大西
多田先生、高尿酸血症の食事療法というテーマでうかがいます。
まず初めに、高尿酸血症の尿酸の意義といいますか、役割など、そのあたりから教えていただけますか。
多田
尿酸は核酸由来のプリンヌクレオチドが代謝されることによって生成されます。生成される場所は肝臓と小腸が中心です。あと筋肉や腎臓、血管内皮細胞でも作られます。そして排出される臓器は腎臓ならびに腸管です。ただ、腸管の役割はまだわかっていないことがあります。
機能としては、生体にとってたいへん重要なフリーラディカル・スカベンジャーとして働いています。我々の血液中のフリーラディカルの55%はおそらく尿酸によって消去されているということであります。そのうえ特に中枢神経系細胞においても酸化ストレスを除去するという非常に大事となる役目を持っています。多発性硬化症やアルツハイマー病、パーキンソン病、こういった病態において血中尿酸濃度は逆に低いということも報告されています。
また、高尿酸血症の患者さんを集めてみますと、92%の方が、例えば脂質異常症や高血圧といった冠動脈疾患の危険因子を持っているという報告があります。そのため尿酸を治療する食事療法においてはそういった動脈硬化性疾患に対する食事療法も併せて考えていくことが大切だと思います。
大西
尿酸というと悪い働きをしているのではないかという誤解があるのですが、非常に重要な役割をしているのですね。
それでは次に、高尿酸血症の治療、特に食事療法の意義について教えていただけますか。
多田
まず高尿酸血症を治療するうえにおいて、どういう状態が高尿酸血症を起こしているのかという機序を知っておかないとならない。どうして患者さんの尿酸が高いのかを見極めることが大切です。一般的には偏った摂食態度やアルコール性飲料の過剰摂取、それから肥満、すなわちBMI(Body Mass Index)が高い場合、メタボリックシンドロームの場合、インスリン値が高い場合も尿酸が高くなるようです。脱水も原因として大切です。あと、慢性腎障害があったりすること。それから、これは食事と直接関係ないのですが、細胞のターンオーバーが非常に高い状態、すなわち乾癬ですとか骨髄系の増殖性疾患、担がん状態。こういった背景となる原因を見すえて、その人が指導しようとする食事療法に適合するかどうかの見極めが非常に大事です。
大西
食事療法ですが、どの程度食事療法が尿酸を下げるのに寄与しているかはいかがですか。
多田
高尿酸血症を治療するにおいて当然念頭に置くことは痛風という病態ですが、この痛風発作をいかに回避するかということです。それ以外に腎機能の低下も高尿酸血症の治療をすることで防止できますし、血圧も低下しますし、インスリン抵抗性も改善します。そういうわけで、実際的には高尿酸血症を呈する原因を把握して治療方針を立てるということです。
一方、食事に関してなかなか一筋縄ではいかないこともあるのです。というのは、血液中の尿酸濃度と痛風発作発現との関連性がなかなか一定しないこともあるという現実があります。例えば血中尿酸濃度で10㎎/dL、これは非常に高い値であるわけですが、こうした値を持つ人々を15年間にわたって長期観察しても、全体の半分の方しか痛風発作を起こさないという報告もあります。というのは、血液中の尿酸が析出して結晶化する濃度、この臨界濃度は6.9㎎/dLとか7.0㎎/dLといわれていますが、この血清尿酸濃度と関節腔内の尿酸濃度が必ずしも一致していないことに加え、関節腔の中で尿酸が析出する濃度が必ずしも一定しないということ。体温や関節腔液のpH、ナトリウム濃度が析出に関係しますから、血清尿酸値と臨床症状との不一致があるということです。あと女性では痛風発作が起きにくいこともあります。
治療するうえで我々は、当然どういう治療方針を選ぶかということですが、特に尿酸の場合はTreat to Target方式がとられます。一定の血中濃度を定めてその値を目標に治療していくのです。これまでの講義の中で先生方が話されていると思いますが、治療の目標値は6㎎/dL、痛風結節がある場合は5㎎/dLです。けれども、先ほど申しましたように10㎎/dLもある患者さんがいます。食事療法の限界とも関係するのですが、せいぜい食事で低下できる血清尿酸値としては3㎎/dL程度です。そういったことを知ったうえで治療することが大事です。やみくもに食事ばかりで押していくことはしない。特に痛風発作などを持っている方には薬物療法との併用も大事だということです。
大西
そうしますと、食事療法の基本としては、どういったことに気をつければよいでしょうか。
多田
今までいろいろなところで食事療法について治験が行われていますが、基本的にはアルコール飲量をまず減らしていく。それから、プリン体の少ない食べ物を選ぶ。プリン体が肝で尿酸になるわけです。それから、果糖摂取が意外と問題となるということです。
大西
お菓子類とかそういうことですか。
多田
そうです。お菓子もそうですし、特にビバレッジの中に入っている甘味料、コーンスターチみたいなもの、これはほとんど果糖でできていますから、甘味料包含の飲料は避けたほうがいいということです。こうしたうえで体重、肥満とか過体重の方はカロリー制限をしていく。この方向性が大事ではないかと思います。
大西
このあたりを総合的にやっていく必要があるのだと思いますが、スタディなどではどういったことがいわれているのでしょうか。
多田
様々なスタディを集め2018年、デンマークのParker研究所が発表したシステマティックレビューがあります。ただエビデンスとしては、確かに尿酸の食事療法、例えば体重を減らしたり、果糖を減らしたり、アルコールを減らしたり、こういったコントロールをしても食事療法としてのエビデンスレベルはそんなに高くない。人によって食事と尿酸値との関連性はいろいろ違うようです。先ほどお話ししましたように特に女性はなかなか痛風を起こしにくいということがあると思います。そういうことを見ながら診ていくということですが、食事療法は患者の動機づけにはいいようです。食事と血清尿酸値との関係を表1にまとめました。
大西
あと、よくコーヒーがどうかとかいわれますが、どうなのでしょうか。
多田
コーヒーは基本的には、尿酸値にはイノセントといいますが、痛風リスクと負の相関があるとの報告がある一方、コーヒーに含まれるシュウ酸のため、尿路結石には注意との報告もあります。
大西
ビタミンCはどうなのでしょうか。
多田
ビタミンCがいいという報告もありますが、2020年に発表された、 American College of Rheumatologyのガイドラインでは尿酸値を下げる目的でビタミンCを投与する必要性はないといわれています1)。
大西
先ほどのお話ですと、食事療法でせいぜい3㎎/dLぐらい下がるのが精いっぱいだということですが、薬 物療法のタイミングは発作がよく起きるとか、結石ができるとか、そういったことを見ながら薬物療法を開始するのでしょうか。
多田
そのとおりです。あと非常に面白いといいますか、食事療法の中で蛋白摂取が問題になって、これはプリン体との関連性になってくると思うのですが、多くの場合は動物性蛋白のほうが植物性蛋白よりもプリン体含量が高い。植物性蛋白はそんなに問題ないということで、実際、ベジタリアンはそうでない方に比べて血清尿酸値も低いことがわかっています。けれども、そういった植物に類するものでも意外とプリン体が多い食べ物がある。例えば乾燥ワカメなどのプリン体含量は非常に高いのです。これには気をつけなければいけない(表2)。
大西
健康によさそうですが。
多田
動脈硬化予防の面ではいいのですが、尿酸が高い人は摂り過ぎに注意しなくてはいけません。あとはすべてのキノコが必ずしもそうではないのですが、表2にも挙げたように干しシイタケにはプリン体が多いようです。
大西
キノコもいいといわれて、摂られている方が多いですよね。
多田
キノコは繊維質でいいのですが、尿酸に関してはプリン体含量が高いものがあります。
大西
魚介類はどうですか。
多田
魚介類も、肝とか白子とか、そういう臓物に関しては同じ魚介類でも注意する必要があると思います。あと、干物の魚はプリン体が多いようです。
大西
お魚はお肉よりいいというイメージがありますが。
多田
脂質に関しては、オメガ3脂肪酸含量が高いという意味では動脈硬化予防にいいのですが、尿酸においては同じように細胞分裂をどんどんして細胞が詰まっているような白子や明太子にはプリン体が多く、注意すべきです。
大西
そうすると、卵類もいろいろ気をつけなければいけないですね。
多田
実は鶏卵にはほとんどプリン体は含まれていないのです。
大西
鶏卵にはあまりないのですか。
多田
はい。ところが、明太子にはプリン体が比較的多い。
大西
ああいうぎっしり詰まっているものですね。
多田
ぎっしり詰まっているものはかなり高いのです。コレステロールは鶏卵には多いのですが、プリン体は鶏卵やうずら卵にはゼロと考えていいということです。
大西
生活様式をどのようにするのが一番よいか、今までのお話をまとめていただくとありがたいのですが。
多田
先ほどお話ししましたように2020年にAmerican College of Rheumatologyが、ガイドラインを出しています。これによりますと、病態の活動性のいかんにかかわらず、痛風患者ではアルコール摂取の制限をする。プリン体摂取も制限したほうがいいだろう。それから、これも同様に病態の活動性のいかんにかかわらず、痛風患者には果糖を多く含むコーンシロップなどの摂取制限をしていただく。
そして体重減少も大切で、肥満の方は減量していただくとあります。余談ですが、Bariatric surgeryというものがあり、どうしても減量できない方の胃の一部を切除し、摂食量を減らしていただく手術です。術後は体重減少とともに、数カ月後には尿酸値も下がってきます。ただ、手術をした当座は逆に一過性に尿酸が上がります。ですから、そういうときは痛風発作には注意をしなくてはいけない。同じように飢餓においても、全く食べないということになればケトーシスの出現とともに尿酸値が上がってきますので、これは注意しなくてはいけないということです。
大西
どうもありがとうございました。
引用文献
1) FitzGerald JD, et al: 2020 American College of Rheumatology Guideline for the management of gout. Arthritis Care Res 2020; 72( 6), 744-760.