齊藤 冠動脈疾患予防ということで、コルヒチンの最近の成績をうかがいますが、その前に、先生のライフワークである冠動脈疾患予防のお話からいただけますか。
中村 1960年ぐらいからLDL、いわゆる悪玉と呼ばれているコレステロールを転送するリポ蛋白が高いと、血管の壁にコレステロールがたまり、動脈硬化が出てくることがわかってきていました。その当時からマクロファージ、その他、炎症の細胞が組織に集まってくるということも指摘されていたのです。ただ、研究はもっぱら臨床家がその面でスタチンを使ったり、陰イオン交換樹脂を使ったり、いろいろな薬で悪玉コレステロールを下げて、心血管系の予防や、二次予防も含めてよくなるかどうかの検討が続けられ、最近は悪玉コレステロールを70㎎以下にしても、副作用もないし、二次予防に有効であることがはっきりわかってきました。
ただ、それでもまだ心血管系疾患がゼロにはならないのです。そうすると、何かほかのファクターを抑えたほうがいいのではないかということで、病理医らが最初に指摘されていた炎症が取り上げられ、それも同時に抑えていく必要があるのではないかと言われて、現在では炎症を抑えること、LDLコレステロールを下げること、その2方面から治療していこうという方向に変わりつつあるのです。
齊藤 最初はフラミンガムスタディなどで疫学的にわかってきましたね。
中村 それは脂質ですね。
齊藤 それで、それを下げるランダマイズドコントロールスタディが本格的に行われだしたということでしょうか。
中村 そうです。
齊藤 スタチンでかなりよい成績が出てきたのですね。
中村 日本人でもそうでした。1)
齊藤 先生は日本でのメガスタディを主催されましたね。
中村 私どもは一次予防を中心に行っていったのです。コレステロールが低い日本人では問題ないのではないかといわれていたのですが、あえてやらせていただいたら、やはり日本人でもLDLコレステロールを下げればそれなりのメリットがあることがわかりました。そこで日本人にスタチンを使うことを厚生労働省なども容認してくれたのです。
齊藤 スタチンでLDLが下がるのが主たる効果でしょうけれども、炎症にも影響があるのでしょうか。
中村 ある程度は炎症を抑えてくれるのですが、それは二次的にです。LDLコレステロールが下がってきたために炎症反応も弱くなるということであって、炎症にダイレクトにアタックしたという証拠はないです。
齊藤 そこは病理的にもそうですし、CRPを測るなどしたことでわかったのですか。
中村 そうです。
齊藤 ただ、残余リスクがあるということで、その中のファクターとして炎症が注目されているということですね。
中村 実際にハーバード大学の人たちが、2017年に、高感度CRPが2㎎/Lを超え、LDLが高い人にスタチンを使いながら、同時にカナキヌマブという生物学的な製剤でインターロイキン1βを阻害する薬を2週間に1回ずつ注射で治療していったところ、二次予防なのですが、明らかに冠動脈硬化のある人たちの再発が抑えられたことがわかってきて、やはり炎症を抑えることが大事だということがヒトの面でわかったのです。2)ただ、そのカナキヌマブは注射で、しかも1㎎が1万円以上するかなり高価なものです。もう少し安いものでできないだろうかと目をつけたのがコルヒチンなのです。
齊藤 コルヒチンは紀元前からあるような薬なのですか。
中村 そうですね。
齊藤 痛風に効くのですか。
中村 発作に効くのです。
齊藤 発作の痛みに効くのですね。ただ、作用機序はあまりわかっていなかったのですか。
中村 NOD-like receptor protein 3(NLRP3)インフラマゾームに効くのがわかってきています。
齊藤 今は痛風以外にも、例えば家族性地中海熱とか、心膜炎にも承認されているのですか。
中村 はい。
齊藤 そういった炎症を抑えるのですね。今回お話しいただくのは、冠動脈疾患の患者さんにコルヒチンをランダマイズドスタディで使ったということですね。
中村 コルヒチン0.5㎎/dayで、費用としても1日7円程度しかかからないですから、極めて安い薬です。それを使って実際に2013年ぐらいからぼつぼつ欧米でその研究が始まりました。最終的には2020年の11月、『The New England Journal of Medicine』に発表されたのですが、3)オーストラリアとオランダの医師らの共同研究で、2,700例ぐらいの症例が、コルヒチンを使ったグループとプラセボを使ったグループでランダマイズの試験が5年間行われたのです。その結果の発表がなされてから、スタチンと同時にコルヒチンという炎症を抑える薬を一緒に使うことが、より有用性が高いのではないかといわれ始めたのです。
齊藤 その試験では従来のガイドラインで指示された、アスピリンとかスタチンとかβブロッカーとか、そういったものを投与のうえでコルヒチン、あるいはプラセボを投与するということですか。
中村 基本的にはスタチンとコルヒチンで、ほかにβブロッカーを使おうが、血小板の凝集を抑える薬を使おうが、それは制約されていません。
齊藤 つまり、スタチン+コルヒチンになるのですね。
中村 そうです。
齊藤 そうすると、先ほどの2つのメカニズムを両方抑えてしまおうということですね。
中村 そうですね。
齊藤 エンドポイントは心筋梗塞などでしょうか。
中村 ハザード比で0.69という成績で、31%、心筋梗塞を含めた心血管系のイベントを抑えたことがわかってきたのです。
齊藤 そうしますと、生物学的製剤などの値段が高い注射薬に比べると、コストパフォーマンスがよいということでしょうか。
中村 安価で使いやすい。ただ、問題は0.5㎎/dayというのを長期に使った場合に下痢を起こしたり何かほかの有害事象が多くなるのです。私どもとしては、コルヒチンの量をもう少し下げて長期に使えないかと思っています。
齊藤 コルヒチンの1錠投与をずっと続けるのは、痛風発作の後の患者さんにコルヒチンカバーと称していますね。
中村 先生もご存じのように、今まではコルヒチンは発作のときから使い始めていましたよね。下痢が起こったらやめるというような、わりにショートレンジに使っていたのです。今度は少なくとも半年ぐらい、0.5㎎を1日量として使う。それでやめて5年間経過を見るか、より少量で長期に使うかです。
齊藤 下痢の副作用はありますか。
中村 下痢でやめたりした例もあります。
齊藤 それは2020年の論文ですか。
中村 そうです、2020年に発表されました。
齊藤 おそらくそういったエビデンスを取り込んで、今後、日本やアメリカ、ヨーロッパのガイドラインも二次予防の中に、コルヒチンを入れるということがあるでしょうか。
中村 可能性としては出てきているのですが、まだガイドラインにはっきりとしたかたちで発表されていません。
齊藤 それから、もう少し少量にして日本人向けの研究を行っていくことがあるかもしれませんね。
中村 もう少し長期に使うとかですね。
齊藤 そういうことで、先生のライフワークをうかがって、最後に炎症を抑えるというコルヒチンに至りましたが、今後、さらにそういった面で進歩がありそうでしょうか。
中村 ありうると思います。もう少しコルヒチンでないものも使えるようになるかもしれませんし、基本的には血液のどういうマーカーを見たら一番適当なのかが次に問題になると思います。
齊藤 ありがとうございました。
文献
1)Nakamura H et al. Lancet 2006; 368: 1156-1163
2)Sabatine MS et al. N Engl J Med 2017; 376: 1713-1722
3)Nidorf SM et al. N Engl J Med 2020; 383: 1838-1847
尿酸値を診る(Ⅳ)
コルヒチンと冠動脈疾患予防
三越厚生事業団顧問
中村 治雄 先生
(聞き手齊藤郁夫先生)