山内
石井先生、質問では間質性肺炎「治療後」ですが、我々が一般的に診るのは治療前かと思います。この2つには差があるのでしょうか。
石井
まず治療後という質問に関しては、それまでの経過があると思いますので、その経過に合わせて現在の900U/mLという値が維持しているという判断になると思います。一般的に間質性肺炎を疑ったり、健康診断で異常陰影が見られたときに、このKL-6という数字を測ることもあると思いますので、今回は間質性肺炎の治療後と治療前も含めて、全般的に説明したいと思います。
山内
早速ですが、間質性肺炎と肺線維症がよく混同してしまって、私どもも困っていたところなのですが、これは間質性肺炎が線維化して進行したかたちが肺線維症と考えてよいのでしょうか。
石井
基本的には間質性肺炎という大きな症候群の中に特発性肺線維症や、別の間質性肺炎、薬剤性や二次性の膠原病等の間質性肺炎があります。ただ、一番よく遭遇される特発性肺線維症が間質性肺炎と同義語で使われていると思います。おそらくこの医師も肺線維症のことを意識されていると思います。
山内
ちなみに、間質性肺炎は、肺炎と名がついていますが、実際に肺炎のような高熱が出たりすることはあまりないようですね。
石井
そうですね。乾性咳嗽と労作時呼吸困難の症状が多いと思います。
山内
一応炎症反応は出てくるのでしょうか。
石井
はい。
山内
この質問のケースはそういった炎症反応はどうもなさそうですが、無症候性となりますと、昨今私どもがよく見ますのは、特に喫煙者で多いCTスキャンでのすりガラス様の陰影ですね。通常無症候なので、これはどうしましょうということになります。このCTでよく出てくるすりガラス状の陰影の位置づけはどう考えたらよいのでしょうか。
石井
ご指摘のとおりで、健康診断、特にCTスキャンの受診率から間質性の肺炎疑いという症例はかなり増えていると思います。その中で、すりガラス影や網状影、また蜂巣肺(honeycomb lung)がある症例は、その後に間質性肺炎の病巣が進行してくるという例があります。そのため、CTで少し気になるような異常陰影があればフォローは必要になってくると思います。
山内
例えば年に1回でも構わないのですね。
石井
そうですね。
山内
無症候性でもCTですりガラス様の陰影があった場合、KL-6は測るべきものなのでしょうか。
石井
先ほどの質問にもありましたが、間質性肺炎を疑ったときの診断には比較的補助的診断として有用な検査だと思います。一度は検査することをお勧めします。
山内
この質問はCTの前にKL-6を測っているようです。KL-6はそもそもどういったマーカーなのでしょうか。
石井
もともとは肺胞の2型上皮細胞、また呼吸細気管支の気道上皮細胞における炎症や、炎症後の修復過程でムチン糖蛋白として発現し、血中にも検出されてくるものです。そのため、炎症が悪化しているときには当然高くなりますし、炎症は落ち着いていても持続していたり、その修復過程においても数字は下がらないことがあります。
山内
この質問では900U/mLと高値が続いているとのことです。まずKL-6ですが、1回測っただけでは今の病気の勢いがどうかとはあまり言えないと考えてよいですか。
石井
はい、1回の検査では診断学的な補助にはなりますが、病勢を評価するには経過中に何回か測定し、その変動を見ていくのが適切な使用方法だと思います。
山内
ひどくなってくると上がってくるのでしょうね。
石井
そういう方が多いですね。
山内
ただ、間質性肺炎は症候群ということで、いろいろな亜型でこの値が変わってくることもありうるのですね。
石井
はい。もともとKL-6の発表論文では、肺線維症だけではなくサルコイドーシスやほかの間質性肺炎として過敏性肺炎などの数字も測定されています。疾患によっても、また病勢によっても数値は変動しますので、1回の測定値ではなく測定値の変化、推移を見ていただくのがいいと思います。
山内
この領域はほかにSP-AとかSP-Dなどのマーカーがありますが、専門医はどう使い分けされているのでしょうか。
石井
どちらも肺胞上皮細胞の炎症で、測定値は上昇します。急性の変化においてはKL-6よりもSP-A(サーファクタントプロテインA)、SP-D(サーファクタントプロテインD)のほうが早く高値になりやすいといわれています。KL-6とSP-A、SP-Dは、症例により異常値になるものと、ならないものがあります。異常値をみてとる項目を経過観察としてフォローしていくやり方もあります。
山内
保険上、三者同時測定は認められているのでしょうか。
石井
残念ながら保険診療上はどれか一つになります。
山内
非専門医にとって比較的耳慣れているKL-6をモニターするのが一つの手といえるのでしょうね。
石井
はい。
山内
さて、一般的に無症候性でたまたまCTで見つかってしまった方は特に喫煙者で多いですね。
石井
そうですね。
山内
こういった方は一度は専門医に紹介したほうがいいだろうと思いますが、どのタイミングで紹介するといいのでしょうか。
石井
間質性肺炎を診療している専門施設が近くにあれば、診断を疑われるとき、最初にCTで異常陰影がみられた場合には、無症候性でも一度は受診していただいて、専門医の評価も行ってもらうのがいいと思います。ただ専門施設が近くになければ、経過を見ていただきながら、先ほどのKL-6値や画像所見の変化があったときに専門医に紹介いただくのがいいと思います。
山内
CTは非専門医でも、少なくともひどいかひどくないかはわかりますが、胸部X線写真は意外に難しくないでしょうか。
石井
X線写真だけですと難しい症例もあると思いますので、そういう意味ではこのKL-6の測定が少し補助的な判断に使える検査になると思います。
山内
最後に、症状もないということで、経過観察とした場合ですが、急性増悪を起こすことがありますね。これに関しては患者さんにどう説明するのがよいですか。
石井
非常に重要なポイントで、急性増悪が一番死亡につながりやすいエピソードになります。まず高齢者であること、男性であること、また蜂巣肺(honey comb lung)の部分がある方に関しては急性増悪を起こすリスクが高いです。そういう方が急激な症状の悪化を認めた場合は、すぐ病院に来るようにと前もってお話ししていただくのがいいかもしれません。
山内
症状の悪化は、息切れとか呼吸苦ですね。
石井
そうですね。あと普段は起きないような熱が出たり、症状が持続する場合も来院を考えてもらったほうがいいと思います。
山内
風邪をひいてしまったときなどにこういったこともありうることを事前に話しておくということでしょうか。
石井
はい。
山内
どうもありがとうございました。