ドクターサロン

 池脇 今回は便秘の検査の質問をいただきました。ジッツマークを利用した排便時間検査の正式な検査名はどのようになっているのでしょうか。
 高橋 慢性便秘症診療ガイドラインではX線不透過マーカー法としていますが、実際には通称でジッツマーク検査と呼ばれることが多いです。
 池脇 放射線不透過というマーカーがこのジッツマークなのでしょうか。
 高橋 はい。カプセルの中に20個から、24個の不透過の小さなマーカーが入っているもので、それが商品名でジッツマークと呼ばれています。
 池脇 商品名がそのまま検査名になったと考えてよいですか。
 高橋 そう呼んでいる方が多いです。
 池脇 あとからまた詳しくお聞きしますが、実際にはどういう手順でやるのでしょうか。
 高橋 これは大腸の通過時間、蠕動運動を評価する検査の一つです。検査方法は、患者さんにカプセルを1つ内服していただいて、5日後に腹部の単純X線写真を撮って、そこに不透過マーカーが幾つ残っているかで評価します。幾つも評価方法があるのですが、5日目で撮影する場合では、80%排出されていれば、大腸の通過時間は正常ということになっています。
 池脇 蠕動に問題がない方が、ジッツマークを内服すると、通常は何日ぐらいでおなかを通過しますか。そんなに長いことはありませんよね。
 高橋 食べるものによって通過時間は異なりますが、だいたい2~3日で排出されるといわれていますので、通常の蠕動に問題がない方ですと、5日目でレントゲンを撮っても全くマーカーは残っていないことになります。
 池脇 逆に、5日目に撮って、ある一定以上あった場合には通過時間の遅延、それがおそらくその方の便秘の原因になっているのではないかという感じで進めていくのでしょうか。
 高橋 はい、そうです。ただ、少し注意したほうがいいのは、受診されているときにすでに下剤を内服している方ですと、カプセルを内服する1日前からレントゲン撮影をするまでの間は下剤を止めていただかないと、その方の本来の蠕動は評価できません。あと、レントゲンで撮影したときにマーカーが肛門に近く、直腸やS状結腸のあたりに集積している場合ですと、通過時間が延長というよりは、直腸から出せない排便困難型の可能性もあるので、そちらの精査も進めないといけないことがあります。
 池脇 検査の前日ぐらいから撮像する合計6日ぐらいの間、例えば食事や飲酒、運動などに何か指導はされるのですか。
 高橋 下剤や浣腸の薬を止める以外は普段どおりにしていただいています。
 池脇 むしろ普段どおりの生活を送っていただくなかで見つけていくという観点では、違う状況にしないほうがいいということですね。
 高橋 そうですね。
 池脇 ちなみに、これはまだ保険収載されていない検査だと聞いたのですが。
 高橋 そうなのです。今、日本大腸肛門病学会でも保険収載ができるように動いてはいるのですが、現時点ではまだカプセル自体も薬事が通っていませんので、検査に関してもまだ保険収載されていないのが現状です。
 池脇 費用はどのくらいでしょうか。
 高橋 現在は個人輸入になりますので、カプセル自体の費用にかなり高い関税と、個人輸入の手数料が上乗せされ、それプラス自費診療になります。当院はかなり良心的な値段で患者さんの負担は7,000~8,000円ぐらいなのが現状です。
 池脇 そんなに高いという印象はないにしても、個人輸入となると全国的にもそれほど普及した検査ではないということですね。
 高橋 そうです。値段もですが、個人輸入に関しての手続きが本当にたいへんで、大きな病院でされる場合ですと倫理審査も通さないといけないので、そこまでしてやらなければいけないという方は、多分少なくなるのかなと思います。
 池脇 便秘を訴える方はけっこう多いです。その方たちのニーズに応えるにはあまりに条件が厳しいにしても、先生方がそうやっておられるということは、便秘に関しての細かい診断というか、至適な評価のためにこのジッツマーク検査が有益だからなのだろうと思いますが、この検査をどうやって便秘の診断に結びつけていかれているのですか。
 高橋 2017年に発行された慢性便秘症診療ガイドラインを見ていただくと、排便回数の減少型というものがあります。その中に大腸通過時間の遅延型と大腸通過時間の正常型というものがあり、それを区別するのには非常にいい診断材料だと思います。あと、簡単だということと、患者さんに実際に結果を見せると、自分の通過時間がいいのか悪いのかが一目でわかります。もし使えればその点に関しては患者さんのご理解も得られやすいのでいいのかなと思います。
 池脇 私は便秘の種類に関しては精通していませんが、排便日数が減少して、通過時間が遅延するタイプか遅延しないタイプかがこのジッツマーク検査でわかるわけですね。これらのタイプにおさまる便秘の方は、けっこういらっしゃるのでしょうか。
 高橋 けっこう多いと思います。
 池脇 そうすると、最終的にはその患者さんの便秘を改善させるために先生はどういう介入をされているのですか。
 高橋 まずはアセスメントですが、先生がおっしゃるように排便の回数が減少しているのかということと、大腸通過時間正常型の場合、便秘の原因の代表格は食べていないということなので、食物繊維の摂取状況、欠食していないか、偏りがないかを聞いていきます。きちんと食べていても回数が少ないと、大腸通過時間の遅延型が予想されますので、通過時間を改善するような薬も検討しています。
 池脇 質問いただいた医師が、自分で個人輸入をしてそういう検査をやろうと思われているかどうかわかりませんが、印象としてこれはやるのが難しいとなって、でもこのジッツマーク検査と同じような何かができないのかとなると、何かほかに手だてはあるのでしょうか。
 高橋 まず便の性状を、硬かったら普通便に、緩い場合でも普通便にすることで排便回数が正常化することが多いので、便の性状を改善させるような薬をファーストチョイスで使われるといいと思います。
 池脇 残念ながらこれと同等の検査というのはなかなかないけれども、便の性状を正常化するような薬をいろいろと試してもらえたらということですね。
 高橋 はい。
 池脇 どうもありがとうございました。