池脇 横山先生、透析関連の質問ですが、この症例に関してはどう思われますか。
横山 糖尿病性腎症と一言で言っても、急速に腎不全に進んでいく患者さんと比較的緩徐に、腎機能が保たれる患者さんとに分かれます。特にネフローゼタイプの糖尿病性腎症、尿蛋白が多い、そして血中のアルブミンが下がるような人はeGFRが30ぐらいになるとにわかに腎臓が悪くなって、1年、2年で透析に入ることがあります。こういう症例も存在するので、質問の医師のおっしゃるイメージはあると思います。ただ、尿蛋白が少ない方はむしろ腎硬化症のようにゆっくり進んでいく患者さんもいますので、様々だと思います。
池脇 確かにeGFRが30で透析はちょっと早いかと思うのですが、患者さんの背景によってはそういうケースもあるということですね。日本の血液透析のレベルはおそらく世界一でしょう。海外では透析は一時しのぎですが、日本はそれで最後までいこうと、それだけ透析に力が入っている国ですから、どこで透析を導入するのかは大切ですね。最近の透析導入のタイミング、基準について整理してお聞かせください。
横山 単純にeGFRとかクレアチニンの値だけではなく、年齢とか合併症とかを加味して透析を導入しようということになります。少し古いのですが、1992年の厚生労働科学研究で研究班が出した基準が、今、日本で皆さんが使っているものだと思います。欧米でもCcr、クレアチニンクリアランスは15ぐらいで導入しようという流れがあったのですが、2010年にIDEAL研究がオーストラリアから出て、eGFRが10~15ぐらいの患者さんと5~7ぐらいの患者さんを比べたときに予後に差がありませんでした。今は日本透析学会からのガイドラインでクレアチニン8前後を目安に透析を考えていくという考え方が打ち出されています。もちろんこれも臨床症状に合わせてということになると思います。
池脇 腎臓の専門医は、単に血清クレアチニンではなくてGFR、日常診療ではeGFRで基本的には判断されているのですか。
横山 eGFRはどちらかというと、腎臓が悪い人を早期につかまえようという考え方の数値なので、透析に入る時点の目安はクレアチニンと臨床症状になります。
池脇 確かに1992年の報告を見ますと、腎機能は血清クレアチニンを目安にしていますね。
横山 そうですね。
池脇 私自身が患者さんで心配しているのはクレアチニン 2前後ぐらいなので、まだまだ数字的には透析というレベルではないと考えてよいのですね。
横山 はい、その時点では。
池脇 いよいよ透析というところまで、自身で患者さんを診るよりも、先ほど言ったクレアチニンが少し上がってきて、eGFR、あるいはクレアチニンクリアランスが50ぐらい、あるいは蛋白が強くなる、いろいろな腎機能の縛りで使いたい薬も少し使いづらくなる、このあたりでこのまま診ていてもいいのかと考えているような気がします。中等度までの腎障害でも、どのタイミングで専門医にコンサルトしたほうがいいのか、ここがおそらく知りたいところだと思うのですが、どうでしょうか。
横山 先生がおっしゃるように、eGFRが50以下ですから、高齢者の場合、少し低めに出るので、安定した人はeGFR 40ぐらいでいいのかもしれません。ただ、eGFR 50以下になったり、尿蛋白が2+以上というのは腎炎の合併ということもあるので、この辺の患者さんは我々腎臓専門医にご紹介いただくとありがたいと思っています(表参照)。
例えばある種の糖尿病の薬は使いにくくなりますし、それから脂質の薬であるフィブラート系は使いにくいとか、NOAC(抗凝固剤)や皆さんがお使いになるアロプリノールなども腎臓が悪くなると量を調節しなければいけないことになります。ですから併診というかたちで、一般臨床医と一緒に腎臓専門医も拝見していくことが合理的だと考えています。
池脇 予後という問題もあるかもしれませんが、できるだけ透析まで時間を稼ぐという考え方からすると、適切な時期に専門医にお渡しするのがよいですね。実際にはどのように治療されていくのでしょうか。
横山 腎臓が悪くなると行う治療は実は2種類あって、腎臓が悪くなる進展を抑える治療と、腎臓が悪くなってきたことに関して起こる高カリウム血症や貧血などの合併症対策、この2本立てです。腎臓が悪くなっていくことの治療は、もちろん血圧などをACEやARBでコントロールしていくことが中心になります。ACE阻害薬やARBは高カリウム血症を引き起こすことがあるため、腎臓が悪くなっている人になぜACEやARBを使うのかといわれたことがあると思うのですが、今は大きく変わってきています。カリウムに関しても新しいカリウム吸着剤が出てきています。こういう薬はかなり使い勝手が良くて、併診をしながらACE阻害薬やARBを使うことによって腎症の進展を抑えることが可能になりました。
それから、最近はSGLT2阻害薬が血糖が高くなくても腎症進展を抑制できるのではないかと期待されています。それは早期腎症から投与していくのだと思いますが、そういったこともかかりつけ医と腎臓専門医が一緒に患者さんを診ていく重要なポイントだと思っています。
池脇 そうすると、降圧剤を服用の方でCa拮抗薬を使っている患者さんの場合には、先ほど言われたACE、ARBに変えていただくとか、新しいSGLT2阻害薬も状況に合えば、これは比較的早期から導入していくのですね。腎不全の方の食事療法というのは本人も辛いと思うのですが、うまく続ける秘訣のようなものはあるのでしょうか。
横山 腎臓が悪くなると「カリウムを取るな」とか「塩分を取るな」とか、これはだめだ、あれはだめだと言っているのですが、診る患者がだんだん高齢になっています。高齢者は実際にはそれほど食べていないことが多いです。つまり、若い頃だったら十分食べているのだけれども、高齢になるとむしろ栄養状態を維持するほうが重要になってきます。実は透析患者さんで今一番多いのがだいたい75歳ぐらいの透析導入なのです。現在の生活習慣病管理では、多くの方が60歳ぐらいまでは「食べるな、食べるな」ということを言われていながら、70歳を超えたら同じ人が「食べろ、筋肉をつけろ」みたいになっています。この辺は一概にこの食事療法ではなく、患者さんに合わせてカスタマイズされた栄養指導が高齢化社会でますます重要になっていくと考えています。
池脇 腎毒性を除去するような薬も使われるのですか。
横山 そうですね。ただ、かなり飲みにくい活性炭です。もちろん使うことはあるのですが、強いエビデンスがあるわけではないので、患者さんとの話し合いのもと、きちんと飲んでくださる方に処方します。透析に入る前の患者さんの薬の量は、先ほど申し上げたように、おそらく尿酸の薬と、脂質の薬、そして高血圧の薬が2剤も3剤も入っているので、薬を出しただけで捨てられてしまうことにならないように、アドヒアランスに関して介入していくことが大切だと思っています。
池脇 最後に、透析も血液透析と腹膜透析では、おそらく圧倒的に血液透析が多いのだろうと思うのですが、この使い分けというのはあるのでしょうか。
横山 透析導入する前に尿量が保たれていないと、腹膜透析はなかなか難しいのです。血液透析は、透析療法が始まってから徐々に進歩しています。腹膜透析と血液透析だと透析効率は血液透析のほうがいいのです。そういう意味では腹膜透析と血液透析を透析の効率だけ比べると、血液透析の効率が高いのです。しかし尿量が保たれている間は腹膜透析が十分できます。特に高齢者などは週3回病院に通うことができない方には有効です。透析に入ったら一生入院透析になってしまいます。そういう点では高齢者の尿量が保たれている人に、寝ている間だけ腹膜透析を行うとか、あるいは1日、1回、2回バッグ交換をしていただくことが、高齢者の透析患者さんの幸せにつながるのだと思っています。東京慈恵会医科大学はかなり積極的にこのような治療を行っています。
池脇 どうもありがとうございました。
CKDの生活指導と透析導入
慈恵医大晴海トリトンクリニック所長
横山 啓太郎 先生
(聞き手池脇 克則先生)
CKD(DKD)例において60~70代、クレアチニン1.6~2.1、eGFR 33~29%、 Na制限、K制限などの指導をしています。専門医に紹介するとすぐに透析になる印象がありますが、生命予後と腎機能の程度と期間からみてeGFR 30%前後で透析導入すべきかご教示ください。
福岡県開業医