齊藤 高尿酸血症治療薬の使い方についてうかがいます。
血清尿酸値が高い患者さんに、まずは生活習慣改善を勧めますか。
荻野 高尿酸血症は生活習慣病を合併していることが多いので、やはり生活習慣病を是正する。そのためには生活指導、食事や運動、食事もアルコールを含めた指導が第一だと思っています。
齊藤 一般的な治療を行っても尿酸値が下がってこない場合、先生はどういったタイミングで薬による治療をお勧めしますか。
荻野 もちろん、痛風関節炎を発症している人は薬物治療の適応だと思うのですが、無症候性高尿酸血症の場合は血清尿酸値が9㎎/dL以上になると痛風、関節炎を有意に起こしやすいことがわかっているので、9㎎/dLが薬物治療開始のタイミングになると思います。さらに、生活習慣病、CKDや高血圧などを合併している人たちには8㎎/dLから治療を考慮する。これはガイドラインにも明記されています。
齊藤 高血圧もある場合、降圧治療はどうなりますか。
荻野 高血圧の生活習慣を是正する減塩などがあります。あと、降圧薬の中には尿酸値を下げる作用のあるロサルタンがあるので、高血圧を合併した高尿酸血症には一つの選択肢かと思っています。
齊藤 糖尿病の合併時はどうでしょうか。
荻野 これも最近よくいわれていますが、糖尿病に関しても、SGLT2阻害薬が血清尿酸値を下げることが報告されているので、糖尿病を合併した高尿酸血症患者さんの選択肢の一つになるかと思います。
齊藤 脂質異常合併ではどうですか。
荻野 脂質に関しても、フェノフィブラート、特にTGが高い方によく使われると思うのですが、フェノフィブラートは高尿酸血症の尿酸値を下げることがわかっているので、選択肢になるかと思っています。
齊藤 心不全・高血圧薬のサクビトリル・バルサルタンが最近出てきましたが、これもいいのでしょうか。
荻野 サクビトリル・バルサルタンは、最近高血圧にも適応が追加されましたが、高血圧・心不全の治療薬のサクビトリル・バルサルタンも血清尿酸値を下げるということがわかっているので、そういった疾患を合併した高尿酸血症の治療には非常に有用な手段だと思います。
齊藤 そういった周辺領域から尿酸を攻めて、それでもコントロールされないと、尿酸降下薬を使用することを患者さんと話し合うのでしょうか。
荻野 そうです。
齊藤 患者さんの反応はどうでしょうか。
荻野 健診などで見つかった無症候性高尿酸血症の患者さんは、尿酸に対しての危機感があまりなくて、治療に対して躊躇することが多いです。もちろん、痛風関節炎を経験したような人は痛い思いをしているので比較的受け入れやすいですが、そうではない人はなかなか難しいことが多いです。
齊藤 関節炎が起こって痛くなった場合、これは痛風の診断がつけられて治療開始ということでしょうが、どういった治療を行っていくことになりますか。
荻野 基本的にはまず関節炎の炎症を抑えるのが第一になるので、NSAIDsを使うことが多いと思います。
齊藤 尿酸降下薬は直ちには開始しないのですか。
荻野 そうですね。急性期に尿酸降下薬を使用して血清尿酸値を急激に下げると炎症や痛みが増悪することがわかっているので、まず炎症を抑えてから、ゆっくり、少しずつ血清尿酸値を下げるのが治療の基本になります。
齊藤 その期間はだいたいどのぐらいになりますか。
荻野 人によって違いますが、2週間ぐらいはかかると思います。
齊藤 それ以前から尿酸降下薬を続けている方は、それは継続でよいですか。
荻野 そうです。それを増やす、あるいは減らす、中止するのは避けていただいて、その量を維持するのが基本になります。
齊藤 さて、薬の選択の基本的な考え方はどうなりますか。
荻野 基本的には高尿酸血症を機序別に分類して、尿酸の産生が過剰なタイプと排泄が低下するタイプに分け、産生が過剰なタイプには尿酸生成抑制薬、排泄が低下しているタイプには尿酸排泄促進薬を投与するのが基本となります。ただ、最近は新しい尿酸生成抑制薬や、あるいはドチヌラドといった新しいタイプの薬は非常に尿酸の降下作用が強いので、そこまでタイプにこだわらずに使用してもいいという意見もあります。ただ、原則はタイプ別にやったほうがより少ない量で効果が出るのは変わりないと思います。
齊藤 最近の薬は使いやすく、強力でもあるのですね。アロプリノールは腎機能での用量調整がありましたね。
荻野 おっしゃるとおりで、アロプリノールは腎機能の悪い人に使用すると副作用が出やすくなります。その点は非常に注意が必要で、腎機能が悪い人には用量設定が必要になります。一方、最近の薬は腎排泄だけではないので使いやすくて、比較的腎機能を気にせず使うことができて、楽になったと思います。
齊藤 どのぐらいの尿酸値を目標にしていきますか。
荻野 血清尿酸値は6㎎/dL以下を目標にします。6㎎/dLを達成できないと有意に痛風関節炎の再発が多いことがわかっていますので、6㎎/dL以下を目標に、さらに6㎎/dLに満足せずに、もう少し下げてもいいという意見が多いです。
齊藤 とにかく6㎎/dLを目指すということで、おそらく場合によっては増量していくことになるのでしょうか。
荻野 そうです。
齊藤 ほどよい量で6㎎/dLを目指すのですね。
荻野 そうです。
齊藤 服薬をいつまで続けるかが話題になるかもしれませんが、そこはどうされますか。
荻野 難しいですが、基本的には一生服薬していただく。高血圧やその他の薬と同様だと思います。もちろん、いろいろな生活習慣が改善されたら薬の減量を試みることはありうるし、中には薬をやめられる方もいます。薬は基本的に続けるけれども、減量はありうると思います。
齊藤 そういうことで尿酸をコントロールしながら、その結果として心血管系合併症が抑制されるとか、あるいはCKDの腎機能悪化が抑制されるとか、そういったデータもぼつぼつ出だしていますね。
荻野 疫学的に高尿酸血症の患者さんは、心不全が多かったり、高血圧になりやすかったり、あるいは心血管事故が多かったり、CKDが多かったりというデータがあります。ただし、介入試験できちんと証明されているのは現在のところCKDだけです。CKDにおいては、血清尿酸値を下げることによってeGFRの低下を緩やかにできるRCTが出ています。
齊藤 そういったことで長く続けていけば、いつかよいことがあるということでしょうか。
荻野 そうですね。
齊藤 それから薬の使い方で、メルカプトプリン、あるいはアザチオプリンなどをのまないといけない患者さんで尿酸が高い場合、アロプリノールあるいはフェブキソスタット等は併用してはいけないことになっているのですね。
荻野 おっしゃるとおりです。相互作用があるので併用禁忌薬になっています。アザチオプリン等を服用している患者さんに対しては、ほかの尿酸排泄促進薬や、ドチヌラドなどが選択になると思います。
齊藤 尿酸値が高い患者さんには、痛風を抑制することも含めて尿酸を薬によって下げていくことが基本になりますか。
荻野 そうですね。もちろん、生活習慣の改善だけで下がればいいのですが、なかなかお酒はやめられないとか、おいしいものはやめられないとか、運動も面倒くさいとか、改善が難しいところがあります。最近は効果が高く、かつ使いやすい薬が増えてきたので、薬物治療が楽になってきたと思います。
齊藤 ありがとうございました。
尿酸値を診る(Ⅳ)
高尿酸血症治療薬の使い方
鳥取赤十字病院副院長
荻野 和秀 先生
(聞き手齊藤 郁夫先生)