大西 痛風発作の鑑別診断ですが、まず典型的には足の親指のつけ根が赤く腫れてすごく痛いと痛風だということがすぐわかるのですが、ほかの部位が痛くなったり、あまり典型的でない例もいろいろあるかと思います。先生はまず整形外科として、どのように痛風発作を診断されていますか。
河野 痛風の方はキャラクターに特徴があって、メタボリックシンドロームにも合併していることが多いので、体型などを見るだけで何となく痛風っぽいなとわかることが多いのです。足の親指のつけ根のMTP関節というところ、多くはそこに出るのですが、尿酸の結晶化したものが関節炎のきっかけになるので、温度が低いところに起こるのです。ですので、足の親指だけではなくて足部、足関節とか、意外と膝も多く、そういう下肢に多いという特徴があります。単関節炎で発症することが多いので、体型や、もちろん検査をして病状を把握するのですが、何となく太めの方で、糖尿病などを合併していそうな雰囲気を持っている方が足が腫れてきたというと「痛風かな」と、そんな印象を持ちます。
大西 典型的でないとちょっと迷う場合も時々あるかと思うのですが、そうした場合、どのようにしたらよいですか。
河野 まず発症の経過、きちんと病歴を聞きます。例えば前の日にすごくお酒を飲んだとか、脱水になるような運動をしたとか、要するに血中の尿酸値が大きく変動するような行動があって、その後徐々に、むずむずした感じからだんだん激痛に変わってきたという経過で関節が腫れていれば、まあ痛風かという印象を持ちます。
ただ、もちろん臨床症状だけでは診断できません。決め手は血中の高尿酸血症ですが、意外と尿酸値が高くないこともあるのです。ですから、典型的なものはどなたでも診断がつくのですが、紛らわしいものはほかの関節炎を起こす疾患との鑑別を念頭に置かないと、大きく見誤ることがあります。
大西 例えばどういう疾患を考えたらよいでしょうか。整形外科的な疾患が多いと思うのですが。
河野 今申し上げたように痛風はメタボリックシンドロームの代表的な疾患ですので、糖尿病などを合併していることもあります。一番気をつけなければいけないのは、対応の遅れが運命を変えてしまう感染です。炎症反応が高い、尿酸値も高い、だからこの人は痛風だと決め込んで、実は感染だった場合には大きな治療開始の遅延につながるので、やはり感染を常に念頭に置くことが大事です。
大西 例えば感染の場合、どのような症状が主に出てきますか。
河野 感染は起炎菌によって症状が違います。明らかに関節が腫れていて、関節水症といって中に水がたまっているような状態のときは、まず必ずそれを採取し培養検査に出します。その中の結晶の検査をすると、痛風の場合は尿酸ナトリウムの結晶がある。もう一つ大事な鑑別診断に偽の痛風と書いて偽痛風というものがあるのですが、偽痛風の場合にはピロリン酸カルシウム結晶が出てきます。少しでも迷って化膿性関節炎の可能性があると思ったら、関節液をきちんと培養検査、結晶の検査を出すのが大事だと思います。
大西 今お話にありました偽痛風ですが、痛風という言葉がついていてなかなか紛らわしいので、ちょっと見逃されがちかなという気もします。そもそも偽痛風というのはどういった疾患なのでしょうか。
河野 これも、面白い病気だと私は思っているのですが、人間の体の中にはピロリン酸カルシウムというのが常に過飽和の状態であるのです。過飽和というのは、本来なら溶けることができない量の濃度のピロリン酸カルシウムが体中にあるのです。何かトリガーがあるとピロリン酸カルシウムの結晶化が始まって、その刺激が非常に強くて炎症を惹起するのです。ですから、偽痛風は膝が主なのですが、実は体中どこでもその結晶化が起こります。もちろん、足部にも起こりますし、手首などにも起こります。有名な病気ではcrowned dens syn dromeといって、頸椎の一番上の部分に突然の頸部痛、頭痛で起こるような偽痛風発作もあります。この偽痛風も常に痛風の鑑別診断に考えなければいけないと思います。
大西 偽痛風の臨床所見がいわゆる痛風と違う点は、どういうところに注目したらよいでしょうか。
河野 例えば足の母指のMTP関節に起こっているのであれば痛風を疑うのですが、一番紛らわしいのは膝です。痛風発作も膝に起こりますし、偽痛風発作も非常に膝が多いのです。例えば偽痛風発作だと、レントゲンを撮れば軟骨の表面にぽつぽつとしたような石灰化が見えますし、先ほど申し上げたように関節液を取ればピロリン酸カルシウム結晶が見えるので、そういうことで鑑別できることもあります。
ただ、偽の痛風という病名がついているように非常に鑑別が難しくて、実は偽痛風か、痛風か、化膿性の関節炎か見分けがつかないこともあるのです。CRPが10、20になって、熱があって関節が腫れているときの鑑別は難しく、最悪に備えることが重要です。治療の遅れが関節機能の廃絶につながってしまうような化膿性膝関節炎を見落とさないことが非常に大事です。膝関節に限らず、足関節もそうですが、とにかく液体の貯留があるときにはまず、抗菌薬の投与の前に検体を取って培養に出すという観点が非常に大事だと思います。
大西 偽痛風の方というのは何かトリガー、引き金のようなものは知られているのでしょうか。
河野 これが本当に何もなくても起こるのです。何もイベントがなくても、先生に今起こってもおかしくない。そういう観点を持っていることが大事で、何か誘因があるから起こると思っていると見逃しがちだと思います。
大西 そうなのですね。わかりました。私の診療の現場で痛風っぽい人がよく来るのですが、整形外科に行くのか、内科に行くのかでよく分かれることがあるのです。内科と整形外科の違いというか、役割とか連携とか、その辺はどのように考えたらよいでしょうか。
河野 痛風は関節炎で症状が出てくるので整形外科を受診することが多いのですが、痛風は高尿酸血症という全身の病気で、痛風を持っている方は血圧が高くて血糖コントロールが悪いという生活習慣病を抱えていることが多いです。トータルに内科医に尿酸値のコントロールなどをしていただいて、どうしても局所の治療が必要なときに整形外科に相談するのが現実的かと思います。
痛風はあくまでも結晶誘発性関節炎です。結晶が炎症を起こして起こる関節炎で、その病態をきちんと理解することが大事です。あくまでも関節炎は痛風の大きな問題の一つの症状なので、痛風はやはり内科医が大きな視野できちんと診るほうがいいと思います。
大西 今、高尿酸血症や痛風の方はかなり増えてきていると聞いています。特にこのコロナ禍でだいぶ増加しているというデータもあるようですが、今後も増えてきて、偽痛風なども増えるような現状もあるのでしょうか。
河野 偽痛風が増えてきているのは単に高齢者が増えているだけだと思います。偽痛風は、高齢になれば増えるという特徴がある。30歳、40歳の方に偽痛風というのはまず考えにくいのです。60、70歳になってくると突然手首が腫れ上がって痛くなる、膝が腫れ上がって痛くなることがあります。すべての診断学に通じますが、高尿酸血症がある方でも偽痛風が起こるので、決めつけないで包括的に診るという内科的な見方が必要だと思います。
大西 以前は痛風は女性患者さんには少なかったように思うのですが、最近増えてきていると聞いています。そのあたりはいかがでしょうか。
河野 生活習慣病ですので、高齢になるといろいろとコントロールが悪くなります。これは私見ですが、腎機能が悪くなれば尿酸の排泄機能が落ちて尿酸値が上がってくるので、その辺が関連しているのかなと。私が若い頃は女性の痛風というのはまずないと言われていたのですが、今はそれなりにいますので、先入観を持ちすぎないことも大事だと思います。
大西 ありがとうございました。
尿酸値を診る(Ⅲ)
痛風発作の鑑別診断
帝京大学整形外科主任教授
河野 博隆 先生
(聞き手大西 真先生)