ドクターサロン

池脇

小島先生、ビスホスホネート製剤(BP製剤)の副作用として一般的には顎骨壊死が有名なのですが、海外で外耳道骨壊死の報告があったということで、わが国にも2016年に添付文書に、重大な副作用として追記されました。それから5年近くたっていますが、日本でどの程度発生しているか等を含めていかがでしょうか。

小島

おっしゃられたように、2016年に添付文書が改訂されたのですが、2005~18年の13年間に海外で20例ぐらいといわれています。日本の文献を調べても、その後、数例あるぐらいなので、頻度的には少ないのではないかと思っています。ただ、すべての病態が文献になるわけではないので、裾野はもちろん広いだろうと思いますが、非常にポピュラーな病態というわけではないと考えています。

池脇

それでも場合によっては重大な副作用になるということで添付文書に付記されたようです。質問のBP製剤を使って耳垢が大量に貯留していることと、骨壊死というのは、何らかの関連があるのでしょうか。

小島

一般的に耳垢がたくさんたまっている場合は、その耳垢を取ればほとんどが中のいわゆる外耳道、あるいは鼓膜、そのあたりは正常ということが多いです。しかし、一部には耳垢を取ると外耳道や、鼓膜の一部に陥凹があって、その部分の自浄作用(マイグレーション)が障害されるがために、そのへこんだ部分に耳垢がたまって、それが外に出ないで、どんどん蓄積され、あるいは炎症を起こすことによって、周りの骨を破壊し奧に浸潤してしまうといった病態があります。

一般的に多いのは中耳の真珠腫といった病態で、鼓膜の一部がへこんで先ほどのような病態を示します。まれな病態としては外耳道真珠腫といって、筒状になっている外耳道の奧の部分はその周りが骨でできているのですが、その骨の内側に薄い皮膚の一部が落とし穴のようにへこんでしまって、耳垢が自然に外に出るのを障害してしまうといった病態があります。

池脇

骨をえぐって浸潤していくというのは、耳垢で炎症が起こるのでしょうか。

小島

最初の原因は中耳真珠腫も外耳道真珠腫もわかっていないのですが、1度へこみが起きて耳垢がたまってしまうと、例えば炎症を起こしたときに、耳漏の中のサイトカインとか、そういう成分が皮下組織に作用し、さらに骨にいくといわれています。それで歯槽膿漏のような病態が起きてくると思っています。

池脇

確認ですが、質問をいただいたのは耳鼻科医で、そういった外耳道真珠腫もよくご存じの医師ですから、これは外耳道の真珠腫ではなく、骨壊死と診断されていると考えてよいですか。

小島

外耳道真珠腫と、BP製剤による骨壊死というものの病態がはっきり区別できないのではないかと思っています。外から見たときに骨が露出している外耳道真珠腫ももちろんありますし、BP製剤によるものもあり、かなりオーバーラップするのではないかと思います。

ただ、論文などを見てみますと、BP製剤による外耳道真珠腫と、それを使っていない外耳道真珠腫を比べてみると、BP製剤を使っているもののほうが治療に抵抗性があり、なかなか治らないといわれています。共通した病態もあるでしょうが、別ものの可能性は高いのかと思っています。

池脇

BP製剤はすごく半減期が長いので、骨に吸収というか、ひっついているということになりますと、外耳にBP製剤がたくさんある状況と、そうではないのとで、その後の経過にも影響が出てくるのでしょうか。

小島

そうかもしれないですね。骨のハイドロキシアパタイトと強くくっつくといわれていますから、そういうものがずっと長くとどまると、もちろん破骨細胞によるアポトーシスを誘導するとか、いろいろな薬理作用がありますが、そういうものが複雑に絡み合ってこういう病態を作るのではないかと思います。ただ、何ぶんにも報告例が少ないので、はっきりした病態はわかりません。

池脇

報告が少ないので、頻度といえるほど疫学のデータがないのですね。

小島

ないですね。添付文書のように、BP製剤を使っていて、いわゆる外耳炎とか耳漏、耳痛が続く場合はきちんと診ないといけないとは思います。

池脇

なりやすいリスクはあるのでしょうか。

小島

いわれているリスクはステロイドの長期使用、化学療法の既往、中耳炎の手術後、あるいは感染、中耳炎とか外耳炎をもともと持っている方、あるいは綿棒とか耳かきで頻回にいじる人、とはいわれています。

池脇

おそらくそういったことで耳鼻科を受診されて、診断された場合の対処はどのようにするのでしょう。

小島

一般的な外耳道真珠腫の対処というのはほとんどが保存的療法になります。外来できれいに耳垢を取って、その後に保湿の軟膏やステロイドの軟膏などを塗って炎症を抑えます。最初にある程度頻回に傷つけないように耳垢を取ってあげると、皮膚の自浄作用が戻ってくることが多いのです。ただ、それは一般的な外耳道真珠腫の場合で、質問の指摘のように骨が露出して、いきなり骨面のざらざらのところが出ている場合は、皮膚がその上を上皮化するというのはなかなか難しいと思います。

池脇

場合によっては外科的な対応ということもあるのでしょうか。

小島

一般的な外耳道真珠腫がひどい場合は外科的に手術をします。くぼみといっても、そのくぼみがなだらかではなくて、でこぼこになっていることが多いので、そこをきれいにならして、残っている外耳道の皮膚を使って、筋膜や結合組織を利用し皮膚の再生を図る手術。あるいは、陥凹した部分を骨の粉で埋めて平らにするようなことが行われることもあります。

池脇

炎症の中でも例えば細菌感染がそこに局所的にあるようなこともあるのでしょうか。

小島

ありうると思います。ただ、どちらが先かはわからないですね。もちろん細菌感染がある場合は点耳薬とか内服の抗菌薬とか、そういったものを使って抑えていく必要はあるだろうと思います。

池脇

今は骨粗鬆症でBP製剤を処方をしている医師がたくさんいます。顎骨壊死に外耳道骨壊死もとなると、どういうタイミングで起こるとか、患者さんにこういうことがあったら耳鼻科に行くといった指導は何かありますか。

小島

すべての方がなるわけではないので、先ほど申しましたけれども、何らかの耳の症状、外耳炎、あるいは耳漏などの症状がある場合は受診したほうがいいだろうと思います。

池脇

これはBP製剤を始めて比較的早期というよりも、ある程度期間がたってから起こりやすいのでしょうか。

小島

そうだろうと思います。それから、少し話が外れるかもしれませんが、こういった病態の場合に悪性腫瘍、外耳道がんがたまに交じっていることがあります。痛みを伴って、骨壊死を起こし、皮膚にびらんがあるような場合は必ず外耳道がんも疑って、そこの部分の生検を行ってください。外耳道真珠腫は良性のものですし、炎症性のものに近いのですが、外耳道がんが交じっていますから、そこはルールアウトしないといけないと思います。

池脇

ありがとうございました。