山内
長先生、腹腔鏡・内視鏡合同手術の適応は内視鏡という言葉がついているので、基本的には胃、大腸などの消化管でよいのでしょうか。
長
はい、胃が最もよい適応になります。
山内
胃にもいろいろな病気がありますが、主にどういった内容の疾患が対象となるのでしょうか。
長
一番よい適応は胃の粘膜下腫瘍です。中でも、消化管間質腫瘍(GIST)が一番よい適応になることが多いです。
山内
GISTとはどのような病気なのでしょうか。
長
一般的には悪性腫瘍として扱われます。ただし、がんと異なり、粘膜からではなく、筋肉の層などから発生して、ボールのように局所で成長します。この腫瘍はリンパ節に転移しにくいという特徴があるので、外科治療の際はリンパ節と一緒に臓器を大きく切り取る必要がありません。
山内
それがよけいに内視鏡手術に適しているということですね。
長
そのとおりです。
山内
GISTの頻度はいかがでしょうか。
長
過去の報告によると、50歳以上の約3割の方に小さいものは見られるとあります。症状を呈さない無症候性のGISTはそれだけ一般的にある一方で、悪性化を起こす症候性のGISTに関しては、約10万人に2人と、頻度は非常に少ないと報告されています。
山内
まれなものだけがこの手術の対象なのでしょうか。それとも、もう少し疑いも含めて適応になっていくのでしょうか。
長
ご指摘のとおり、粘膜下腫瘍は内視鏡で見ても質的診断ができない。
見た目だけでGISTとわからない場合もありますので、疑い例も含めて対処することがあります。
山内
従来は当然開腹手術が主体だったと思われますが、こういった腹腔鏡を使うことで侵襲は非常に少なくなります。今後はほぼ100%この術式と考えてもよいですか。
長
近年の腹腔鏡手術の普及によってだんだん開腹手術が減っています。特に傷を大きくしなければいけない開腹手術と比べて腹腔鏡手術は小さな穴が4つか5つというように、患者さんの負担が非常に少ないということもあり、この腹腔鏡・内視鏡合同手術もGISTに対しては主流になっています。
山内
腫瘍のサイズは少し関係しますか。
長
おっしゃるとおりで、どんなに大きな腫瘍でもできるわけではありません。ごくまれにですが、20㎝を超えるような、非常に大きく成長するGISTもあるので、そういったものはやはり腹腔鏡手術の対象にはなりません。一般的に、つい最近までは5㎝以下がいい適応といわれていましたが、近年の腹腔鏡手術の技術の向上もあり、最近ではもう少し大きな6~7㎝くらいの腫瘍も適応にしている施設が多いかと思います。
山内
GISTは胃の壁の内側、外側、両方にまたがって出てきている腫瘍というイメージですが、これでよいのでしょうか。
長
内側、外側、混合型という3つのタイプに分けられるのですが、腹腔鏡・内視鏡合同手術のよい適応になるのは内側に発育するタイプのものになります。その理由は、外科的に胃の外側から内側に発育するタイプのGISTを観察しても、場所も大きさもよくわからないからです。そのときは内視鏡で内側から一緒に見ることによって、より正確な場所とか、そういったものが把握できることになります。
山内
最近は画像診断が非常に進んでいますが、内側に出っ張っているかどうかは、CT、MRI、こういったもので事前に十分わかるとは限らないのでしょうね。
長
おっしゃるとおりです。胃は管腔臓器ですので、CTでは内側に出っ張っているタイプかと思っても、実際は外側に出っ張っているものが内側に押されてそのように見えただけということも実臨床上は経験します。CTだけで100%診断ができるとは限りません。
山内
見てみなければわからないところがあるのですね。
長
はい。
山内
さて、この腹腔鏡・内視鏡合同手術のメリット、デメリットについて教えてください。
長
メリットの1つは傷が小さくて痛みが少ない、回復が早いということが挙げられます。それから、胃に関していえば、切除範囲を最小限にできますので、食事も早く始められますし、通過障害などの異常もきたしにくいことが挙げられると思います。
山内
胃に限りませんが、おなかの手術を行うと、その後、非常に長く痛みなり、特に消化器症状を訴える患者さんが多いのですが、そういったものはかなり軽減している印象ですか。
長
はい。切除範囲も非常に小さいですし、先ほど申し上げたとおり、リンパ節を取ったりしませんので、おなかの中の炎症も起こしにくく、痛みも少なく、熱も出ず、回復も早いという印象を持っています。
山内
デメリットとしてはどういったものが挙げられますか。
長
デメリットはあまりないのですが、少し複雑な手術でもあるので、手技慣れという部分はあるかと思います。もう一つの弊害としては、よく見えすぎてしまうがために、すごく小さく取ろうとして腫瘍のぎりぎりを取り過ぎてしまい、取ったものを顕微鏡で見たときに腫瘍の切除のマージンがぎりぎりで担保できないということも起きうるかと思います。我々は最近、あまりぎりぎりを攻め過ぎないということも注意しています。
山内
外科医の気性も入るのでしょうが、なるべく小さくしたいという願望も入ってしまうのですね。
長
そのとおりかと思います。
山内
これは腹腔鏡グループと内視鏡グループの2つのチームでやると考えてよいのでしょうか。
長
はい。内視鏡は内科医のほうが上手ですので、外科医が全部行うというよりは、内視鏡部分は内科医にやっていただいて、その後、バトンタッチして外科医が、特に穴を閉じる部分をしっかりやるというように、役割分担して行うことが多いと思います。
山内
ただ、術中に判断の違いがあるかもしれませんし、医師の主導権争いといったものが出てくることはありませんか。
長
1つのチームとしてやることが重要ですので、そういうことが起きないよう内科医がやっているときは我々は静かに見守って、終わったら粛々とその後を引き受けるというように、主導権争いが起きないように心掛けています。
山内
ただ、そのうち両方の技術に長けた医師が出てくることは十分期待されるでしょうね。
長
はい。中には大谷翔平選手のような二刀流の医師がいます。そうすると外科と内科のスケジュール調整が不要になるので、そういう医師がいる場合には、その方にやっていただくほうがいいかもしれません。
山内
今後の広がりに関してですが、例えば救急などで、胃の出血を診るとき、どこから出血しているかわからない場合にも応用が可能と考えてよいでしょうか。
長
非常に汎用性の高い手技であると思っています。ですので、腫瘍に限らず、先生がおっしゃるような急性の出血で内視鏡的にどうしても止められないようなものに、この合同手術が応用できる可能性はあると思います。
山内
今後、泌尿器科、婦人科、そういったところへも広がる可能性がある技術だろうと考えてよいでしょうね。
長
はい。ぜひそうなっていってほしいなと思います。
山内
どうもありがとうございました。