池田 アトピー性皮膚炎の治療薬、特に外用薬について、ステロイド以外の軟膏が幾つか出てきたという質問が来ています。まず、ステロイドも含めてアトピー性皮膚炎治療の外用薬の位置づけを教えてください。
鎌田 アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴い、繰り返す湿疹病変を特徴とする慢性炎症性疾患で、長期にわたりQOLを障害します。そのため継続した治療が必要となります。治療については、スキンケア、悪化因子の検索と対策、そして薬物療法に分けられますが、薬物療法の中でも外用療法は最も基本的な治療法であり、全身療法を行う場合でも併用されます。
治療を大きく2つに分けると、皮膚が悪化した状態の寛解導入と、皮膚が良くなった後、それを維持する寛解維持に分けることができます。寛解導入時は十分な強さの薬剤、例えば部位や年齢によりますが、成人の体幹、四肢ではvery strongからstrongestクラスのステロイド外用剤を使います。一方で寛解維持には急性増悪、いわゆるフレアを防ぎ、良い状態を維持するために、保湿剤などに加え、必要に応じて抗炎症外用剤を用いたプロアクティブ療法を行います。長期に外用することを考えると、安全性がより重視されます。
ステロイド外用剤では長期外用により皮膚の菲薄化や毛細血管拡張、顔面では酒さ様皮膚炎などが起こりうるため、長期の外用は勧められません。ステロイド外用剤でプロアクティブ療法をする際は週2回の外用で行うこともあります。長期外用の安全性という面からはタクロリムス軟膏やデルゴシチニブ軟膏は長期外用においても副作用が少なく、プロアクティブ療法に適していると考えられます。
池田 例えば、特に顔面など、急性期はある程度の強さのステロイドを使って、落ち着いてきたらタクロリムスとかデルゴシチニブに替えていく、そういうこともあるのでしょうか。
鎌田 もちろんありますし、繰り返すような皮疹に関してはプロアクティブ療法としてステロイドからタクロリムス軟膏やデルゴシチニブ軟膏に替えるというのはよく行います。
池田 プロアクティブというと、皮疹がないところ、あるいは軽いところで悪化しないようにつけるということなので、患者さんたちはステロイドを嫌がりますよね。
鎌田 そうですね。ステロイドというと長期の使用による副作用というものが全面的に報道されたりとか、昔のそういった影響があるので、どうしてもステロイド忌避になっている患者さんもいます。そういった患者さんには短期では問題になる副作用はほとんどないことと、十分な強さのものを使う必要があることを説明します。そのうえで、長期の視点で見たときに、ステロイドの外用量の総量を減らすという面でも、プロアクティブ療法でタクロリムス軟膏やデルゴシチニブ軟膏などを上手に使っていくことが良いのではないかと思います。
池田 そこで、タクロリムス軟膏というのはどんな軟膏なのでしょうか。
鎌田 タクロリムス軟膏は、カルシニューリン阻害薬で、主にT細胞受容体シグナルを阻害しますが、有効性としてはだいたいステロイド外用剤のstrongクラス、例えばベタメタゾン吉草酸エステル軟膏などと同程度の効果が期待できることが報告されています。安全性はほかの抗炎症外用剤と同様に、もちろん感染症のある、ざ瘡や伝染性膿痂疹などには外用しないという注意が必要ですが、ステロイド外用剤の長期使用で見られるような皮膚の菲薄化や、毛細血管拡張などは見られずに、長期の外用に向いているといえます。
あと、寛解期においてはステロイド外用剤に比べてタクロリムス軟膏のほうが経表皮水分蒸散量(TEWL)、つまり皮膚から水分が逃げていく量が低下します。水分が逃げていかないほうがいいので、TEWLは上昇しないほうがいいのですが、タクロリムス軟膏はそのTEWLの上昇が見られない。あとは天然保湿因子の低下も見られないことが報告されています。一方、寛解期の皮膚バリア機能において、ステロイドはTEWLの上昇や、天然保湿因子の低下が見られますので、ステロイドに比べてタクロリムス軟膏のほうが寛解期の皮膚バリア機能維持には優れている可能性が示唆されています。
長期外用が可能ということですので、頸部の湿疹の繰り返しによってできる色素沈着、頸部がちょっと黒くなっている、dirty neckといわれる病変にも、長期、具体的には数カ月単位で外用することで幾らか改善が期待できるという報告もあります。
また、眼囲の皮疹においても、日本皮膚科学会のみならず、海外の皮膚科学会でもタクロリムス軟膏の使用が推奨されています。ステロイド外用剤の場合はどうしても緑内障のリスクの上昇が懸念されますので、ステロイド外用剤の使用は短期にとどめて、長期外用になってしまうような場合はタクロリムス軟膏をお勧めします。
難点といえば、外用開始時に刺激感があることです。投与開始当日からだいたい1週間程度、ほてりやかゆみなどの刺激を、塗ってすぐ、15分ぐらいからだいたい2時間ぐらい感じることがあります。顔面は刺激を感じやすい一方で体幹、四肢のほうは感じない人も結構います。しかし、いずれの部位においても、もちろん外用開始時には十分な説明をする必要があります。例えば入浴直後は避けていただくとか、小範囲から始めるなど、あらかじめきちんと伝えておくことが必要になります。
ステロイドの外用の上からタクロリムス軟膏を重層塗布することで皮膚温度上昇が抑えられたというデータもありますので、3~4日ぐらい併用していただくと刺激感があまり感じられなくなって、患者さんもタクロリムス軟膏を嫌がらず使えるかもしれません。刺激感が強いようでしたら、成人患者さんにおいてもタクロリムス軟膏小児用を試すのも手です。
タクロリムスは分子量が大きいという特徴からバリア機能が破綻した部位のみに経皮吸収されやすい一方で、バリア機能がしっかりとしているところは吸収率が低いことが知られています。そのため、もちろん1回5g、1日10gという使用制限はありますが、維持期に広範囲に外用しても、経皮吸収がそこまで問題になることはほとんどありません。また、皮疹の悪化しているところに外用すると、どうしても経皮吸収が高いために刺激感も出やすい傾向がありますので、皮疹に塗る場合はステロイド外用などで炎症が比較的落ち着いた部位、またはプロアクティブ療法として使用するのがいいと考えられます。
池田 次にデルゴシチニブ軟膏について特徴等を教えていただけますか。
鎌田 デルゴシチニブ軟膏はヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬です。機序の詳しい話は省きますが、一部のサイトカインシグナル伝達をブロックすることによってアトピー性皮膚炎に対して効果が得られると考えていただければと思います。有効性についての臨床試験の結果を見る限り、タクロリムス軟膏と同程度の効果を期待できます。また、臨床試験の結果から4週以降32週ぐらいまでは徐々にEASI50とかEASI75の達成率が増えていて、一部の患者さんにおいては効果発現が遅いのですが、長期に外用すると改善することもあります。
プロアクティブ療法に関しては、まだエビデンスはありません。皮疹に対してという条件付きになりますが、長期、52週まで外用してもステロイド外用剤で見られるような副作用は報告されていません。長期外用についても安全性が高い印象を受けますが、プロアクティブ療法におけるエビデンスは現在なく、今後の報告が期待されます。分子量が小さく、経皮吸収が心配されますが、使用制限内では大きな問題はないと考えられています。ただ、長期に1日10gを使い続けたらどうなるかのデータはないので、全身に塗るというよりは、やはり再燃を起こしやすいところに絞ってプロアクティブ療法として外用したいですね。あとは、軽度から中等度で範囲がさほど広くない場合には初期から外用を検討してもいいかもしれません。皮膚のバリア機能回復についての報告もありますので、プロアクティブ療法として優れている可能性があります。
池田 ご紹介していただいた2つの外用薬、それぞれの特徴を踏まえてどのように使い分けるかという質問についてはいかがでしょうか。
鎌田 寛解導入時はやはりしっかりとした強さの薬剤を使用する必要がありますので、もちろんステロイド外用剤を短期間に使うというのが良いと思います。寛解維持期には長期外用の安全性からタクロリムス軟膏を検討するのもいいと思いますし、先ほどお伝えしたように、デルゴシチニブ軟膏に関してはプロアクティブ療法のエビデンスはまだないのですが、そのような使用法も可能性としては臨床試験のプロファイルから見ても期待できると思います。例えばデュピクセントなどの全身療法の併用にも適していると思います。
質問にあった両者の異なる特徴から使い分けを考えると、タクロリムス軟膏は分子量が大きくて、皮膚バリアが壊れたところのみで経皮吸収が良くなる。一方で皮膚バリア機能が正常なところは経皮吸収が少ない、そういった特徴が良いところだと思います。悪いところのみに薬物が入っていって効いてくれるというイメージです。ですので、体幹とか四肢とか、広範囲にプロアクティブ療法が必要な患者さんにはタクロリムス軟膏の使用が向いていると思います。
一方で欠点としては刺激感が挙げられます。刺激感が気になる患者さんもいます。特に顔面などは刺激をどうしても感じやすいので、最初からデルゴシチニブ軟膏を試すのもいいかもしれません。また、軽度の皮疹の再燃であれば、デルゴシチニブ軟膏を試してみてもいいと思います。あと、dirty neckや眼囲の皮疹に関してはタクロリムス軟膏では過去の報告もありますので、検討に値すると思います。残念ながらデルゴシチニブ軟膏に関してはこういったエビデンス、報告はまだないのですが、機序的に考えても試してみる価値は十分あると思います。ただ、もちろん私が今お話ししていることはエビデンスや報告がないことですので、今後にその報告の蓄積というものが期待されます。
タクロリムス軟膏とデルゴシチニブ軟膏は作用機序も異なりますので、いずれかの有効性が乏しい場合や、またプロアクティブ療法をしているにもかかわらず効果がない場合は、もう一方の薬剤を試してみるのもいいかと思います。
池田 タクロリムス軟膏に関しては発売からだいぶ時間もたっていますし、使用経験も含めてエビデンスが蓄積されているけれども、今後またデルゴシチニブ軟膏のエビデンスが集積されると使い方も広がっていくということでしょうか。
鎌田 おっしゃるとおりだと思います。
池田 どうもありがとうございました。
アトピー性皮膚炎の外用剤
帝京大学医学部皮膚科学講座准教授
鎌田 昌洋 先生
(聞き手池田 志斈先生)
アトピー性皮膚炎の外用剤(タクロリムス・デルゴシチニブなど)についてご教示ください。
北海道開業医