ドクターサロン

池脇

仁科先生、乳児の斜視の質問をいただきました。斜視は約2%のお子さんに見られ、意外と多いのですね。

仁科

そのとおりです。いろいろなタイプの内斜視を全部合わせると、学校に入るまでにだいたい2%ぐらいのお子さんに斜視が起こるといわれているので、決してまれな病気ではないですし、小児科医も見かける比率は高いのではないかと思っています。

池脇

赤ん坊から子どもの間に発達する中で、片方の目の位置がずれていると、我々が普通に見ている立体の視覚というのでしょうか、そういったものが阻害されるのですよね。

仁科

そのとおりです。目の機能は生まれたての頃は全く発達していないので、そこから学校に入るぐらいまでの間に、視力もそうですが、両目で立体的に物を見る機能も育つわけです。ここが感受性の高い時期なのでその間にずっと斜視が起こってしまうと、発達しなくなってしまって、生涯、立体視できなくなることが心配されます。

池脇

斜視といっても場合によっては早急な対処が必要な斜視もあるのですね。質問のお子さんのように乳児の比較的早期の内斜視というのは、先天性といってよいのでしょうか。

仁科

一般的には生まれた直後に内斜視になっている赤ちゃんはいないので、今は先天性というよりも乳児内斜視という言葉を一般的に使っています。非常にありがたいことに、この医師は内斜視があってすぐに眼科に紹介しています。私どもが扱っている病気の中には、普通の内斜視ではなくて、片目に白内障や緑内障、網膜芽細胞腫など、すぐに対応しなければいけない目や脳の病気でこの時期に内斜視になることもあります。片目の内斜視だったらすぐに眼科に紹介していただきたいと、いつも小児科医に申し上げているので、この時点で紹介していただいたのは非常に助かります。

池脇

確かにこの質問の医師は本当に的確に迅速に眼科に紹介していますね。その医師の診立ては右の内斜視、眼科医は両内斜視、これはどう理解したらよいのでしょう。

仁科

最初は右眼だけが内斜視だったのですが、眼科医の診立てでは右眼が内斜視になったり、左眼が内斜視になっていたり、交互になっているという判断でしょう。片方だけの内斜視でないと、片目の弱視や目の病気は疑いにくいです。眼底も含めて全部、眼科医が診ていると思うのですが、そうすると通常の乳児内斜視で、左右眼とも固視できている状況ではないかと思います。

池脇

このお子さんの場合には眼科医の判断で手術等はしないで経過を見ています。経過を見るということは、場合によっては斜視が改善することを見込んでいるのか。一般的には見込めるのでしょうか。

仁科

本当に軽い内斜視だと自然治癒もあるのですが、明らかな斜視とわかるという記載があります。はっきり角度の大きい内斜視だと通常、自然治癒はしません。斜視のタイプにもよるのですが、遠視が強い場合は眼鏡、そうでない場合はプリズムという光学的な治療や手術をして、なるべく早く目の位置をまっすぐにそろえてあげるのが通常推奨される治療です。

池脇

先ほど先生が言われた、子どもが発達してきちんと立体で見られる両眼視の機能というのも、タイミングよく回復してあげないとそれが育たないということからすると、そんなに猶予がないのですか。

仁科

そのとおりです。眼科医の診立てで何かほかに懸念すべき状況なのかもしれませんが、通常の乳児の内斜視だと発症する時期が早いものですから、それだけ感受性が高く、3カ月以上、内斜視のまま放置しておくのは立体視取得が困難になるといわれています。できればそうなる前になるべく早く、何らかの治療で目の位置をまっすぐにしてあげることが重要だと一般的には考えられています。

池脇

先生のところでは年間200~300例の斜視の手術をやっておられるので、非常にそのお言葉は重いのですが、実際に手術ということになると、具体的にはどのような手術なのでしょう。

仁科

目の周りには外眼筋といって目の位置や動きをつかさどっている筋肉が6本ありますが、そのうち内直筋といって内側に引っ張って動かす筋肉があります。その内直筋を後ろにずらす、つけかえて弱化する手術を両眼するのが国際的な標準の治療法です。その治療法をするには全身麻酔が必要ですが、比較的安全な手術方法ですので、体に問題がなければちゅうちょなく受けていただけるのではないかと思います。

池脇

例えば内斜視の原因にはいろいろあって、不明と書いてあるものが多いですが、手術のアプローチというか、ターゲットはだいたい同じなのですか。

仁科

斜視の原因が様々で、そもそも内直筋が原因ではないのですが、目の位置をまっすぐにするために末端部の内直筋を後ろにずらす手術が乳児では一般的だと思います。

池脇

手術をしても赤ちゃんだと、「ああ、よく見えました」というフィードバックはなかなか難しいですが、見た感じの目の位置ということでだいたい評価はできるのですか。

仁科

本当に正確に8プリズム以内の内斜位になっていないと両眼視の獲得が難しいので、眼科医としては細かな斜視や弱視も見逃さないように、内斜視の場合は10歳ぐらいまでずっと目の位置を保てるようにいろいろな治療を加味していくことになります。

池脇

早期に手術しても、それで終わりというわけではなくて、まだまだその後があるのですね。

仁科

そうですね。ようやくスタートラインに立って、できるだけ立体視できるように、その後も弱視治療や眼鏡の装用、もしかしたら追加で手術という方も10人に1人ぐらいはいますが、そういったことを含めてずっと管理していくことが重要です。生活環境もやはり重要で、近距離ばかりずっと見ているような生活は悪影響が出る可能性があるので、私どもは懸念しています。

池脇

せっかく手術して良くなっても、お子さんがスマートフォンばかり見ていると、ちょっと困りますね。

仁科

そうなのです。まさしく乳児内斜視手術の後、目の位置がすごく良かったのに、お父さんのスマートフォンを借りて私の前でそれを見ている1歳の赤ちゃんがいて、「おやっ」と思ったら片目で見ていたのです。片目が弱視になっていて、あわてて追加治療をしたということがあります。2歳ぐらいまでは本当に大事な時期です。特に斜視になりやすいお子さんは、よほど気をつける必要があると思います。

池脇

こういう乳児の斜視というのは、ほとんど内斜視なのでしょうか。

仁科

乳児内斜視のほかに、乳児外斜視や、上下の斜視もありますが、外斜視の場合は一般的には間欠性といって、ぼうっとすると時々目の位置が外に向くけれども、普段はまっすぐというタイプが多いのです。外斜視の場合は一般的なタイプだとすぐに手術をするものは少ないです。

池脇

今回の質問は乳児の内斜視でしたが、ある程度目の機能が統合できてからの斜視もあるのでしょうか。

仁科

あります。それは年齢によるのですが、3歳、4歳を過ぎて、いったん両眼視していたのが内斜視になると、複視といって物が2個見えるとか、ぼやけるとか、お子さんが気づくこともありますし、もちろん急に目が寄って見えると親御さんがはっきり外見からわかるので、眼科にいらっしゃることが多いです。

池脇

そういう場合にはまずは手術よりも、眼鏡や、先ほどのプリズムなど、非手術療法といったらいいのでしょうか、そういったものをまず行うのですか。

仁科

一般的には年長になってから起こるタイプだと遠視が原因の場合が多いので、まず眼鏡や、ほかの治療の適応ではないということも鑑別しなければいけません。最も急ぐのは目の筋肉が麻痺しているような内斜視や急性の内斜視だと、万が一ですが、脳腫瘍などの場合もあります。小児科医と一緒に診て、ほかの病気を鑑別することが、年長になってくると、なお大事なことになってきます。

池脇

乳児の顔を見て、ちょっと片方の目の眼球がずれていると思ったら、早速眼科医に紹介するのが良いですね。

仁科

ぜひそのようにしていただけると、眼科医としても早く病気を見つけて、それだけ早く治せて予後も良くなるので、ありがたいと思っています。

池脇

どうもありがとうございました。