池田
堤先生、良性発作性頭位めまい症(BPPV)とはどのような病気なのでしょうか。
堤
めまいの診断は多くの場合、アナムネで診断がつきます。頭を動かした拍子に短時間、少なくとも2~3分以内のぐるぐるという回転性のめまいの発作が起きます。それを何回か繰り返し、繰り返しながら何回か同じ頭位をとると、だんだんめまいが起きなくなるのを特徴にしています。もう一つは聴覚、耳の聞こえや耳鳴りに変動を伴わないことが条件になります。これらに合致したものをBPPVと診断します。
池田
神経自体は保たれているのだけれども、別の要因で起こるということですね。
堤
はい。病態自体は半規管の中に耳石と呼ばれる小さな石みたいなものが浮き出して起きるといわれています。
池田
浮き出すというのはどのようなイメージなのでしょうか。
堤
耳石器という重力を感じ取る場所があるのですが、小さい石が有毛細胞という毛の生えた細胞の上にたくさん乗っている形をしています。その石が浮き出すのだろうといわれています。半規管というのは頭の回旋を感じ取る場所で、水の流れで感じ取るのです。そこの水の中に小さい石が浮き出してしまうことで起きるとされています。ただ、見た人はいないので、そう解釈すると眼球運動がうまく説明できるということです。
池田
耳石というのは本来は浮いてなくて、くっついているのですか。
堤
耳石器と呼ばれる場所の細胞の上にくっついています。
池田
それがはがれてしまう理由のようなものは何かあるのですか。
堤
外傷が契機になったり、内耳障害があったりすると浮き出しやすいとされています。
池田
そんなに小さなものだと画像で見られないですよね。
堤
全く見えないです。
池田
ある頭の位置になるとそれが浮き出してしまうのですか。
堤
浮き出しているケースでは、例えば頭を右にぶんと振ると半規管の水が反対向きに流れます。それで頭の動きを感じ取って頭と反対向きに目を動かすようにできている。それが半規管の本来の役割です。そこにちょっと水より比重の重い石が浮いていると、頭をぶんと動かして頭を止めた後に、もう一度水が揺り返しで流れてしまい目が勝手に動いてしまう。それが浮いているタイプのBPPVの理屈になっています。
それともう一つは半規管のクプラと呼ばれる水の流れを感じ取るところに、石がくっついてしまうケースもあるとされています。その場合は頭を傾けると石の重みでクプラが変異してしまい、水が流れているという刺激と同じ刺激になってしまって目が勝手に動いてしまう。目が勝手に動くことでめまいがするということです。
池田
普段とは違った目の回転をするから、あ、めまいだと感じてしまう。
堤
そうですね。景色が動いているように見えてしまう。
池田
それが器官の中の水の流れ、あるいは浮いた石によって変わってくるということですね。
堤
そうですね。
池田
頭位が変わったときだけ出る感じということですね。
堤
そうです。
池田
多分患者さんは、めまいがするからじっとして、その水の流れ、あるいは石の影響がなくなると治ってしまう。
堤
めまいは止まります。
池田
それで診断はつきますね。
堤
そうですね。
池田
どの器官、部位がやられているかはどうやって診断するのでしょうか。
堤
半規管は左右に3つずつあるので、それを立体的に理解し、頭をどちら向きに振ったら水がどう流れるのかを考えます。そうすると、石があった場合にどう目が動くかを理屈上説明ができるので、それを頭の中に入れて実際に頭を動かすのです。ですから、診療所に行くと、頭をぶんと振られます。こっちの向きに振ったらこっち向きのめまいが起きたからこの半規管だという診断の仕方をします。
池田
それは例えばゴーグルみたいなものをつけて、カメラなどで撮るのでしょうか。
堤
今は赤外線CCDカメラのついたゴーグルが一般的に普及していますので、それをかけていただいて、モニターで目の動きを見ながら診断します。
池田
CCDカメラで撮って、医師のほうはどのような感じで見ているのでしょうか。
堤
患者さんの体と頭をぱたんぱたん動かしながらモニターを見ています。
池田
患者さんはちょっとたいへんですね。頭を持たれて。
堤
医師がわざとめまいを起こします。
池田
辛い思いをしますね。
堤
ただ、めまいが起きてくれないと診断ができません。
池田
確かにおっしゃるとおりですね。そのときは患者さんには「ちょっと辛いけれども頑張れよ」と。
堤
そうですね。ちょっと「ごめんなさい」ですが。
池田
先ほどこの診断名はこれしかないというお話でしたが、鑑別診断はあるのでしょうか。
堤
めまいですと、例えばメニエール病などがありますが、持続時間や聴覚の症状と頭位で誘発されるかどうかなどアナムネを聞いていくことでほとんどの場合、鑑別ができます。
池田
そういった状態聴取だけで、だいたいいけるのですね。
堤
だいたいわかります。ただ、難しいのはほかの、例えばメニエール病の患者さんに二次性にBPPVが内耳障害の後遺症としてよく起きるのです。
池田
混ざってしまうということですね。
堤
両方持っている方はものすごく多いです。
池田
そのときは非常に細かくアナムネを取るしかないのですね。
堤
そうですね。あとはそのときの症状がどちらがメインかで、治療法が変わってきます。
池田
診断がついて、だいたい器官の部位もわかって治療になりますが、薬物療法はないのでしょうか。
堤
薬で根本的に治す方法はないとされています。ですので、例えばめまいで吐き気がするとか、そういうときに吐き気どめを使ったり、酔いどめを使ったり、薬物に関してはそういう対症療法だけになります。
池田
質問に、めまい体操というのがありますが、BPPVの特異的なめまい体操というのはあるのでしょうか。
堤
まず患者さんには申し訳ないですが、頭をぶんと振ってめまいを起こしていただく。そうすると、どちら側の半規管のどこに石があるかが推測できます。そうしたら、本来耳石器から浮き出したといわれているその石を元あった場所に戻すような動かし方の体操をします。ですので、どの半規管にあるかで動かし方が全く違ってきます。
池田
先ほど左右3つずつというお話がありました。最低6つはあるということですか。
堤
はい。ただ、前半規管由来のBPPVというのはほとんどありませんので、外側半規管と後半規管がメインになります。
池田
でも最低4種類ということですね。
堤
そうですね。左右、それから後半規管でもエプリー法やセモン法など同じ半規管でもやり方が2~3種類ずつあります。
池田
それぞれ開発された方の名前ですね。
堤
そうですね。
池田
どの方法がいいかは試してみるしかないのですか。
堤
治癒率としては後半規管ではエプリー法が一番いいとされています。ただ、セモン法もそれに劣らないぐらいの成績です。外側半規管ですと、昔はレンパート法というものを使うことが多かったのですが、最近はGufoniと呼ばれる別の方法のほうが成績がいいとされています。
池田
たくさん方法があるのですね。
堤
そうですね。ただ、医師が「私はこれ」というやり方を決めて使っていることが多いです。
池田
それは経験上ということでしょうか。
堤
そうですね。
池田
患者さんがクリニックで診断を受けて、大学病院に来たときは、もう症状はないですよね。
堤
そうですね。軽症の人はほぼありません。
池田
もう一回頭をぶんぶんしてもらうのですね。
堤
症状が出やすいのはだいたい朝方ですので、やっても、もう出なくなっているケースも多いです。
池田
そういう意味では、クリニックの先生がデータを取って大学にデジタル化して送るとか、そういうことは最近されているのでしょうか。
堤
現時点ではないのですが、赤外線のCCDの装置はけっこう値段が張りますので、安価で、しかもサーバーに飛ばせるようなものの開発を進めています。まだ商品化できていないのですが。
池田
それは何かカメラみたいなものを撮るのですか。
堤
眼球のCCDカメラでの映像を、そのまま上げると虹彩紋理が個人情報に引っかかりますので、数値化したうえでアップするようなかたちを想定しています。
池田
クリニックからそれが手に入れば、先生方もわかりやすいですね。
堤
発作のときのデータが見られれば私たちもありがたいですね。
池田
患者さんも、またぶんぶん頭を振ることもないですね。
堤
一応やらせてもらうかもしれないですが。だいたいめまいで受診すると、診療所でも病院でもめまいを起こされます。
池田
そうしないと診断がつかないですしね。
堤
はい。
池田
ありがとうございました。