ドクターサロン

池脇

PCI後のDAPTで抗血小板薬を2つ使わなければいけない理由は何でしょうか。

新家

抗血小板薬が冠動脈疾患になくてはならないものになったのは、おそらく1980年代あたりからではないかと思います。そもそもPCIなどはなかった時代にアスピリンがトロンボキサン阻害によって抗血小板作用を発揮し、心筋梗塞の患者さんの予後を改善する、この冠動脈疾患の方の予後を良くするとして使用されたのがスタートだと思います。

その後、Gruntzig先生が発明したバルーンで冠動脈を広げるPTCAといった手技が発展してくると、今度はステントが出てきてDAPTの概念が確立されました。ステントは冠動脈の中にメッシュの金属の筒をはめ込むような作業です。動脈硬化で非常に狭くなり、血栓もつきやすい冠動脈にステントをはめ込んで、しっかりと内腔を得る。これは素晴らしい治療でしたが、導入された1990年代前半はこのステントが治療後2~3日、あるいは1週間ぐらいのときに血栓で詰まる現象が起きて、たいへんだということになり、いろいろな薬が試されました。

やはり金属という異物が入るので、内腔が保たれていても、そこに血栓ができてしまうのをどうやったら防げるのか。今までのアスピリンだけではだめだとワルファリンとアスピリンが試されたり、今回のテーマであるDAPT、アスピリンとチエノピリジン系の薬剤(当時はチクロピジン)の抗血小板剤2剤の併用で随分とステントが血栓で詰まることが少なくなったことが証明されて、DAPTが生まれたという経緯があります。

池脇

そういう薬をどう使うかよりも、冠動脈治療のステント治療後に発生する血栓をどうクリアしようかというなかでDAPTが生まれたのですね。

新家

そうですね。その時期に確立されたといえると思います。ところが、その当時のステントは今の薬を塗っている薬剤溶出性ステントではなくて、ベアメタルステント、金属ステントでした。金属ステントは、入れた後に新しい膜といいますか、平滑筋細胞が増生してきて、ステントをすぐ覆ってしまうのです。そうすると、血栓の素地になりにくいことになり、DAPTは1カ月程度でいいのではないかと固まってきました。もちろん、新しい膜、内膜が増殖し過ぎると再狭窄し中が細くなるので、こちらのほうが将来的な問題点としてクローズアップされて生まれたのが薬剤溶出性ステントです。

薬剤溶出性ステントは新生内膜、平滑筋の増殖をしっかり抑えてくれるので、再狭窄が少なくなりました。これは非常に良かったのですが、当初の薬剤溶出性ステントは内膜の増殖を抑え過ぎた結果、いつまでもステントの後ろのプラーク、粥腫がむきだしのままである状況が長く続いてしまい、半年とか1年、場合によってはそれ以上後に血栓で詰まる、遅発性血栓症という問題が生じてきました。これは忘れた頃に起こるので、本当にみんなに恐れられたという歴史があります。

そこで、DAPTを長く続けておくと、遅発性ステント血栓症を抑えることができることがわかってきて、薬剤溶出性ステントを入れた後は少なくとも1年以上DAPTを継続することが一般化されました。

池脇

今の先生のお話からステントの向上に合わせるかたちでまた新規の問題点が起こり、それに対してDAPTも使い方を変えながら進化してきたという印象を受けました。血小板凝集抑制剤に関しての新しいガイドラインを循環器学会が出されたときに、先生も関わっていますが、使い方はステントの品質変化、プラス血栓のリスク、その方の持っている出血のリスク、いろいろなことを総合的に考えないといけないのでしょうか。

新家

おっしゃるとおりです。ステントの進化、そして患者さんの血栓や出血のリスク、こういったことを総合的に考えていかなければならない。ステントの進化からお話をすると、最初の頃の薬剤溶出性ステントはいつまでもステントがむきだしで今から考えるとよろしくない性質がありました。ある意味、治りにくいような状況でしたが、随分とステントの開発が進みました。金属を薄くしたり、薬を塗る量を調整したり、薬剤が溶出するスピードを調整したりして、再狭窄は抑制するけれども、ある意味いいぐあいに膜に覆われて、ステントそのものの血栓の素地となる要素を減らしてくれるものを目指しました。その開発は2000年代前半から2015~16年頃までずっと続きました。

現在の薬剤溶出性ステントはかなり完成形に近いものになっていると思います。そうすると、DAPTの期間はそれほど長くなくてもいいのではないかと舵が切られたのがここ数年のことだと思います。

池脇

ステントが進歩して、それに合わせて基本的にはDAPTの期間は短くなる傾向にある。それはそのまま出血のリスクも少なくしてくれるので、患者さんにとってはより安全に使えると考えてよいですね。

新家

そうですね。道具としては非常に安全性が高まってきたと思います。ただ、先生方も日常臨床の中で感じられていると思いますが、ここ10年ぐらい、患者さんがそのまま歳を取ったような印象を受けている方が多いと思うのです。例えば同じPCIを受ける患者さんでも、10年前と今の統計を比べると間違いなく平均年齢が上がってきていて、最近ではより高齢者にこういった治療を施しているという事実があります。その点で、今度はステントやその場所だけではなく、患者さんのリスクを評価しなければならない方向に、我々のマインドセットを変える必要が出てきたと思います。

池脇

専門医でPCIをやって、DAPTで状態は落ち着いているから、あとはフォローアップをお願いしますという患者さんがいると思います。基本的にDAPTの状態で引き受けて、いつ頃それをやめるのか。これはどう決まっているのでしょうか。

新家

2020年に出されたフォーカスアップデートのガイドラインの中でも、まずは患者さんが高齢化してきたので、出血のリスクをしっかり評価しましょうとあります。高齢、心不全の既往、フレイルなども最近では注目される要素になります。まずは出血のリスクが高い人はできるだけ短めにという方向で考えを持ち、その次に血栓のイベントのリスクがどれぐらいあるのかを評価する。実は心筋梗塞の後や、ステントをたくさん入れる必要があったような場合にそういう要素があるのです。この人は少し長いほうがいいなというようにステントの治療をしたものは意識をして、開業医に「この方は半年続けてください」「この方は3カ月で大丈夫でしょう」とお話しします。

一方で、先ほど高齢化してきているという話をしましたが、高齢、心不全の既往、腎機能が悪いなど、実は血栓のリスクと出血のリスク、どちらも高いことがわかってきました。ですから、これはさじ加減の部分が非常に大きくなっていて、少し強めの、でもDAPTではない、つまり抗血小板薬の中でもP2Y12受容体拮抗薬を単剤で長期的に投与して、血栓のリスクも出血のリスクもどちらも抑えようという手法を取ることも多くなってきて、ガイドラインにもそのことが記載されています。

池脇

私はDAPTからSAPTにする際はアスピリンかと思っていましたが、今はむしろP2Y12受容体拮抗薬を使うことを考慮したほうがいいのですね。

新家

そうですね。随分増えてきたと思いますし、最近では保険診療でも認められるようになってきました。

池脇

複雑な話をわかりやすく教えていただきました。ありがとうございました。