ではティルト試験よりも軽いと考えています。ティルト試験はティルトテーブルが体を起こしてくれるので、足の筋肉を使わないという意味で自律神経系への負荷はシェロングテストよりも大きいことから、成人では特にティルト試験のほうが診断に有用であるという立場の医師も多いと考えています。
 山内 小児と成人で少し違うのですね。
 光藤 小児心身医学会のガイドラインでは能動的起立試験のほうが受動的起立試験よりも優れているという立場の記載が見受けられます。
 山内 この質問の中にある新起立試験の位置づけはいかがでしょうか。
 光藤 新起立試験に関しては、小児の心身医学ガイドラインに載っている起立性調節障害の4つのサブタイプのうちの1つの起立直後性低血圧というものがありまして、これは起立直後に血圧が下がって、血圧が回復するまでの時間を見なくてはいけない。それができる唯一の検査が新起立試験になっています。ですから、シェロングテストでは起立性調節障害を疑っても起立直後性低血圧の診断ができないという弱点があるということです。
 山内 起立性低血圧の治療を簡単にうかがいたいと思います。まず、治療薬にはどういったものが使われるのでしょうか。
 光藤 起立性調節障害のうち起立性低血圧などでは昇圧剤としてミドドリンを使うことが多いです。あと、フルドロコルチゾンを使うこともある(承認外)のですが、フルドロコルチゾンは低カリウム血症などの副作用がありますので、やはり使用にあたっては慎重にいったほうがいいと思っています。また、高齢者だと起立性低血圧に加えて臥位性の高血圧を認める場合があり、フルドロコルチゾンは高血圧には原則禁忌なので、そういった方には特に注意したほうがよいかと思います。また、漢方薬の補中益気湯や真武湯を併用する場合もあります。
 山内 次に、生活指導のポイントを教えていただけますか。
 光藤 生活指導として、一つはこういった起立性調節障害などでは静脈血が下肢にプーリングすることが原因の一つであるとされていることから、足の筋肉を使うということで、立ち上がる前にその場で足踏みをして立ち上がっていただく。あるいは、電車などで立つ場合は足をクロスさせて立つといったようなことで症状を緩和させられるといわれています。実際、患者さんにお聞きすると、電車の中で立っているときに無意識のうちに足をクロスさせていたという方もいるので、おそらく患者さん自身が症状を緩和させる方法として自然に取っておられる場合もあるのかなと思っています。
 山内 それはなかなか面白いポイントですね。それ以外の生活指導としてはどういったものがありますか。
 光藤 水分摂取の励行や、水分に加えて塩分を多めに取っていただく。具体的には、例えば食事のときに味噌汁やスープといった、ちょっと塩分のあるものをしっかり取っていただくといったような、水分と塩分摂取の励行が有効であると考えています。
 山内 成人、高齢者になってくるとなかなか難しいことも出てきますね。
 光藤 成人の場合は水分、塩分の摂取はあまり強調せずに、例えば弾性ストッキングなどを使うようにとか、あとは「歩きなさい」と下肢の筋力強化に努めていただくような指導を行っています。
 山内 ありがとうございました。