ドクターサロン

山内

大友先生、まず夜尿症の定義からご紹介願えますか。

大友

これは世界共通の定義があります。5歳の誕生日を迎えた段階で月に1回以上の夜尿が3カ月以上続いている場合に夜尿症という病名がつきます。ただ、そこで治療を始めなければいけないということはありません。多くの場合は小学校に上がる6歳の段階でまだ夜尿が続いていたら、少しお手伝いしようかというのが臨床の現場の考え方かと思います。

山内

鑑別はどう進められるのでしょうか。

大友

まず診療を始めるときに、いわゆる病型分類といって、どのようなタイプの夜尿症なのかをチェックするのですが、一番わかりやすい分類は単一症候性夜尿症と非単一症候性夜尿症です。前者は夜間眠っている間しか漏れないという方で80%ぐらいいます。後者の昼間も漏れてしまう昼間尿失禁もある方は20%ぐらいです。非単一症候性夜尿症、つまり昼間の漏れがある方のほうが純粋な夜尿症ではなく、何らかの膀胱機能や下部尿路に問題があったりします。あるいは併存症として注意欠如多動障害という発達障害、ADHDのお子さんたちも少なからずいます。注意しなければいけないのは慢性の便秘がひどい方たちが、やはりそういうかたちをとってきますので、そこの鑑別が必要かと思います。

また、もう一つのくくりとして一次性夜尿症、二次性夜尿症があります。90%以上の患者さんは生まれてからずっとおねしょ、夜尿が続いて5歳を過ぎてしまった方です。しかし、10%くらいは4~5歳ぐらいに一度は夜尿が完全に解消していたけれども、数年を経て(定義は6カ月以上)、突然また夜尿が始まったという方で何らかの疾患が隠れている可能性があり、糖尿病なども重要だと思います。多飲多尿でいきなり始まる。あるいは、脳腫瘍ができて、抗利尿ホルモンがうまく出せなくなったために夜尿になったという方もいます。頻度はものすごく少ないですが、その辺は見落としてはいけないので、最低限ルールアウトしますが、多くの場合は心因性、心の問題です。例えば学校でいじめに遭ったのをきっかけにとか、家庭で両親が離婚してしまうなど、家庭に不幸があって、気持ちの問題から夜尿が起きてしまうこともあります。

山内

少なくとも誘因としては常に念頭に置いておいたほうがいいということでしょうか。

大友

そうですね。初診でしっかりとその辺までを含めた問診をして、何か器質的に病気がありそうであれば幾つか、尿の検査や血液の検査、画像の検査が必要になるかもしれません。

山内

では、治療の話に移りたいと思います。典型的な夜尿症についてですが、5歳ぐらいの小さい子どもでは本人にあまり病識がないというか、今までそういう状況でずっと来たのですから、なぜ悪いのかということになるような気もします。このあたりはいかがでしょうか。

大友

5歳で夜尿症という定義に乗ったとして、確かに一度もうまくいっていないということになると、お子さんたちになかなか病識を植えつけるのは難しいかと思います。なので、定義としては5歳かもしれませんが、多くの場合、小学校、就学の準備をし始めたあたりから、生活のリズムとして何時に寝るのか、何時に起きるのかということが整うようになってくると、少し自覚が出てきます。5~6歳の頃はまだ自然治癒が望みやすく、良くなっていく可能性が少し高い時期なので、その辺は生活指導で、夜間の飲水制限をしましょうとか、寝る前に必ずトイレに行きましょう、寒ければ温かくして寝ましょう、みたいなことをするだけでも、1割の方は夜尿が解消してくると思います。

山内

あまりせかしても逆効果になるかもしれない、メンタル的に追いつめてしまうかもしれないというところでしょうか。

大友

トイレットトレーニングは3歳ぐらいが目安ですよと言いながらも、個人差があって、焦ってしまう親御さんもいるかもしれないのと同じように、夜尿の治療に関しても、5歳だから焦らなければいけないということはないと思います。ただ、非単一症候性夜尿症で、昼間の漏れがある場合は、幼稚園の年中さん、年長さんの時期だと、昼はどうにかしてあげたいと、少しお手伝いをすることはあります。

山内

小学校ぐらいになりますと、夜尿自体が本人のストレスになることもあるのでしょうね。

大友

そうですね。昔は学校の宿泊行事は小学校5年、6年ぐらいだったかと思いますが、最近は、習い事をはじめとして、幼稚園からサッカースクールなどに入れたりする方もいて宿泊行事の年齢がけっこう下がってきています。そのときにまだ夜尿が解消していないと、友達の手前、ちょっと格好悪いということで、かなりストレスを抱えてしまったり、いじめに遭うかもしれません。

山内

その状況あたりから本格的な治療になると思いますが、治療の選択肢としてはどういったものになるのでしょうか。

大友

先ほど申し上げましたように、1割の方は生活指導で良くなるのですが、生活指導はあまり長くやっていてもしょうがないので、1カ月ぐらい見て、あまり変わり映えがせず、かつ家族、本人が希望されるようであれば、もう少し踏み込みます。大きく分けると、薬を使う方法と、夜尿アラームを使う2つの方法があります。

山内

まず薬を使う方法ですが、第一選択薬は何になりますか。

大友

夜尿の原因として7割ぐらいの方は夜間に多尿があります。夜間の抗利尿ホルモンの分泌がどうもうまく上がらない方に対して抗利尿ホルモン製剤、デスモプレシンを使うことによって夜間の尿量を落とすことができ、夜尿の成績を上げられると思います。

山内

有効率は高いのでしょうか。

大友

全体の7割の患者さんはデスモプレシンで良くなります。ただ、デスモプレシンを使うときのコツとして、よくなって、いきなり切ってしまうと、すぐにそのホルモンが自分で出せるようになるわけではないので、尿量が増えて、やはりだめになる可能性があります。少し時間をかけて徐々に量を減らしきっていくのが再発を少なくする方法だと思います。

山内

使い方はどうでしょうか。

大友

お水を使わなくてものめる口腔内崩壊錠で、用量は120μgと240μgの製剤があります。120μgでスタートして、なかなか尿量が落ちなければ、240μgに上げて構わないと思います。でも、240μgが最高量ですので、それ以上は上げられない。240μgで良くなった場合には120μgに落として、さらにそれをできれば半錠ぐらいに落としてきっていくほうが再発を少なくできると思います。

山内

内分泌疾患での感覚からすると、随分と量が多い感じがしますね。

大友

そうですね。中枢性尿崩症でこの薬を使うときは60μg、それも半分で使うようなこともありますので、少し多めかもしれません。

山内

内分泌システム自体は正常というところで使うからかもしれませんね。それ以外の薬としてはどういったものになりますか。

大友

夜間の膀胱の過活動があるお子さんに対しては、成人の過活動膀胱の治療薬である抗コリン薬がしばしば有効です。ただ、単剤では無理なので、デスモプレシンに乗せて併用しています。

山内

それ以外は何かありますか。

大友

睡眠を少し改善させるということで漢方薬を使うこともありますが、第3選択薬として欧米でも使われている三環系抗うつ薬を使うことがあります。ただ、これは過量投与によって不整脈、致死的な不整脈を起こすリスクがあることがわかってきたので、ガイドライン上は第3選択薬で、注意して使うようにといわれています。

山内

次には有名なおねしょアラームがありますので、こちらも少しご紹介願いたいのですが。

大友

夜尿アラームは、よく受ける質問で、起こすのかといわれるのですが、これは尿が漏れ始めたところを気づかせるという治療です。気づくことによって、だんだん本人が我慢して膀胱におしっこがためられる量が増えてきて、アラームが作動する時間が後ろへ後ろへずれてきて、朝までもつようになるという治療で、2カ月頑張るとけっこう成績を出せると思います。

山内

薬との使い分けはどうなのでしょうか。

大友

夜間多尿の患者さんはやはりデスモプレシンで尿量を落とさないとうまくいかないのですが、多尿がなければアラーム療法はけっこう期待できる治療だと考えています。

山内

ネットで見ますと欧米でかなり機器が先行している感じがしますが、いかがですか。

大友

あくまでもこれは1940年代ぐらいからアメリカ等で行われてきた治療で、日本で盛んに行われるようになってからまだ日が浅いのですが、日本でも幾つかいいアラームが導入され使われるようになってきました。

山内

アメリカの最新鋭のものを少しご紹介願えますか。

大友

膀胱にどれだけおしっこがたまっているのかをしっかりと超音波のプローブをつけてモニターをします。日本で普通に使っているアラームは漏れると知らせてくれるのですが、それはAIがだいたい記録をしていて、漏れそうなところがわかると先に教えてくれます。そのデータをクラウドに上げて管理をするアラームがアメリカから出てきて、もうすぐ日本に上陸してくるかと思います。

山内

それはまたいろいろな意味で楽しみですね。どうもありがとうございました。