齊藤 高尿酸血症・痛風の治療について、先生がなさったランダマイズドコントロールスタディを中心にうかがいます。
薬によって高尿酸血症患者の尿酸値を下げて、イベントを見たということですが、具体的にはどのようなことをしたのでしょうか。
小島 これまで高尿酸血症は、例えば高血圧や糖尿病、虚血性心疾患、腎障害など様々な病態とリンクすることはわかっていたのですが、実際に高尿酸血症がリスクになるかどうかはよくわかっていなかったのです。そこで我々は、フェブキソスタットを投与することによって実際にイベントが減るのかを検討したFREED試験を行いましたので、その紹介をしたいと思います。
齊藤 どういう患者さんが対象になったのでしょうか。
小島 65歳以上の高齢者で高尿酸血症を持った患者さんです。さらにリスクとして高血圧もしくは糖尿病、または腎障害、脳心腎血管疾患の既往を1つ以上持つ患者さんを対象としました。
齊藤 そうなると、やはり男性が多いですか。
小島 男性が7割ぐらいを占めています。
齊藤 そういった患者さんを前向きに2群に割り付けた結果はどうなりましたか。
小島 1年間で1,070例の患者さんを日本全国から登録いただきました。フェブキソスタット群537例と非フェブキソスタット群533例の2群にランダムに割り付けたところ、男性の割合が両群とも69%、年齢はそれぞれ75歳、76歳で両群間に差は見られませんでした。また、動脈硬化に関する危険因子についても両群間で有意差はありませんでした。腎機能についても差はなく、尿中のアルブミンや蛋白についても差は認められませんでした。プライマリーエンドポイントは、イベントとして総死亡、脳血管疾患、非致死性の冠動脈疾患、入院を要する心不全、治療を要する動脈硬化性疾患、腎イベント、心房細動の新規発症の複合エンドポイントとしました。特に腎イベントに関しては、尿中の蛋白、もしくは尿中のアルブミンが2回連続で増えていった症例を腎イベントありとしています。セカンダリーエンドポイントはそれぞれのイベントとし、3年間経過観察しました。
齊藤 3年間の経過観察で、フェブキソスタットの投与量は具体的にはどうしたのでしょうか。
小島 実際には尿酸値を幾つまで下げるとは決めていません。ただ、ガイドラインに従い、尿酸値を6㎎/dL以下にコントロールしていただくようお願いしました。フェブキソスタットの投与法ですが、10㎎から始めて、忍容性を見ながら4週ごとに20㎎、できれば40㎎まで上げていくデザインとしました。
齊藤 非フェブキソスタット群でも尿酸値を下げたのですか。
小島 非フェブキソスタット群はフェブキソスタットを含め、尿酸値を下げる薬は使わないようにしています。ただ、食事や運動で尿酸値を下げるといった積極的なことは行うように指導しました。
齊藤 フェブキソスタット群の尿酸値はどうなったのですか。
小島 両群とも試験開始時の尿酸値は7.5㎎/dLで、フェブキソスタット群は最終的には4.5㎎/dLまで、非フェブキソスタット群は6.8㎎/dLまで低下しました。
齊藤 しっかり下がったのですね。
小島 はい。
齊藤 その間のプライマリーエンドポイントはいかがでしたか。
小島 フェブキソスタット群は非フェブキソスタット群に比べて有意にイベント(プライマリーエンドポイント)の発症を抑えることができ、ハザード比が0.75という結果でした(図1)。
齊藤 有意な差が出たということですね。複合エンドポイントでそういう差が出たということで、個別に見るとどういったポイントがよかったのでしょうか。
小島 セカンダリーエンドポイントとして、それぞれの項目を見ているのですが、有意にイベントを減らしたのが腎イベントでした。具体的には尿中の蛋白、もしくは尿中アルブミンが増えなかった症例がフェブキソスタット群で多かったという結果でした。
齊藤 この研究から尿酸値を下げる目標はどうなるのでしょうか。
小島 尿酸値をどの程度下げたらいいのかについては以前から注目されているところですが、これまでの研究では尿酸値とイベントの関係はJカーブ、もしくはUカーブ現象を呈しています。つまり、尿酸値が高いままだとイベントを発症しやすいのですが、尿酸値が低くてもイベントを発症しやすいのではないかと推測されていました。ただ、これらはすべて観察研究や後ろ向き研究の結果であり、これまで薬を使って尿酸値を下げて前向きに見た研究はなかったので、我々が行ったFREED試験のデータを用いて、サブ解析とはいいながらも前向きに見ているので、実際にどこまで下げたほうがいいのかを検討しました。
その結果、たいへん面白いことに、フェブキソスタットにより尿酸値が5~6㎎/dLにコントロールされた症例は一番イベントを起こしにくく、それよりも尿酸値が高い症例や低い症例ではイベントが有意に多くなり、明らかなJカーブ現象を呈することがわかりました(図2)。
齊藤 ガイドラインでは6㎎/dL以下を目指すということですか。
小島 現在使用されているガイドラインは日本痛風・尿酸核酸学会の編集によるものですが、我々が行ったFREED試験は、高尿酸血症を持つハイリスクの高齢者を対象にしており、尿酸値を6㎎/dL以下にするのは間違いないだろうと考えています。ただ、今回行ったサブ解析の結果より、尿酸値は下げ過ぎないほうがいいと思われます。
齊藤 今回の研究は主に高齢者が対象ですが、もう少し若い人の場合については何かありますか。
小島 前向きに見た研究はないのですが、最近、東京大学から出た論文で、保険データを用いて20~49歳の人たちを対象に検討したところ、尿酸値が4.4㎎/dL未満で心筋梗塞や心不全を起こしにくかったという結果でした。我々の結果と多少異なるのですが、我々の研究はハイリスクである高齢者を対象にしているので、患者さんや病態によって至適尿酸値が違ってくる可能性があります。
齊藤 若い人で高尿酸がある場合にはまず生活習慣の改善を勧めるということですか。
小島 そうですね。まずは生活習慣の改善を図っていただいて、それでもなかなか下がらないときに薬を使うという方向でいいと思います。
齊藤 薬開始についてのタイミングは何かありますか。
小島 痛風の既往があれば尿酸値を薬でコントロールする必要がありますが、既往がなく血清尿酸値が8㎎/dL以上の場合、腎障害、尿路結石、高血圧、糖尿病、虚血性心疾患、メタボリックシンドロームなどの合併症があれば、薬物治療となります。今日はフェブキソスタットの話をしていますが、最近出てきたドチヌラドという薬もしっかり尿酸値を下げるので、そういった薬を使っていただくのがいいかと思います。
齊藤 今日はフェブキソスタットのお話ですが、ドチヌラドとの使い分けは何かありますか。
小島 以前は高尿酸血症の病型分類を行って使っていたところもありますが、最近はそういった縛りがだんだん取れてきています。尿酸値を6㎎/dL以下に下げることができれば、どちらを使ってもいいかと思うのですが、基礎的な研究からドチヌラドはもしかすると炎症を抑えていく可能性が出ており、注目が集まっているところです。
齊藤 炎症を抑えるという意味で古い薬のコルヒチンでも最近データがあるそうですね。
小島 海外から大規模臨床研究結果が出ています。動脈硬化という病気はコレステロールのみならず、炎症も深く関係していることがわかってきています。コルヒチンもインフラマゾームの活性化を抑制し炎症を抑える薬なのですが、コルヒチンを投与する群と投与しない群で比べたときに、投与した群は明らかに心血管イベントも抑えたというCOLCOT研究が発表されています。
齊藤 昔は痛風で少量のコルヒチンをずっとのんでいる患者さんがいましたが、それがまたよみがえったようなものなのでしょうか。
小島 そうですね。痛風発作を抑えるのみならず、ハードエンドポイントも抑えていく可能性が出てきています。
齊藤 どうもありがとうございました。
尿酸値を診る(Ⅲ)
高尿酸血症・痛風とその治療
桜十字八代リハビリテーション病院副院長・熊本大学客員教授
小島 淳 先生
(聞き手齊藤 郁夫先生)