ドクターサロン

中村

「尿酸値を診る」シリーズの最後を飾るべく、長年ご研究をされている細谷先生のご意見、場合によっては夢をお話しいただければありがたいと思っています。

まず基本的なことですが、私どもの体にとって尿酸はどういう役目というか、仕事をしているのか。例えば、コレステロールは細胞の膜を作ったり、胆汁酸になって消化・吸収を助けたりします。尿酸には何か役割はあるのでしょうか。

細谷

尿酸は強い抗酸化作用を持っているといわれて、活性酸素を消去するのではないかといわれています。しかし、実際に尿酸が低値を示すような先天的な疾患、腎性低尿酸血症とか、キサンチンオキシダーゼ欠損症の低尿酸血症が持続している人の寿命が短い、あるいは悪性腫瘍などを発生しやすいことは認められていません。

では、尿酸は何をしているのかということですが、例えば腎性低尿酸血症という病気では時々運動後に急性腎不全を起こすことがあるといわれています。その理由はおそらく尿酸値が低くて、激しい運動をした後に活性酸素が産生されても、それを消去できないからではないかという考え方があるのです。しかしこの現象が多くの場合にそれが当てはまるわけではないことがわかっています。ということから考えると、尿酸は確かに抗酸化作用があるけれども、人間において何か活性酸素が急に発生するような病態ができたときに活躍するのではないかと推察されています。

中村

あまり高くてももちろん問題でしょうが、低すぎても困る場合があるのですね。

細谷

おっしゃるとおりだと思います。実際に尿酸はほかの霊長類や鳥類以外では、ウリケースという酵素によってアラントインに酸化されるため、本来、尿酸は中間代謝産物なのです。ところが、人間はウリケースが欠損しているので、尿酸が最終代謝産物なのです。中間代謝産物だといろいろわかりにくい点があります。尿酸が最終代謝産物であれば、その物質が体の中で増えたり、減少したりするとどのようなことが起こるのかが、もっとわかりやすくなるのではないかと思います。けれども、現時点でその点が明確になっていない部分が幾つかあるので、尿酸の体の中での働きという面では、ちょっと不明確なところがあると思います。

中村

その辺は将来、解決される見込みはあるのでしょうか。

細谷

これからもう少し、そういった基礎的な研究が必要になると思いますが、少なくとも現時点で尿酸はある範囲の中に保たれている。しかも、尿酸は腎臓の糸球体で濾過された後、尿細管で再吸収まで受けていますから、生体内で何らかの役割があることは間違いないだろうといわれています。そして、その正常域がどういう機序で設定されているのか、それが解明されないと本当のところはまだわからないのが現状だと思います。

中村

そうしますと、私ども臨床家にとって正常値はどのようなかたちで集められているのでしょうか。

細谷

いろいろなガイドラインにも書いてありますが(図1)、例えば尿酸値が高くて、9以上になると痛風関節炎などを起こしたりする率が非常に高くなるとか、尿酸の排泄が増えてきて一定以上になると尿路結石の発症が多くなる、あるいは腎障害などを起こしやすい、動脈硬化なども起こしやすいことが疫学的にわかっているので、そういった観点からガイドラインを作成して尿酸値の目標を定める。または正常域というものを導くものと我々はとらえています。

中村

最大公約数的なものなのですね。

細谷

そうです。絶対値とは言いがたいです。ただ、もう一つ絶対値的なことを言えば、尿酸はもともと体液中に溶けにくい物質なのです。中間代謝産物であることもその理由かもしれません。それで、尿酸があまりに多いと血中で溶けきれずに析出して結晶化する。そして組織に沈着するといわれているので、尿酸値が高すぎると痛風関節炎を起こしやすいのはそういう理由だといわれています。すなわち溶解度という絶対的なものによって規定されている面もあります。

中村

かつては日本人は痛風あるいは高尿酸血症はあまりないといわれていた時代もありましたが、最近はそういう状況ではなくなってきました。プリン体の代謝研究に関しては日本でもかなり進歩してきていると思っていますが。

細谷

そのとおりだと思います。

中村

先生からご覧になって、これからどういった面での発展が望まれているのか、現状はどうなのか、その辺をお話しいただけますか。

細谷

尿酸を下げる薬、尿酸降下薬には、尿酸生成抑制薬と尿酸排泄促進薬の2種類があります。生成抑制薬は以前からアロプリノールというキサンチンオキシダーゼ阻害薬が使われてきたのですが、アロプリノールが開発されてから40年以上もたったのにその後は新しい薬が開発されていませんでした。ところが最近日本から、2011年にフェブキソスタット、2013年にトピロキソスタットという2つのキサンチンオキシダーゼ阻害薬である尿酸生成阻害薬が開発、上市されたのです。その間に新しい薬が出てこなかったのは、開発しなかったのではなくて、みなアロプリノールに効果の面や副作用の面で優ることができなくて登場してこなかったのです。ところが、アロプリノールの欠点を補うように、日本からの開発品として2つの新しい尿酸生成抑制薬が開発されました。

欠点を補うというのは、アロプリノールはもともと尿酸と非常に似た骨格をしているので、キサンチンオキシダーゼ以外にも他のプリン体関連酵素への影響が多少あるのではないかと危惧されていました。もう一つ、アロプリノールはその代謝産物であるオキシプリノールという物質とともに、すべて腎臓から尿中へ排泄される。そのために、腎臓機能が低下している人では用量を調整しなければいけないという問題点があったのです(図2)。フェブキソスタット、トピロキソスタットはプリン骨格を持っておらず、他のプリン体合成に影響がほとんどないため、キサンチンオキシダーゼにより特異性が高い阻害をすることができます。また腎臓だけではなくて、胆道から腸管へ排泄される経路も持っているため、腎機能がある程度低下していても通常用量を使える。そういった欠点を補うような新規薬剤ということができます。

また、もう一方の尿酸排泄促進薬ですが、これも40年以上前に開発された、ベンズブロマロンというウラットⅠ阻害薬、尿酸の再吸収を阻害する薬が使われていました。しかし、最近になってそのウラットⅠの構造や発現部位がきちんとわかってきて、それを標的にして開発を進めてきたところ、ベンズブロマロンよりもより強いウラットⅠ阻害作用を有するドチヌラドという薬が2018年に日本で開発、上市されました。これはベンズブロマロンと異なり、他のいろいろなトランスポーターへの影響が少なく、ウラットⅠに特異的である。そのため薬剤のトランスポーターにも影響が少なく他の薬との併用や相互作用が認められないという特徴を持っています(図3)。

このように尿酸を下げる新しい薬剤は、3剤とも日本が開発したものです。日本から開発できたということは、この分野ではキサンチンオキシダーゼの立体構造や反応機序に関する西野武士先生やトランスポーターに関する遠藤仁先生方の詳細な基礎研究が成されていたことによるものと思います。その結果、我々がいろいろな薬を使って、病態に応じて尿酸値をきちんと下げられるようになったと考えています。

中村

腸管から尿酸が排泄されるというルートがあるのですね。

細谷

これも当時はわかっていなかったのですが、トランスポーターなどの最近の基礎的研究の結果、ABCG2というトランスポーターが同定されました。このトランスポーターは腎臓以外、胆管上皮、あるいは小腸の上皮にも発現していて、腎臓から尿中へ尿酸を排泄する。それから、腸管や胆管から糞中に尿酸を排泄する役割を担っています。このABCG2の発見は非常に画期的なことで、さらに今後、ABCG2の機能を活性化することによって尿酸を下げる薬が開発されるかもしれないといわれています。

中村

それも一つの将来の見込みといいますか、楽しみですね。

細谷

今、そのことを研究されている方がたくさんおられますが、まだ薬剤の開発までは至っていません。

中村

私ども臨床家にとっては随分いろいろな、しかもよい武器が出てきたと考えられますか。

細谷

おっしゃるとおりです。いろいろな選択肢、武器ができましたが、どれを使ったらいいか、どのような適応があるのかは今後さらに臨床的にも研究を続けていかなければならないと思います。例えば尿酸を生成させないようにするのがいいのか、排泄して体の中の尿酸を減らしていくほうがいいのか、どちらのほうが合併症などを起こしにくいのか、あるいはその両者を併用したほうがより効果が大きくなるのか。例えば、動脈硬化を抑制する、腎機能低下を抑制する、そういったことに対してどのような効果があるのか、もう少し長期で見ていかなければいけない問題だろうと思います。

中村

私は炎症の立場でコルヒチンに興味を持っていて、もうちょっと投与量が少なくても効くのではないかと思いますが、いかがですか。

細谷

コルヒチンの使用方法が見直されていて、コルヒチンカバーといって、痛風発作が起こってから抑えるのではなく、痛風発作を起こしやすいような人、またはしばしば発作を繰り返して起こしている人に、数カ月の間コルヒチンを1日1錠0.5㎎だけ尿酸降下薬と併用してもらう使用方法です。1錠だけ尿酸降下薬と併用してしばらく使っていただくと、初期の段階で痛風発作を起こすことが非常に減ることがわかってきました。そのような発作の予防薬として使われるようになっています。

中村

ありがとうございました。