ドクターサロン

 池脇 脳血管障害の後の抗血小板薬の使い方についての質問ですが、その前に脳血管障害の病型によって当然、抗血栓療法の内容も違ってくるので、そのあたりからまず確認をお願いします。
 上坂 脳梗塞が再発してきた場合に、病型が正しいかが一番かと思います。心房細動は指摘できないとのことですが、ホルター心電図の発作性心房細動検出感度は必ずしも高くない。脳梗塞急性期で塞栓ではないかと思われる症例で、入院時に心房細動が見つかっていない場合、ホルター心電図の検出率は6%ぐらいで、その後1週間持続モニターしたら22%ぐらいと、3倍ぐらい違ってきます。1回のホルター心電図で心房細動がないから心原性ではないとは必ずしもいえなくて、皮質梗塞などが多発しているとか、塞栓症が疑われる場合はホルター心電図を繰り返すとか、最近では植え込み型の心電図モニターもありますが、そういうものを確認する必要があります。
 あと、右側だけとか左側だけとか同じサイドに再発する場合だと、頸部頸動脈からのA to Aといわれるタイプの塞栓を起こしている場合もあるので、頸部頸動脈に塞栓源となるようなものがないか調べる必要があります。そういう場合では、狭窄度とかプラークの不安定度によりますが、内科治療だけではなくて血管内治療や、内膜剝離術など、外科的なことを考慮する場合も当然出てくるのです。なので、病型が正しいかがまずスタートになるかと思います。
 池脇 患者さんが入院時に心電図で心房細動がなければ、あるいは「心房細動はありますか」と聞いて、「言われたこともないです」と言ったら、もうそれで脳塞栓なしと思ってしまうのですが、専門医は本当にないのかを徹底的にチェックされているのですね。
 上坂 最近、塞栓源不明の脳塞栓、ESUSと呼ばれているものが話題になっていて、全部が全部心房細動ではないけれども、特に高齢者の場合ではかなりの割合が発作性心房細動で、それは必ずしもホルター心電図では感度が十分ではないということがいわれていると思います。
 池脇 確かにそうですね。この質問にも関係があるかもしれませんが、抗血小板薬をやっていても再発しているということから、ひょっとすると、もちろん抗血小板薬が十分ではないかもしれないけれども、脳塞栓の可能性がないかどうかを、一度チェックする必要があるということですね。
 上坂 ラクナ梗塞のような穿通枝梗塞であればたいていは大丈夫だと思うのですが、皮質梗塞とかを繰り返すようであればその可能性も考えられたほうがいいですね。
 池脇 どういう脳血管障害、梗塞であったとしても、基本的にはいわゆる抗血栓療法が必要だということですが、一方でそれだけではなく、その方の持っている危険因子をきちんと管理するという、この両方が大事だと聞いたのですが、どうでしょう。
 上坂 リスク管理は一番大事で、様々なリスクをお持ちの方の場合は当然、抗血小板療法が重要ですが、ちょっと無症候性ラクナ梗塞があったらアスピリンが処方されていたような時代も昔はあったかと思います。それは非常に反省されていて、今は安易に無症候性ラクナ梗塞にアスピリンを処方していると、むしろ脳出血が増えるのではないかともいわれています。まずは最大のリスクは高血圧ですので、きちんと降圧する。私が研修医の頃は脳梗塞の患者さんはあまり下げるなといわれた時代もありましたが、今はきちんと下げて、140/90㎜Hg以下とか、糖尿病があれば130/80㎜Hg以下を目標にしていくのがまず基本です。そこが十分下がっていないと、安易な抗血小板薬の使用はかえって脳出血を増やしてしまう。心臓の場合は出血性病変はそれほど大きな問題にならないのですが、脳の場合は出血性病変の問題がかなり大きいので、そこはきちんとする必要があります。LDLコレステロールもできたら100㎎/dL以下が望ましいと思いますが、まずそういうリスク管理をやっていることを確認する必要があります。リスク管理をしているし、適切な抗血小板薬を選択されているにもかかわらず再発するのであれば、今回の質問になってくるかと思います。
 池脇 先生が言われたように、ほかの危険因子の管理はきちんとやっている。そして、病型からして抗血小板薬の適用の脳梗塞に対し血小板凝集抑制を行っているけれども再発してしまい、お困りだということなのですが、こういう症例はどうやって対処されるのでしょうか。
 上坂 簡便に抗血小板薬が効いているかどうかの確認ができればいいのですけれども、研究レベルではいろいろなアセスメントがあります。通常の血小板凝集能ではvitroとvivoで乖離があったり、いろいろ昔からいわれているところで、なかなか難しい。アスピリンについてはアスピリンレジスタンスというのが昔からいわれています。クロピドグレルについても、クロピドグレルはCYP2C19で主に代謝されて初めて活性体になるのですが、日本人は15~20%ぐらいプアメタボライザーがいて、効きにくい人がいることも指摘されています。そこがきちんと効いているかどうか確認できる検査が簡便にできればいいのですが、なかなか難しいとなってくると、薬を変えてみるのが一つの手になるかと思います。
 最近、脳梗塞領域でもプラスグレルが適用になりましたが、プラスグレルのほうが代謝の影響を受けにくいので、ノンレスポンダーは少ないと推測されています。ただ、プラスグレルについては欧米では出血性の合併症が多かったとして、脳梗塞の適用が取れていないという問題があり、安易に使うと日本人の出血がどうなのかは少し懸念されるところです。日本での臨床研究では出血は増えていないということになっているのですが、少し慎重に使うべきですし、適用としてはハイリスクの方々、糖尿病、高脂血症、血圧等、複合リスクのある方を対象としていくことになると思います。
 池脇 今先生が言われたのはアスピリン、そしてチエノピリジン系の薬、あとはあまり海外では使われていないようですが、シロスタゾールが使われているということですね。
 上坂 シロスタゾールは日本人医師を中心にCSPSという一連の臨床研究が非常に進んでいます。最近、CSPS.comですと、アスピリンとシロスタゾール併用と、アスピリンの単剤と併用との比較がされています。アスピリンとチエノピリジン系の併用の場合、脳梗塞の超急性期は非常に有効だとされていますが、それを慢性投与した場合は出血、その他の合併症が出てくるので、長期投与は望ましくないとされています。ただ、CSPS.comの結果を見ますと、シロスタゾールをアスピリンにアドオンした場合は出血が増えることなく、再発予防効果はよかったという結果になっています。ですので、シロスタゾールを内服できる方については、病型の診断とリスク管理が十分されているという前提ではありますが、シロスタゾールの併用というのはありうる選択かと思います。
 池脇 まさに今回の質問の場合に、シロスタゾール+アスピリンあるいはクロピドグレルというのが一つの選択肢で、先生がそれを使うことができる場合とおっしゃったのは、シロスタゾールの副作用のことをおっしゃっているのでしょうか。
 上坂 頭痛や動悸を患者さんが不快に思って導入できない場合がありますし、脈拍が少し増える傾向にありますので、心不全があると心不全を悪化させることもあります。脈拍が増えることが望ましくない心疾患では、循環器の医師は嫌がられることがあると思います。そういう心臓のリスクがなくて、導入時に頭痛等の副作用がなく、内服が継続できる方の場合はいい選択になってくると思います。
 池脇 最後に、そうやって2剤使ったときに出血、特に頭蓋内出血が心配ということですが、先生方のような神経内科医の場合は、例えばMRIの所見で「この人、何か起こしそうだ」というのを探られるのでしょうか。
 上坂 よくいわれているのは、SWIとかT2などのMR所見で、無症候性微小出血がないか。特に複数ある方の場合は出血のリスクが懸念されます。実際、臨床的にもラクナ梗塞で初発した方はあとで脳出血を起こしてくる方が他のアテロームや心原性脳塞栓と比べて多いというデータがあります。両疾患とも細動脈病変によって起きるので、もともとの原因が共通しているから当然のことではあります。したがって無症候性微小出血が多発している方の場合は、特に2剤併用はなるべく避けるようにしています。 あと、アスピリンが他のチエノピリジン系やシロスタゾールに比べて少々脳出血が多いといわれていますので、無症候性微小出血が多発している方の場合はアスピリンは避けることが多いと思います。
 池脇 どうもありがとうございました。