池田 この収録は2022年1月20日に行っています。今、オミクロン株がすごく流行しているのですが、PCR検査や抗原検査を含む診断はどのように行われているのでしょうか。
日向 当院は往診専門のクリニックですが、保健所の要請や発熱センターからの依頼、最近では患者さんご自身がインターネットなどで見て当院に連絡いただいて来院されます。デルタ株の頃は抗原迅速検査で陽性が出ることが多かったのですが、オミクロン株はウイルス量がピークアウトするタイミングが比較的早いのか、抗原迅速検査で陽性が出ないことが非常に多いという印象があり、仮に抗原迅速検査で陰性であっても、PCR検査を追加して行うようにしています。
池田 以前はPCR検査の予約は、保健所や発熱センターが行っていましたが、実際に先生方のところに直接PCR検査の申し込みをされる方は多いのでしょうか。
日向 患者さんから電話があって、今日検査したいと依頼が来ます。だいぶ患者さんも理解が深まってきたせいか、突然いらっしゃるということはなくて、必ず事前にご連絡いただいて来院されています。
池田 ホームページか何かにPCR検査ができる医療施設などが載っているのでしょうか。
日向 医療機関によってはそういったアナウンスもされていますし、あと東京都では検査を受けられる医療機関を公開しています。
池田 第1波、第2波のときは保健所の人がそれを把握して、医療機関にFAXで送っていましたが、今はどのようなシステムで患者さんの登録がされているのでしょうか。
日向 現在はHER-SYSというインターネットのシステムを使い医療機関が発生届を提出できるようになっています。以前からあったシステムですが、本当に初期の頃はFAXで出されたものを保健所の方が代行して入力してくださっていました。ただ、発生届の件数が増えたことで保健所業務も逼迫しており、現在は医療機関がHER-SYSを使ってインターネット上で発生届の提出をすることがかなり増えてきているかと思います。
池田 HER-SYSの登録とはどのようにされるのですか。
日向 それぞれIDを取得して、そこから2段階認証で、電話ないしは携帯電話などに番号が出て、それを入力するとシステムに入れるようになっています。個人情報なので、席を離れるときは必ず画面を閉じるようにといったルールもあります。それを見て、患者さんの健康観察なども行えるようになっています。
池田 入力にどのくらい時間がかかるのですか。
日向 そんなにはかからないです。当院の場合は、HER-SYSで入力する内容を問診票と患者さんに送っています。患者さんが問診票に全部入力すると、HER-SYSに発生届を出すときに入力するべき項目が全部入っています。そういうかたちで一括してオンライン上で情報を収集するようにしています。
池田 それは便利ですね。このHERSYSというのは患者さんからの情報も来るということですから、患者さんと医療機関と保健所がリンクしているのでしょうか。
日向 そうですね。以前は患者さんのHER-SYS上の情報を、保健所とHERSYSで発生届を出した医療機関と入院している病院しか見られなかったのですが、第5波が終わって、もっといろいろな医療機関が必要に応じて見られたほうがよい、場合によっては健康観察のときに見られるようにしたほうがよいということになりました。現在は診断をしていない医療機関でも、自宅で療養される患者さんの健康観察を行う医療機関は保健所がIDを付与してくれますので、それをもって患者さんの情報が見られるようになっています。
池田 それもまた便利ですね。一人の患者さんが孤立しないで、全体で見守れるということですね。自宅療養は、症例によっては内服の治療法、あるいは抗体の治療法があると思うのですが、どのような方に行われるのでしょうか。
日向 内服の治療は現在、モルヌピラビルが特例承認されており、61歳以上でハイリスクの患者さん、具体的にはBMIが30以上とか、COPDがあるとか、重度の心不全のある方、免疫不全状態の方などに投与するように添付文書にあります。また、中和抗体療法は現在オミクロン株に効果があるといわれているソトロビマブが特例承認されており、55歳以上の方で同じようにハイリスクの方に投与の適応があります。いずれも処方、治療する場合には登録が必要な薬になっており、必要に応じて自宅療養されている方に使用することが可能となっています。
池田 これもHER-SYSというシステムを通して登録するのでしょうか。それとも、また違うシステムなのでしょうか。
日向 多分地域によって治療とHER-SYSの関わりが異なるかと思うのです。当院のある港区では中和抗体療法を導入する場合には保健所は基本的に関与しない。医療機関同士でやっていくルールになっているので、あえてHER-SYSでそれを書く必要はないのです。ただ、治療経過や患者さんの日々のイベントなどを書く項目もありますので、保健所の方が見て「ああ、治療しているのね」とわかることになり、情報共有という意味では非常に便利なツールですし、活用していくのが大事かと思います。
池田 例えばモルヌピラビルが必要だという場合、これを処方するにはどのようなシステムで行われるのでしょうか。
日向 事前の登録が必要で、2021年のクリスマスイブに特例承認がおりてから、おそらく多くの医療機関が登録されていると思います。その適用に合致する方に処方しますが、院内処方と院外処方の2つのパターンがあり、院内処方は自身の医療機関で出す。院外処方の場合は、各地域にその処方を扱える薬局のリストがあるので、そのリストの薬局に連絡して処方箋と患者さんの同意書の書類をお送りし、処方という流れになります。
池田 薬自体は薬局の方が運ぶのですか。
日向 そうですね。薬局の方が患者さんの自宅に配達するという流れが、一番スタンダードかと思います。
池田 置き配のようなものですか。家の前にぽんと置いておくような。
日向 はい。ほかに医療機関が近くであれば、ちょっと持っていって届けるとか、モルヌピラビルに限らず、コロナの自宅療養者の方に対しては皆さん工夫されていろいろなパターンで必要な薬を届けていますので、そういったかたちも一つの方法かと思います。
池田 入院の判断の目安は何かあるのでしょうか。
日向 基礎疾患などにもよると思うのですが、入院の目安はコロナの診療ガイドラインの中では酸素飽和度が93を下回った場合、あとは酸素投与が必要な方や、血液検査の結果、フェリチンが高値だったり、D-dimer上昇で血栓傾向にある方だったり、そういう方に対して入院での治療が勧められると思います。
池田 だいぶ前ですが、救急隊の方がいろいろなところで待たされてたいへんだったと思います。今は入院先を見つけるシステムはできているのでしょうか。
日向 港区の場合は第5波のときに保健所と港区医師会と、区内のコロナ病床のある病院で連携を取りメーリングリストを作っていました。毎朝、そのメーリングリストのスプレッドシートに入院が必要な患者さんの情報を保健所が入力して、それを各病院にメールで送信して、病院側も軽症、何床空きがあるとか、例えば入院している軽症者をほかの病院に転院すれば重症者が1人取れるとか、そういったやり取りをしていました。非常に連携がうまくいったと思っています。
池田 こういったデータを取ったり、診察もしなければいけないと思うのですが、先生方のところでは2~3人がチームになって、宇宙服のようなものを着て診察などされるのでしょうか。それとも、お1人で行かれるのですか。
日向 当院は医師が1人で患者さんの自宅の中、いわゆるレッドゾーンに入るかたちを取っています。ただ、往診専門のクリニックですので、その場所まで車で診療補助のスタッフが連れていき、レッドゾーンには1人で入っていくというスタイルです。
池田 着るときよりも、脱ぐときがたいへんだとうかがったのですが、1人でそれをやられるのですか。
日向 そうですね。だいぶうまくなりました。完全なグリーンゾーンで脱ぐことが感染予防になると思うのです。中にはご近所の目も考えて、レッドゾーンの自宅の中で脱いでいる医師も多いと思うのです。ただ、それは私はちょっと抵抗があったので、自宅から出たグリーンゾーンで脱がせていただいているのですが、その分、一瞬で脱ぎます。
池田 ありがとうございました。
COVID-19の自宅療養管理
祐ホームクリニック麻布台院長
日向 道子 先生
(聞き手池田 志斈先生)
COVID-19感染症の自宅療養者についてご教示ください。
COVID-19の感染拡大による自宅療養者の増加に伴い、開業医が訪問診療により管理していくという方向性が出ています。具体的に訪問診療で行うことは、状態の把握、対症療法(いわゆる風邪の治療と同じような対処)でよいのでしょうか。レムデシビル、抗体カクテル療法のような治療薬も開業医が扱えるのでしょうか。
山口県開業医