池脇
瀧藤先生、在宅診療における経口あるいは注射を使った抗菌薬治療について教えてくださいということです。おそらく質問された医師自身が在宅診療で抗菌薬治療をしていくなかで、何が正しいやり方なのか、ちょっと疑問を感じて質問してこられたように想像しています。先生は医師ではなくて、医師を近くで支える薬剤師として、在宅の患者さんに対する抗菌薬治療の経験が豊富だと思いますが、最近こういう在宅の患者さんに対する抗菌薬治療は増えているのでしょうか。
瀧藤
高齢者の発熱はよくある話ですので、非常に苦労されているのはこちらも身にしみて感じています。高齢者は身体所見が現れにくかったり、訴えが非常に乏しかったりすることもあるので、一番難しいのは感染フォーカスがわからないというところで、ご苦労されていらっしゃるのではないかなと推察します。
池脇
在宅の高齢者の感染症は、どういうフォーカス、あるいは原因が多いのでしょうか。イメージ的には高齢者では誤嚥性肺炎、あるいは褥瘡がある方の局所の感染、あとは尿路系が多いかと思うのですが、そういった感染症のフォーカスは傾向があるのでしょうか。
瀧藤
おっしゃるとおりで、呼吸器系、誤嚥性肺炎が多いです。また、皮膚の軟部組織感染症も多いですし、尿路感染症、この3つが非常に多く、そこをどう治療していくかが非常に問題になってきます。
池脇
病院であればレントゲンを撮ったり、痰や尿を取ったりして、ある程度フォーカスを絞りやすいのでしょうけれども、在宅で検査も限られてくるとなると、なかなかフォーカスを決められない。ただ、患者さんを放っておけないという状況に訪問診療された医師が立たされてしまうとなると、抗菌薬の使い方も難しいような気がします。どうでしょうか。
瀧藤
本当に難しくて、感染症のフォーカスがどうしてもわからない場合は、多分皆さんよく使われていると思うのですが、キノロンを処方するのはいたし方ないと思います。抗菌薬適正使用が今、非常に問題になっていますが、そこで大事なのは、わからないときはブロードにいってしまっても仕方ないと思うのですが、わかるときにいかにナロースペクトラムの抗菌薬を使っていくか、これが非常に重要になってくると思います。
池脇
わからないときに経口薬としたらキノロンという手があるけれども、これに頼り過ぎても、あとあと問題が出てくるということでしょうか。
瀧藤
そうですね。スペクトラムが広いということは非常に安心して使えるということです。ただ、それが逆に安心して使えるということからいろいろなところに使い過ぎてしまうと、それが耐性化し、いろいろなものに効くはずだったものが、実は耐性菌で効かなかったということが起こりうると考えられます。いかにそれを耐性化させないように温存していくか、それが非常に重要になってくると思います。
池脇
最初からキノロンに飛びつかないで、もう少し感染症のフォーカスに目を向けたうえで、ある程度ここではないかという確信というか、疑いがあれば、それに沿ったキノロン以外の薬を使うことで、本当に必要なときのためにキノロンを温存できるということですね。
瀧藤
そうですね。フォーカスがわかっている場合にわかりやすいのが、まず蜂窩織炎などの皮膚軟部組織感染症、これは黄色ブドウ球菌やレンサ球菌といったグラム陽性の球菌が基本的な起炎菌になるので、そちらをターゲットに第一世代のセフェムであるセファレキシンなどを使っていっていただくと、ナローに進めることができ、非常に有効かと思います。
池脇
今、蜂窩織炎とおっしゃいましたけれども、先ほど比較的多いものとして挙げた誤嚥性肺炎、尿路感染症、褥瘡に対してそれぞれ先生なりに、推薦する抗菌剤はあるのでしょうか。
瀧藤
褥瘡は基本的には経口の抗菌薬を使用することなく、外用で対応可能です。精製白糖・ポピドンヨード配合軟膏やヨウ素含有軟膏など、感染が多ければそういったもので局所で戦い、広がっていってしまったらデブリドマンをするのがいいかと思います。
池脇
誤嚥性肺炎は、嫌気性菌が多いかと思うのですが、こういう場合はどういった薬がいいのでしょうか。
瀧藤
おっしゃるとおり嫌気性菌が多いといわれているので、アモキシシリン・クラブラン酸になります。ただ、初期の状態ではあまり嫌気性菌をターゲットにしなくてもいいと考える医師もいますので、軽症であればアモキシシリンを使用していただく。また、抗菌薬フリーで経過を見ていただくこともありかもしれません。
池脇
尿路感染症はどのような薬がよいでしょうか。
瀧藤
尿路感染症は基本的に大腸菌が多いので、先ほど話した第一世代のセフェムのセファレキシン、こういったもので十分です。それだとちょっと狭くて心配だという方はST合剤、スルファメトキサゾール・トリメトプリムを選べばいいかと思います。
池脇
在宅の方で普段はきちんと食事もできて、のみ薬ものめるような方も、感染症のときには熱発があったり、食事が取れなかったりして、のみ薬がなかなかのめないような場合、在宅でどこまで治療するのか、難しい感じがしますが、どうでしょう。
瀧藤
非常に難しい問題ですね。在宅で点滴でいけるものとして、人的資源が限られている場合が多いので、1日1回で使用できるものが非常に有効だと思います。第三世代のセフェムのセフトリアキソン、これは非常にスペクトラムも広くて1日1回で使用可能なので有効に使えるかと思います。
池脇
先生は耐性菌を作らないための活動をずっとされてこられましたが、まさにキノロンは安易に使うと耐性化し、その後、治療できる薬がなくなってしまうと、患者さんは致命的な状況に置かれてしまいます。普段からそういったことを念頭に置いて、先生が担当医に対して適正な抗生剤をアドバイスされていると思いますが、具体的にどういうことをされているのでしょうか。
瀧藤
スペクトラムが広いものを使うことの背景には、何と戦っているのかがわからないという不安があると思うのです。そちらを解決するために、検体にグラム染色という検査をしますと、だいたい菌の色と形態から起炎菌が想定できます。その検査を私がして、結果をもとに抗生剤の提案をさせていただきます。例えば大腸菌でしたら「グラム陰性の桿菌が見えるので、大腸菌が疑われます。これでしたら、第一世代のセフェムで十分いけると思います」とお伝えします。
池脇
瀧藤先生がついてくださっている在宅診療の医師は本当に幸運だと思うのですが、そういう医師は通常の状況よりも、より狭い範囲の抗生剤を使うことが可能になるのですね。
瀧藤
そうですね。非常に安心して使っていただけます。
池脇
瀧藤先生のような薬剤師が増えてくれると在宅診療の医師もありがたいと思いますが、そういう動きは今後期待できるのでしょうか。
瀧藤
頑張って広げていこうと思っています。感染症を専門にされている医師はなかなかいらっしゃらないと思いますので、そういうものが専門にできる薬剤師を増やしていくことができたらいいなと思っています。
池脇
今後とも取り組みを広げていただけることを期待しています。ありがとうございます。