ドクターサロン

池田

IgG4関連疾患についての質問なのですが、そもそもどういった疾患なのでしょうか。

岡崎

概念としては、2011年にわが国の厚生労働省の研究班が提案して、同じ年に国際シンポジウムで国際的にも認知された新しい疾患です。わが国から発信された疾患概念として近年注目されていますが、全身のあらゆる臓器にびまん性、あるいは限局性に腫大、腫瘤、結節、もしくは管状の臓器では肥厚を呈する全身疾患という定義がされています。

臓器の組み合わせにはいろいろあり、単発の臓器の場合もありますが、共通点としては血清学的診断で血中のIgG4が高値であること。それから組織的にIgG4陽性の形質細胞とリンパ球が著明な浸潤を認めること。特徴的な線維化として花むしろ状線維化が認められること。また、閉塞性静脈炎を認めるといった病理学的な特徴を有する疾患です。

池田

いろいろな臓器で見られるということですが、考え方としては以前は違う病気とみなされていたのでしょうか。

岡崎

そうですね。この疾患概念を歴史的にひもときますと、19世紀にヨハン・ミクリッツ先生が両側の涙腺、唾液腺の腫脹する疾患をミクリッツ病として報告されました。これが最初の報告になると思います。その後、ミクリッツ病自体はシェーグレン症候群の単なる一亜型にすぎないということになり、一度、医学の歴史から退場した疾患です。20世紀になって、1960年代に自己免疫の抗体が出るような慢性膵炎で、シェーグレン症候群などが合併しているという報告が単発的にありました。それが今はIgG4関連疾患の膵病変という認識ですが、そういったものが各臓器にぱらぱらと散発的に報告がありました。

カミング先生がその頃に全身性の多発性の硬化性疾患という概念を提唱されまして、これがおそらくは現在のIgG4関連疾患のプロトタイプと我々は考えています。

いずれにしても、もともと自己免疫性膵炎という概念は膵がんで手術した患者さんの術後組織を調べても、どこにもがん細胞がない、腫瘤を形成する慢性膵炎でした。私が医師になった当時は腫瘤形成性膵炎という、膵炎の一種として認識されていました。それがその後、IgG4の陽性の形質細胞が著しく浸潤することなどがわかって、現在はIgG4関連疾患の膵病変と位置づけられています。そういった病変が胆管炎では原発性硬化性胆管炎と、これも難病の一つである、IgG4関連の硬化性胆管炎が間違って診断されていたと考えられています。

それから、甲状腺疾患などでも橋本病という診断のもと手術された患者さんの中には、40%ぐらいがIgG4関連の慢性甲状腺炎だったり、後腹膜線維症などにしても、もちろんがんや感染症などの二次性の後腹膜線維症もあるわけですが、原因不明のいわゆる特発性の後腹膜線維症の中にはIgG4関連の後腹膜線維症がかなり混ざっていると考えられています。現在は、全身の慢性炎症性の疾患がIgG4の関連疾患のキーワードで分類されています。

特に驚くのは、例えば喘息も通常の喘息と臨床的になかなか症状では区別がつかない喘息発作があり、そういった方の気管支の壁肥厚があるタイプではIgG4関連の呼吸器病変であることが最近わかってきました。また動脈瘤などでも従来は動脈硬化に伴うものと考えられていたのですが、動脈壁の中膜、外膜に非常に強い炎症、線維化を起こすということで、動脈周囲炎のような範疇にも入ってきて動脈瘤もあることがわかってきました。

今、わが国では各臓器の関連学会では精力的に臓器のIgG4関連疾患の定義、診断基準などの検討が活発に行われているのが現状です。

池田

今まで見過ごされていた疾患がたくさんここに含まれるということですね。

岡崎

そう思います。

池田

質問では、60代男性、特記すべき疾患なし。数年来、血清IgG4値が高値で、包括診断基準の項目2は満たしているけれども、項目1に該当する臓器病変が見当たらないということです。このケースで考えられる病態、今後の検査をどうしたらいいのでしょうか。

岡崎

このIgG4関連疾患が脚光を浴びて疾患概念が広く知れ渡るようになって、IgG4が高いということをもってIgG4関連疾患ではないかと患者さんを紹介していただく機会も非常に増えているのですが、実はIgG4という抗体は非常に特殊な抗体で、まだ完全に機能的なところはわかっていません。一つはご承知のように、血中のIgGの中で比率が一番高いのはIgG1で65%ぐらいを占めます。一方、IgG4は最も少なくて、2~4%ぐらいといわれています。

抗体の性格は非常に異なっていて、特徴的なものでは補体との結合性がないこと、胎盤を通過することは以前からわかっていました。実はFC部分が抗体の立体構造でSS結合でくっついているのですが、IgG4は非常にそれが弱いということが最近の研究でわかりました。アームエクスチェンジといわれるのですが、FC部分が離れやすくて、また別の抗原を認識しているIgG4とキメラ抗体のようにまたくっつくという非常に変わった性格があることがわかってきました。

以前からIgEのカウンターパートとして、IgEの抗原がアレルギーを起こす抗原の場合、その処理にIgEが非常に関わっていることはわかっていたのですが、IgG4はこのIgEの働きを遮断するような遮断抗体ではないかといわれています。あるAというアレルゲンの抗原がある場合に、IgG4が全く抗原を認識しないIgG4と、Aというアレルゲンを認識するIgG4がそれぞれキメラ抗体を作ると、弱いながらも抗原を処理するキメラ抗体が2通りになるので、倍の抗原の処理能力ができることがわかってきました。結果的にアレルゲンの排除をしたり、あるいはFC部分でリウマチ因子のように他の変性したIgGのサブクラス抗体とFC部分とくっつき、ポリマーのような抗体になってその変性した抗体を処理する。そういった機能もあることがわかってきました。

このようにまだよくわからない抗体ですが、IgG4が増える病態というのは幾つかあります。アレルギーや喘息でも増えますし、実は膵がんや胆管がんなどでも1割ぐらいの患者さんは非特異的に増えるということもわかっています。そういったことを考えてみますと、IgG4関連疾患におけるIgG4の意義というのはまだよくわかっていないのですが、免疫反応を抑えた結果として増えている側面はあるかと思います。

池田

質問の2にありますが、この症例は非特異的IgEが高値、好酸球数も高いということです。これはやはりIgG4の高値と関係しているのでしょうか。

岡崎

これが非常に難しくて、実はIgG4関連疾患ではIgEがよく上がりますし、好酸球も増える患者さんもいます。一方、アレルギー疾患でIgEが増えたり、好酸球が増える疾患もあります。その場合は遮断抗体的に、病態を抑えるためにIgG4が増えているのです。

IgG4関連疾患のIgG4が増えるのは結果だといわれると、それにしてはちょっと上がり過ぎではないかということで、最近は免疫系を介して疾患の病因とリンクして上がる場合と、アレルギー疾患などの病変の活動度を抑えるための結果として増える場合と、2つのIgG4が増える制御機構があるのではないかと考えられ、非常に複雑なのです。ですから、IgG4関連疾患であるIgG4というのは非常に特徴的ですけれども、疾患に特異的ではないということに注意しないといけない。IgG4が高かったら何でもIgG4関連疾患と考えがちですが、そこにはある程度注意しないといけないということです。

IgG4が今のところ病因に確実に結びついているのがわかっているのは天疱瘡です。上皮のデスモソームに対する自己抗体がIgG4であって、それは確かにデスモソームの機能を障害している病因につながっているのですが、今のところ、残念ながらIgG4関連疾患においては、IgG4が病因とダイレクトにつながっているという決定的なところはまだ見つかっていません。そういう意味であいまいなところがあり、判断が難しい抗体かと思います。

池田

質問の症例については、一つにはIgG4関連疾患の発生に注意しつつ、アレルギー疾患も含めてフォローアップしていくということでしょうか。

岡崎

ここは非常に難しくて、日本では包括診断基準(表)と各臓器の学会に承認された臓器別診断基準が並行して作られています。欧米ではリウマチ学会、米国とヨーロッパのリウマチ学会が作った分類基準、クラシフィケーションクライテリアというものがあり、その中ではこういうものがあればIgG4ではないというエクスクルージョンクライテリア(除外基準)があって、この中には実は好酸球が非常に多いものは除外しなさいという項目があります。分類基準では1mEq中に好酸球が3,000以上あれば非常に多いのですが、それは違いますよとしています。この質問の症例などはどちらもありうるかなという感じで拝見しています。

池田

ありがとうございました。