池脇
睡眠時の随伴症について、具体的な質問なのですが、どう考えたらいいでしょう。
栗山
発症年齢を考えますと、レム睡眠行動障害という病気をまず考えるべきかと思います。レム睡眠行動障害はこのぐらいの年代に初発することが多くて、この症例にもあるように、大声を出したり、典型的には悪い夢を見て、実際に、夢内容に影響された行動をしてしまうことが特徴です。ただ、この症例には、立ち上がって動き回るとありますが、レム睡眠行動障害では立ち上がるという行動は症状が発展してから生じることが多く、発症初期はベッドの上で行動するようなかたちが多いかと思います。
池脇
レム睡眠行動障害は、自分自身、あるいは一緒に寝ている方を傷つけるぐらいに激しい行動を起こすと聞いていますが、大声というちょっと激しい局面もある一方で、立ち上がって歩くという、激しい行動とは違う行動もしています。年齢的にはレム睡眠行動障害ということですが、こういうときに考えなければいけない、あるいは鑑別に上がってくる疾患はどうでしょうか。
栗山
もう一つ考えるべき疾患としては睡眠時遊行症と呼ばれる病気です。これはレム睡眠行動障害と違って、より深い睡眠にあるのに起きているのと似た行動をしてしまう病気で、表現型としてはすごく似ていますが、はっきりと起きている状態ではないのです。なので、周りから声をかけたとしても反応が鈍い。そして、ゆっくりとした動きをするのが特徴になります。
池脇
先生は、50歳だからレム睡眠行動障害を考えるとおっしゃいましたが、睡眠時遊行症の好発年齢を教えてください。
栗山
比較的若年で、お子さんに多い病気だといわれています。ただ、このぐらいの年代の方にはないかといわれると、そうではなくて、時折見られます。
池脇
きちんと線引きするのはなかなか難しいようですね。一方でこの2つを見ると、レム睡眠行動障害はまさにレム睡眠時で、睡眠時遊行症というのはもっと深い、ノンレムのときということで、同じ睡眠の間でも起こるタイミングが違うそうですが、どうなのでしょうか。
栗山
おっしゃるとおりです。レム睡眠行動障害の多くは睡眠相の後半、特に明け方近く、レム睡眠の出現量が多くなってくる時間帯に多いといわれています。一方で睡眠時遊行症は深い睡眠から起きてきますので、比較的睡眠前半、寝てから2時間ぐらいの間に出現することが多いといえます。
池脇
質問には書いていませんが、睡眠のどのあたりかというのも鑑別の手がかりになりますね。
栗山
おっしゃるとおりです。もう1点、この行動を起こした後に目が覚めるかどうかも鑑別のポイントです。レム睡眠行動障害の場合は比較的激しい動きをした後に声をかけたりするとぱっと目を覚まして、今までどんな夢を見ていたか、その夢の中でどういう行動をしたのかという連続性を話せることが多いのですが、睡眠時遊行症の場合は起こしてもなかなか起きなくて、その後、ぱたっと寝てしまって、翌朝起きても、何をしていたか覚えていないというようなパターンが非常に多いです。
池脇
この方の場合、朝起床時にはそういうことの記憶が全くないので、どちらかというと睡眠時遊行症に近いという印象でしょうか。
栗山
おっしゃるとおりで、どちらの疾患か非常に迷うところです。
池脇
睡眠時遊行症かどうかははっきりしませんが、子どもさんに多いというのは、ある意味深い睡眠から覚醒にいくという、睡眠の機能が十分に備わっていないときに起こりやすくて、成長とともにだんだんとそういうものがなくなってくるという理解でよいのでしょうか。
栗山
そのとおりだと思います。したがって、青年期以降に起こってくるパターンとしては、何らかの睡眠を妨げるような要素がある場合です。この方もそうですが、お酒などは発症のリスクになりますし、もう一つ睡眠時無呼吸症と呼ばれるような、突然睡眠を分断するような要素がある場合には睡眠時遊行症が出てきやすいといわれています。
池脇
今回の質問は、先生の印象ですと、第一にレム睡眠行動障害、場合によって睡眠時遊行症もということですが、検査はどのように進めていくのでしょうか。
栗山
睡眠ポリグラフ検査というものを受けていただくと、ある程度わかるのではないかと思います。これによって、深い睡眠から覚醒のパターンがあるのか、それともレム睡眠からの覚醒パターンなのかをある程度見分けることができます。
池脇
確かにノンレム睡眠とレム睡眠の、どちらにこれが関わっているかわかるだけでも、どちらの疾患かがだいぶはっきりしてきますね。
栗山
おっしゃるとおりです。
池脇
それ以外の画像とか、そういった検査は特には入ってこないのですね。
栗山
現象として見るのであれば、例えばレム睡眠行動障害というのはシヌクレイノパチーという疾患の前駆症状として出てくることが多いといわれているので、画像診断等でそういった病気が隠れていないかを調べるのは一つの手かと思います。
池脇
この方の場合、治療が必要かどうかわかりませんが、レム睡眠行動障害、あるいは睡眠時遊行症、それぞれの対処の仕方はいかがでしょう。
栗山
対処法はどちらもなかなか難しいのが現実です。レム睡眠行動障害の場合はクロナゼパムというベンゾジアゼピン系の薬がある程度対症療法として有効だといわれていますが、進行性の疾患、先ほど申しましたシヌクレイノパチーのような疾患があった場合には、進行を止めることはなかなか難しいといえます。睡眠時遊行症の場合はなかなかこれという治療薬はなくて、一番大事なのは、この方も飲酒されていますけれども、そういった発症促進因子をやめる、なるべく控えることが一番大事なポイントになってくると思います。
池脇
繰り返しになりますが、レム睡眠行動障害の場合には本当に夢で体も一緒に動いてしまって、激しく体を使って自分あるいは周りの人を傷つけるということからすると、できるだけ防がないといけないことからそれなりの対処が必要ですが、睡眠時遊行症は確かに歩いたりするけれども、自分あるいは周りを傷つける危険性はそれほどないのでしょうか。
栗山
これは非常に難しい問題で、場合によっては比較的複雑な動きをするパターンもあります。睡眠時遊行症の一つの型としては、睡眠時摂食障害という亜型もあって、この場合は無意識に夜中に食べてしまう行動が出てくると、それこそメタボリックシンドロームのような、そういった疾患の危険因子になることもあります。全くフリーで見ていればいいというわけでもないと思います。
池脇
できるだけそういうことが起こらないような状況というのは、例えば睡眠時遊行症ですと、カフェインや、あるいは運動で起こりやすいと聞きますが、そういう条件は聞いたうえでの指導になるのでしょうか。
栗山
おっしゃるとおりです。非常に重要なことだと思います。
池脇
高齢の方はいろいろな薬をのまれている場合もありますが、睡眠時の随伴症と関係する薬はありますか。
栗山
ベンゾジアゼピン系の薬は治療にも使われますが、発症危険因子にもなるといわれていますし、そのほかの薬剤性に発症するようなケースの報告はぼちぼちありますが、どの薬と特定するのは非常に難しいのです。なので、先生がおっしゃるようなポリファーマシーの状態にある方の場合は、できるだけ必要性の少ない薬を抜いていくというやり方で調べていくしかない、難しい状況といえるかと思います。
池脇
ありがとうございました。